それがどうした!
『現状報告、広場の戦力は三万前後だよ、パパ』
ペンデリオへ潜入している千代から報告が入る。
千代が連絡を取れる魔道具を生成してくれた。
『それだけじゃない。七絶剣者も全員いる』
一緒に潜入しているローランが続けた。
七絶剣者。
それは西方連合で強大な個の武を持つ者に与えられる称号だ。
その戦力は一人で一個連隊に匹敵すると言われているらしい。
「無双ゲームじゃないんだから三万の敵と七絶剣者の全てを相手に戦う必要は無いね。主力は俺たち引き付けるから、ローランたちは隙を見て、シャルを救い出してくれ」
『分かった』と言い、ローランからの通信は切れた。
「みんな、覚悟はいいかい?」
リントブルムに乗る面々が頷く。
「行くぞ…………!」
俺は通信に使っていた魔道具をカードに戻して、リントブルムに急降下を頼んだ。
現在、リントブルムにはリザ、アイラ、パトラティア、ナターシャが乗っている。
場所はペンデリオの広場の直上。
リントブルムが急降下すると民衆が騒ぎ出した。
覚悟していたが、悲鳴を上げられると嫌な気分になるなぁ。
えーっと、シャルは……いた。
処刑台の上で拘束されているシャルを見つける。
シャルも俺たちに気付き、驚いているようだった。
でも、その表情はすぐに怒りへ変わる。
「なんでここに来たんですかぁ!!!」
俺はシャルが怒鳴ったところを初めて見た。
「私がいつ、助けてなんて言いましたか!!? 迷惑です! 帰ってください!!」
シャルが俺たちを拒絶すると傍にいたアンドリューが笑った。
『おい、聞こえるか!?』
声を拡張する魔道具越しにアンドリューの声が聞こえてきた。
『ハヤテ、お前は仲間を救いに来た英雄気取りかもしれないが、愚妹は自分の身を弁えて、裁きの刃を受け入れる覚悟だ。お前は自分勝手な考えでこの騒動を起こしている! こんなことは止めて、すぐに投降しろ!』
「好き勝手言いおって……あやつがアンドリューか」
アイラが怒りのこもった口調で言う。
俺も拡声器のような魔道具を取り出した。
『アンドリュー陛下、あんたの言う通りだ』
まず、俺が宣言するとアンドリューは何度も見た、あの嫌な笑みを浮かべる。
『俺はシャルがどうされたいか、そんなことは考えていない。俺がやりたいことをする。だから、シャルを助ける』
『は?』
『俺はあんたの言う通り自分勝手で、我儘だ。で、今、自分にとって気に入らないことが起きようとしている。だから、自分の満足いく結果にする為、行動する』
『おい、待て。何を言っている!? おい、あの不愉快な反乱者を討ち取れ!』
アンドリューが指示をすると無数の砲撃がリントブルムへ放たれた。
しかし、一発もリントブルムには届かない。
リザの矢とパトラティアの遠距離魔法が砲撃を打ち落とす。
それでも向かってきた砲撃はリントブルムの新しい力『雷撃』によって、迎撃された。
『ほう、ローランの力は使い勝手がいいな』
満足そうに言う。
リンドブルムは巨躯ゆえに小回りが利かない。
その為、今までは攻撃を避けられずに受けていた。
しかし、ローランのカードの効果で小技を手に入れた。
「リザ、やるぞ」とアイラ。
その言葉にリザが頷き、二人は砲撃を行った砲台へ攻撃を仕掛ける。
リザとアイラの攻撃を受けた砲台のいくつかが完全に破壊された。
「人間共、次、不用意な攻撃をしたら、殺すぞ」
アイラの声はそこまで大きくなかったはずだ。
だが、その威圧的な声に攻撃はピタリと止まる。
『邪魔が入った。さて、俺としてはあまり手荒なことはしたくない。大人しくシャルを解放し、俺が連れ去るのを見逃してくれないか?』
俺の言葉を聞いたアンドリューが狂ったように笑う。
『馬鹿にするなよ。爵位も持たない下賤の者が! 少しぐらい戦力を持っているからなんだ! ここに集結している戦力は兵士二万! 竜騎兵五千!! それに七絶剣者!!! これだけ圧倒的な戦力を有している! これが西方連合だ。お前はたまたま魔王を討ち取ったに過ぎない。魔王と百年戦ったは西方連合だ! あれを見ろ!』
アンドリューが指差したのは西方連合が成立した時の五人の王の石像だった。
『あの方々が成立させた西方連合! 西方連合の象徴! その歴史と権威と力の前ではお前たちなど取るに足らない存在だ!』
俺は巨大な人の像が嫌いだ。
もし、まともな人なら自分の巨大な像なんて作ろうとしない。
でも、そうか、あの石像が西方連合の象徴だというなら……
『実は分かりやすい宣戦布告のやり方が分からなくて困っていたんだ』
『は?』
「リザは一番右、アイラは右から二つ目、パトラティアは一番左の石像をお願いできるかな? 後の二つはリンドブルム、頼んだ」
俺が指示を出すと三人とリンドブルムは了承し、攻撃の準備に入る。
『おい、まさか!? やめろ!!』
アンドリューが言うが、俺たちは止まらなかった。
「魔法効果の矢(風)『大乱風』!」
「『波動』!」
「土魔法『砂塵金剛弾』!」
『《風弾》《雷弾》』
五つの攻撃は、五つの石像にそれぞれ直撃する。
石像は音を立てて、崩れた。
あまりの光景に民衆は唖然とし、沈黙する。
『貴様ら、気が狂っているのか!? 西方連合の全てを敵に回して無事に済むとでも思っているのか!?』
アンドリューは蒼白の顔を言う。
『お前たちが宣戦布告したのは歴史と権威のある西ほ…………』
『それがどうした!!!』
拡声器越しに俺が怒鳴るとアンドリューは驚き、尻もちを付く。
あと少しで処刑台から落ちそうになり、慌てて手すりにしがみ付いていた。
『お前たちは俺の仲間を奪った。だから、奪い返すだけだ! 圧倒的な戦力だか、七絶剣者だか知らないが、立ち塞がるなら全てを倒す!』
俺が言うとアンドリューは何かを言い返そうと口をパクパクさせているが、声が出ないようだった。
『……と言うわけだから、シャル』
俺は穏やかな声で言う。
『君がどんなに拒絶しても俺は君を救い出す。……いや、奪い返すよ。でも、出来れば、助けての一言があった方がみんなの士気も上がるかな。だから、いつもみたいな演技でいいから、『助けてください』って、一言、言ってくれないかな?』
俺が頼むとシャルは瞳を閉じた。




