プロローグ(後編)
気が付くと一面が真っ白の殺風景な場所にいた。
「ここはどこだ? 俺は確かに撃たれて…………」
胸を確認するが、銃創はない。
血も出ていなかった。
「はい、撃たれて、あなたは死にました」
見上げると神々しい女性が空中に浮いている。
「女神?」
女性は俺の目の前に着地する。
「理解が早くて助かります。結城ハヤテ。あなたは死んでしまいました。そこであなたには二つの選択肢が用意されています。天国に行き、輪廻転生を待つか。それとも私と契約し、異世界転生を選ぶかです」
「あっ、じゃあ、輪廻転生でお願いします」
「!?」
言った瞬間、女神は俺に詰め寄る。
「ちょっと!? ここは異世界転生を選ぶところでしょ!?」
あっ、神々しさが消えた。
「私と契約すれば、チート能力で俺TUEEEが出来るのよ!? 富、権力、名声、なんでも手に入るのよ! 酒池肉林も可能! どう最高じゃない!!?」
なんか、胡散臭い女神だなぁ…………それに女神が酒池肉林を提案って、どうなのか?
「だって、いくらチート能力があったって、敵が強かったらどうしようもないでしょ。ファンタジーな世界に飛ばされて苦しむより平和な世界にいた方が良いですよ。あっ、輪廻転生先は日本でお願いしますね」
「なんでもう輪廻転生を決めてるの!? ねぇ、お願い、私、次に世界を救うのに失敗したら、女神から降格になっちゃうの! せっかく運良く女神になったのに…………私はこの地位にしがみつきたいのよ!」
随分と俗っぽい女神だな…………。
「…………じゃあ、チートってどの程度まで大丈夫なんですか?」
「ふふん、何でもありよ。不老不死だったり、伝説の武器だったり、単純な身体能力強化だったり、超絶魔法だったり、想像上のアイテムだったり、とにかく何でもありよ!」
「じゃあ、デ○ノートとデメリット無しの死神の眼をください」
「分かった。じゃあ、今すぐにデ○ノートを…………って、そんなもの用意できるか! 女神に死神のアイテムを求めるな! 第一、死神だってそんなアイテム、持ってないわ!」
この女神(仮)、リアクション芸人みたいになってきたな。
なんでも、って言ったのは嘘かよ。
「言っとくけど、魔王を私は直接倒せないから、倒せたら、自分でやっているわよ。それが出来ないから、あなたのような稀代の英雄を頼っているのよ」
なんだよ、自分の力の範疇を超えると対処できない、って何でもできるわけじゃないじゃん。
自分の力量の範疇って、どっかの七つの球を集めて現れる神龍みたいな力…………んっ、稀代の英雄?
「あの、俺が英雄ってどういうことなんですか?」
「またまた、ご謙遜を。あなたって世界一位なんでしょ?」
「はい、『ミストローン』っていうカードゲームで世界一位のランカーで、今日、世界チャンピオンにもなりましたけど…………」
「…………えっ?」
「だから、カードゲームですって。知りませんか?」
その瞬間、女神の顔が絶望に変わるのが分かった。
よし、耳を塞いでおこう。
「ああああああああああああ! あっっっっっのクソババ! 私を騙したな!!!」
もうこれ、女神の面影ないや。
「何があったか、聞いてもいいですか?」
「救世主候補を探している時、別の女神が私にあなたを紹介してきたのよ。あなたのことを世界一位の猛者だって! だから、私が契約しようとしていた別の救世主候補を代わりに渡したの!」
「ちなみに代わりに渡した救世主って?」
「えーっと、ナポレオンとか言ってたかしら? それなりに優秀そうだったんだけれど、ここ一番の戦いに負けて、最後はどっかの孤島で死んじゃったらしいから、いまいちかな~~って思っていたのよ」
…………無知って怖いな。完全に騙されている。この駄女神、稀代の天才のナポレオンと俺を交換したのか。
なんだか子供の頃、騙されて、キラキラ光っている弱いカードと光ってない強いカードを交換した時のことを思い出すなぁ。
「じゃあ、誤解も解けて、俺は役立たずなので輪廻転生の準備をしてもらっていいですか?」
「駄目よ」
駄女神が泣きながら言う。
「だって、もうあなたを異世界転生させる手続きは終わっちゃっているもの」
「は? なんで??」
「だって、世界一位なんて肩書を他の神や女神が放っておかないと思ったから、既成事実を先に作っちゃえばいいよねって思って…………」
「あー、すいません、チート能力何にするか決めました。目の前の駄女神を消滅させる魔法を下さい」
「それって私への殺意が出すぎじゃない!? ねぇ、お願いします。世界を救ってください。なんでもしますから…………!」
駄女神が足にしがみ付いた。
「ああ、もう、分かりました! 異世界転生をするから、ちょっと考えさせてください!」
「ありがとうございます。あなたは神様です!」
駄女神が土下座した。
神はあんただろ、この駄女神!
さて、何をお願いするべきなんだ?
いや、待てよ…………
「あの、あなた自身を異世界に連れて行くっていうのはダメなんですか?」
そんなアニメがあった気がする。というより、昔のゲームでもパーティに女神とか加わる奴はあった。
この駄女神、頭は弱そうだけどスペックは高いだろう。
この人を連れて行けば、何とかなる気がする。
「駄目です」ときっぱり断られてしまった。
「以前は出来たんだけど、救世主と一緒に異世界に行ったまま、世界を救わずに遊び惚ける駄神、駄女神が多すぎて、禁止になったのよ」
酷い神様たちだな。
「私だって、世界を救うふりしてチート権限で豪遊したいのだけれどね」
お前を含めてな。
「じゃあ、もう少し考えさせてください」
「ちょっと早くしてくれない。私、暇じゃ…………」
「輪廻転生…………」
「はい、何時間だって待たせて頂きます! 何かお飲み物でもお持ちしましょうか!?」
「…………まったく」
さて、どんな能力があれば、異世界を生き残れる?
不老不死? いやいや、敵が強ければ永遠と殺されるだけだ。
伝説の武器? んー、もし武器が破損したり、喪失した時点で詰みそうだ。
単純な身体能力強化? 敵の強さが分からないのにそれをやって意味があるのか?
それにこの駄女神の能力では魔王には勝てないと言っていた。
なら、その程度の身体強化や勝てるか怪しい。
それに俺は戦闘に関しては素人だ。
チート能力があってもいきなり、戦えるとは思えない。
出来れば、俺自身が戦うよりも、ポ○モンとかデ○モンみたいにモンスターに戦ってもらう方が理想かもしれない。
そうなると想像上のアイテムか…………
「想像上のアイテムってどの辺りまで作れるんですか?」
「あなたが提案してくれないと出来るか、出来ないか分からないわ。さっきのデ○ノート級のチートは無理よ」
「なら、召喚盤はどうですか?」
「召喚盤?」
「俺が子供の頃、見ていたカードバトルアニメに出てきたアイテムなんです。モンスターが立体映像になるんだ。で、それを立体映像じゃなくて、実体にしてほしいんですけど……」
「なるほど召喚サークルの小型版みたいなものね。それくらいなら可能よ」
「それで召喚できるモンスターは『ミストローン』のモンスターに出来ますか?」
ミストローンは世界各地の神話上の神や怪物をモチーフにしている。俺の世界の幻想上の戦力を全て持っていく考えだ。
そんな戦力を持っていければ、さすがに無双できるだろう。
あとはそれが可能かだが…………
「いいわよ」
女神はあっさりと了承した。
「それと召喚盤は任意で展開できるのはもちろん、俺に危機が迫った時にも展開できるようにしてくれませんか? 普段は異空間にある状態が望ましいです。あと召喚するモンスターカードは俺がデッキからドローすれば、望んだモンスターを引けるようにしてほしいです」
こうすれば、喪失することはないし、俺は危機を感知できる。
ここ一番で低レベルモンスターを引くことも無くなる。
「注文が多いわね」
「んっ? なにか文句でも?」
「いえ、何もありません! 結城ハヤテ様!! 召喚盤の方を用意させていただきます! …………それからあなたには言語の理解と身体強化を付属されるわ。でも、どちらも補佐的なものなので、あまり期待しないでね。言語に関しては知能レベルが同等の者の言葉のみ理解が出来るわ。身体強化は本当に微々たるものでこれから行く世界の人族より少し強い程度と認識してね」
なるほど、それはありがたい。
特に言葉が理解できるのは助かるな。
「それじゃ召喚盤を生成するわね。左腕は前に出して」
俺が言われた通りに左腕を前に出すと女神様が両手を翳す。
強い光が発生し、それが止むと俺の左腕にはアニメで見た『召喚盤』を装備されていた。
「収納しろ、って念じてみて」
女神様の指示に従い、「収納しろ」と念じる。
すると『召喚盤』は消えた。
「問題ないみたいね。それでは異世界にご案内!」
意識が混濁していく。
こうして俺は異世界へ旅立った。
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