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リスネとアンジェラ

今回はリスネの視点になっております。

ご了承ください。

 私の仲間は行ってしまった。

 引き返せない道を歩き出した。


 私は泣き叫んだ。

 そして、泣き疲れて呆然とする。

 いつの間にか冷たい雨が降り出した。


 冷たい雨は容赦なく私の体温と体力を奪っていく。

 この時期の雨は冷たく体は震えるが、それでも私は動く気力が湧かなかった。


「風邪を引くよ」


 ある人が私に傘を向ける。

 アンジェラさんの声だった。


「ハヤテ君たち行ったんだね」


「バカ……全員、バカ! バカバカバカバカバカ!!! 西方連合と戦ったら、無事じゃ済まないのに、なんでみんな行っちゃうの!」


「仲間の為だろ。………………追い打ちで悪いけど、残念な知らせだよ。西方連合はレイドアの冒険者の引き抜きを正式に通達してきた」


「………………」


「勇獅子、赤の魔術師、銀狼、そして、ミストローン…………他にも金階級の冒険者が属しているパーティは片っ端から、引っこ抜かれるね。これだけの冒険者を失えば、レイドアとその周辺の村や町は魔物の対処が出来なくなる。独立都市レイドアはおしまいだ」


「………………」


 なんでこんなに悪いことが続くの?

 私が築き上げたもの、大切な人たち、その全てが無くなってしまう。


「あんたはそうやって泣き崩れているだけかい? あたしに『ギルドを変える』って、啖呵を切った勇ましいあんたはどこに行ったんだい?」


「私にどうしろって言うんですか?」


 誰も私の説得を聞いてくれない。

 西方連合に無視されて、ハヤテさんたちには謝られて…………


「リスネ、このレイドアの歴史を知っているかい?」


 アンジェラさんは私の問いかけを無視して、そんなことを言う。


「元々は西方連合内の権力闘争に負けた没落貴族や将軍が集まって作った街、ですよね?」


「そうさ。だから元々、西方連合に対して良い感情を持っていない。今までは支援があったから、大人しくしていたがね」


「何が言いたいんですか?」


「レイドアは西方連合からの独立を宣言するのさ」


「!?」


 私はハヤテさんたちが出て行ってしまったショックでおかしくなってしまったのだろうか?

 今、アンジェラさんはなんて言ったの?


「すでにレイドアの有力者たちには話を通してある」


 でも、アンジェラさんの言葉は現実らしい。


「待ってください。そんなことを勝手に決めて、街の人たちは…………!?」


 俯いていた顔を上げる。

 そこにいたのはアンジェラさんだけじゃなかった。


「ハヤテさんたちを簡単に諦めるなんて、リスネさんらしくないぞ」

 ヒルデさんが私を励ます。


「まったく、私は酒の飲んでゆっくり暮らしたいのに騎士なんて冗談じゃない。それにハヤテ君たちがいないと私の仕事が増えて困る」

 エドワーズさんは苦笑していた。


「俺たち、リスネさんに感謝しているんです! 力になりたいです」

 カーラーさんが声を張る。


 勇獅子、赤の魔術師、銀狼、その他、多くの冒険者がいた。

 それだけじゃない。

 商店の店主に、職人に、この街を支え、この街で生きている人たちが集まっている。


「みんなどうして?」


「こんな朝っぱらから、大泣きする声がしたら、駆け付けたくもなるさ」


 誰かが言った。


「諸君、昨日も話したが、西方連合は私たちに理不尽な要求をしてきた。受け入れれば、さらに要求をしてくるだろう。このまま、この街が食い荒らされて良いのか!?」


 アンジェラさんの言葉に、

「良いわけがないだろ!」

という声がいくつも聞こえた。


「私たちは独立する!」


 アンジェラさんはもう一度、宣言する。


「待ってください! 何を馬鹿なことを言っているんですか? 西方連合が黙っていません!」


「そうだろうね。私たちだけで独立戦争を始めてもすぐに鎮圧されてしまう。万が一にも勝ち目はない。だから、あたしたちはハヤテ君たちを利用するのさ。あたしはろくでもない人間だ。利用できるものは何でも利用する」


 アンジェラさんは笑う。

 私はアンジェラさんが言いたいことが分かった。


 私は体に力を入れ直し、立ち上がる。


 雨は止み、雲間から朝の陽ざしが街を照らす。


「私、絶対にハヤテさんたちを連れ戻します。もちろん、シャルロッテ様を救出した後になりますけど」


 私が言うとアンジェラさんは安心したようだった。


「頼んだよ。()()()()は任せな」


 アンジェラさんの言葉に頷き、私は屋敷へ走った。



「まったく…………戻ってくる気が無いとはいえ、不用心だわ」


 屋敷の鍵は開きっぱなしだった。


 私は自分の部屋へ行き、最低限のモノを鞄へ詰める。

 そして、何かを食べようと厨房へ行こうとした時だった。


「これは…………」


 食堂の机の上にミストローンのバッジと私宛の手紙が置いてあった。


「頭にくるわ。私だってミストローンの一員じゃないの? 私抜きで全部、話を進めちゃって…………!」


 私はハヤテさんの手紙の内容を確認せずに破って、ゴミ箱へ捨てた。

 そして、ミストローンのバッジを鞄へしまう。


「眼を付けた冒険者を、好きなった人を、親友を、仲間を、私が簡単に手放すと思わないでくれるかしら!」


 私は屋敷を飛び出した。

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