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フィールレイの変化

「上手くいくと良いがの」


 アイラが言う。


「まぁ、そう願うしかないよ」


 俺たちはさらに約二週間、正確には十三日間、この村で待つことになった。


 そして、再びライアンさんたちが現れる。

 今度は前回はいなかった種族が同行していた。

 彼らが恐らく、闘狼人族だろう。

 三角の耳と狼のような尻尾が生えている。


「ハヤテ殿、待たせて申し訳ない。結論からいうと我々は和平の提案を受け入れる」


「そうですか、ありがとうございます」


 その答えに俺は安心する。

 これで西方世界で行われている戦争の全てが完全に終結することになる。


「後は正式な公文書を出す必要があるだろう。パトラティア殿にお願いできるだろうか?」


 この提案に対して、パトラティアは首を横に振った。


「私はすでに退位した身よ。公的には何の権限もないわ。それよりもあなた方が代表として『タオグナ』へいらしてはいかがかしら?」


 それを聞いた闘狼人族がざわつく。


「それは我々を連行するということか?」


 闘狼人族の男がパトラティアを睨みつけた。


「あなたは?」


「闘狼人族族の長、ラウルだ」


「ラウルさん、安心してくれるかしら。私の名誉にかけて、あなたたちを客人として持て成すわ」


 そう言われると闘狼人族族のラウルさんはそれ以上、追及することはなかった。

 もとより、獣人連合に戦争の継続は不可能であり、さらに王描人族も停戦を望んだので従うしかなかったのだろう。


 ライアンさんの娘、ライリーさんは今回も来ていたが、前回のように俺たちに食いつくことはしなかった。


 俺たちはライアンさんたちとタオグナへ行くことが決まる。


 会談が終わり、ライアンさんたちがいなくなった後に、俺は気になることを考えていた。


「ハヤテ、どうした?」


 俺が難しい顔をしていたので、リザが心配する。


「んっ、ちょっとね。実は会談の時、召喚盤が反応した」


 それはすぐに俺の意思で収納したが、どうもライリーさんには恨まれているらしい。


 そのことをアイラにも知らせる。

 ライリーさんの性格を考えると闇討ちはしないだろうけど、また挑んでくる可能性はある。


「そんなことか。心配せんでもあの小猫程度、不意打ちされたとて、遅れは取らんよ。……それよりも儂は闘狼人族の方が心配じゃ。召喚盤が発動したのは、あの小娘に対してではないやもしれんぞ」


「どういうことだい?」


「あの小娘は儂に怯えているようじゃった。敵意を感じんかったよ。だとしたら、闘狼人族を疑うのは当然じゃろ?」


 そういうことか、と納得してしまう。

 確かに徹底抗戦を唱えていた闘狼人族族にはまだ言いたいことがあるだろう。


 このことはパトラティアに知らせた方が良いと思い、情報を共有する。


 その上でパトラティアは、

「いきなり笑いながら、手を取り合うのは難しいわよ。それにタオグナには国内の最精鋭の軍が駐留しているわ。……けど、そうね、警戒はしておくわ」

と言った。


 村を離れる時、ブルーノさんやピュノちゃんたちが見送ってくれた。

 ゾーラもこの村へ残る。

 

「ゾーラ、私たちがいなくなっても愚かなことをするなよ」


「しません。私は元々、殺すのは嫌いですから。農作業は楽しいです。それに風兎人族の人たちはとても働き者です」

 

 ゾーラは笑った。

 上手く風兎人族と打ち解けることが出来たらしい。


「まったく戦闘種族の我々の中にこんな奴がいるなんて…………」


 フィールレイは呆れていたが、俺は戦いを好まない奇妙な竜人に好感が持てた。


「お兄ちゃん、これ持って行って…………」


 ピュノちゃんが籠一杯のカブジンを持ってきた。


「ありがとう。でも、良いのかい?」


「うん、ゾーラさんのおかげで今までよりたくさん採れるようになったの」


 これなら共存は上手くいきそうだ。


「……ゾーラ、お前は凄いかもな」


 フィールレイが呟いた。

 言われたゾーラは驚き、身構えた。


「そう怯えるな。本心から言った。私はお前のように他種族と仲良くなれる自信はない」


「ハヤテさんたちと仲良くやっているように見えますが?」


「それはハヤテたちが変わり者なんだ」


 変わり者って……

 心が広いって言ってほしいな。


「フィールレイ様も出来ますよ」


「私に?」


 フィールレイが驚いた顔をするとゾーラは慌てて、

「出過ぎたことを言いました」

と頭を下げた。


「いや、いい。そうか、私にも出来るか……」


 フィールレイがこんなに穏やかに笑ったところを初めて見た。

 しかし、俺の視線を感じたフィールレイの表情はすぐに引き締まる。


「なんだ?」


「いや、さっきみたいに微笑んでいれば、他種族と交流が出来ると思ってね」


 俺がそう言うとフィールレイはそっぽを向く。


「そんな簡単なことじゃないだろう」


 フィールレイはそう言った。



 最期に俺たちはブルーノさんへ挨拶をする。


「色々とありがとうございました」


 風兎人族のおかげで王描人族とすぐに会うことが出来た。

 交渉がこんなにスムーズに言ったのはブルーノさんたちの功績だ。


「いえ、こちらこそ、色々とありがとうござました」


 ブルーノさんと握手をしてから、俺たちは風兎人の村を出発した。

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