二度目の帰還
突発的に発生したオーガの討伐で俺の出る幕はなかった。
「新しい刀はどうだった?」
「どちらもとっても良い刀です。でも、私が未熟なせいでまだ使いこなせていないですね」
香は苦笑する。
顔には疲労の色が隠せなかった。
香のスタミナでも新しい二本の刀を扱うのには大変なようだ。
それでも使いこなせない状態でオーガの群れを狩るとは頼もしい。
「あ、あの!」
カーラー君が声を掛ける。
「ありがとうございました。先日はすいませんでした」
頭を下げる。
俺はカーラー君の態度の変わりようにちょっと驚く。
「どうしたんですか?」
「いや、そんなに素直なお礼を言われると思わなかったからね」
「命を救ってもらったのだから当然でしょう」
この前、偉そうに説教したのを反省した方が良いかもしれない。
思ったより悪い子たちじゃなさそうだ。
酒場の時だって、苦労をしてなさそうな銅階級のおっさんが美少女二人と楽しそうに酒を飲んでいる。
そう思われたなら、突っ掛かってきた気持ちも少しだけ分かる。
自分たちは努力して、銀や金階級になったのに銅階級のおっさんが豪遊していたら、気分は悪い。
で、俺(自体はそんなに強くないけど)に実力があることが分かったから、態度が変わった。
ただそれだけのことだ。
一人を除いでは。
「香は昔のことを気にするような子じゃないよ」
「べ、別に私は何も言ってないわよ!」
香に意地悪をしていた少女、フレータが言う。
彼女が香に意地悪をしていた理由を聞くつもりはない。
「君がなぜ香に意地悪をしていたか、分からない。でも、人に意地悪をして良くなること、得をすることはないから、それをよく考えてみることだね」
「………………」
フレータは何も言わなかった。
どう受け取るかは彼女に任せるしかない。
人間を根本から変えるのは容易なことじゃない。
そんなことは俺に出来ない。
だから彼女次第だ。
「でも、なんでオーガの群れなんかを相手にしていたんだい?」
カーラー君に聞く。
「それは…………」
カーラー君が事情を説明してくれた。
元々はこの近くの集落に出た大狼の討伐クエストを受けたが、その途中でオーガの群れに出くわしたらしい。
「この辺りはオーガなんていなかったのに集団に出くわすなんてどうしてだ、って思いました」
もしかしたら、これも先日討伐したドレイクの影響かもしれない。
なら、ギルドが動いているはずだ。
出来るだけ早く出現する魔物の変動が分かれば幸いだ。
「俺たちはこれで失礼するよ」
カーラー君たちに告げて、再びワイバーンで浮上した。
念の為、周囲を『黒鳥の群れ』に探らせたが、オーガの群れ以上の異変はなかった。
それが分かった時点で、改めてレイドアに帰還する進路を取った。。
「さて、今日は疲れたし、酒場でご飯を食べたら、宿舎でゆっくり休もうか」
リザと香は同意する。
というわけで、いつもの酒場に行く。
「あら、お久しぶり」
リスネさんが出迎えてくれた。
「うまく行ったみたいね」
リスネさんは香の刀を見ながら、言う。
「リスネさんのおかげだよ。これ、お土産ね。トレック村名産のお酒」
「気が利くわね。ドワーフが作るお酒って美味しいのよね。今度、二人でどう? 大人同士の方がハヤテさんもお酒が飲みやすいんじゃないの?」
それに関しては同意せざる負えない。
リザは毒への耐性が強すぎて、いくら飲んでも酔わない。
香の方はちゃんと見ていないとすぐに悪酔いするから、俺が酔えない。
「うれしい誘いだ。今度………」
途中でリザと香が俺の両腕を片方ずつ掴んだ。
「ハヤテを誘惑するな」
「ギルド嬢が一冒険者に深入りしないでください」
あー、人生二度目のモテ期だな。
「はいはい、取ったりしませんよ。ご注文は何にしますか?」
「旨い肉!」
「お酒とそれに合う食べ物をお願いします」
うちの女の子たちは本当に欲望に素直だな。
「今回の件は本当にありがとう」
料理の持ってきた時、リスネさんに言う。
「いえいえ、これでギルドの戦力が上がれば、私にとっても大きな利益だわ。で、モノは相談なのだけれど、明日、ギルドに来てくれないかしら?」
「別にいいけど、何か特別なクエスト?」
「察しが良くて助かる。まずは話を聞いてくれればいいわ。受けるかは、それから決めてもらって構わない。結構、面倒な話なのよ…………」
「分かった。明日、なるべく早い時間に行くよ」
「ありがと。こんな話をしたお詫びに一杯は私が奢るわね」
さて、次にやることも出来たみたいだ。
次の日にギルドに行くとリスネさんが出迎えてくれた。
「早くて助かるわ、ハヤテさん」
リスネさんから赤紙を受け取った。
それはクエスト受注書だが、オーガ討伐の時にはこんな色ではなかった。
これが特別クエストの証明というわけか。
で、その最初の一文、見出しには『ロキア王国シャルロット王女の奪還』と書かれていた。
王女の奪還だから特別クエストなのかと納得しかけた時、続く文章には…………
『竜使いのアイラ及び、竜人族との交戦の可能性あり』、と記載されていた。
嫌な予感がした。
「リスネさん、この『竜使いのアイラ』っていうのは人間ですか? 亜人ですか?」
彼女は首を横に振る。
「違うわ。『竜使いのアイラ』は魔王四臣の一人。魔人よ」
俺はこの世界に来て、魔物とは何度も戦った。
しかし、魔人とはまだ会ったことがなかった。
駄女神の言っていた世界を救うことは俺の中ではまだイメージできていない。
こんな形で魔人、魔王と接触する機会が来るとは思わなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。




