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圧倒的

 俺たちは話し合いを中断して、外の開けた場所へ移動した。


「ライアンさん、止めなくて良いんですか?」


 アイラがライリーさんを殺すことはない。。

 だけど、怪我くらいはするかもしれない。


「そちらが構わないのなら、やらせてやってくれ。あれは俺の若い頃に似て、血気盛んでな。口で言っても納得はしないだろう」


 その言葉から、王描人族も戦闘種族だと理解した。

 それに王描人族の強さに少し興味があるのも事実だ。


「最強種といえ、子供に負けるほど私は弱くない!」


 ライリーさんが構えた。

 特に武器などを使う様子はない。


「素手でアイラと戦うつもりなのか?」


 俺が呟くとリザが「素手じゃない」と言う。


「あいつの体、魔力が充満している。身体能力魔法が得意なんだ。それに両手に集まった魔力の量が異常だ。恐らく…………」


 リザが全てを説明する前にライリーが動いた。

 その拳をアイラが避ける。


 すると避けた先の木が大きく揺れた。


「原理はアイラの『波動砲』に似ている。でも、威力が低い分、速度が速い。それに連射が出来るみたいだ」


 リザがそう説明してくれた。

 アイラは一切手を出さない。


 ライリーの攻撃をひたすら避ける。

 

「ほう、少しはやるようじゃの」


「反撃したらどうだ!? それとも手も足も出ないか!」


 ライリーが吠えるとアイラは笑った。


「では、少しだけ手を出そうかの」


 アイラは踏み込んだ。

 そして、ライリーの首元に爪を立てる。


「…………!?」


「今、おぬしは一回死んだの」

とアイラは勝利宣言をした。


「死んでない! 情けのつもりか!?」


「儂に子猫を虐める趣味はないんじゃよ」


「馬鹿にして!」


 ライリーがまたアイラに攻めかかる。


「物分かりが悪いのぉ……ほれ、ほれ」


 アイラはライリーの右腕と左足を連続して、トン、トンと叩く。


「これで本来なら、首は飛び、右腕と左足は砕けているの。これだけされても、まだ実力差が分からぬか?」


「うるさい……!」


 さすがに魔力を使い過ぎたらしく、ライリーは息が上がっていた。


「まったく分からず屋には少し教育が必要じゃの」


 アイラはライリーの頭を掴んだ。

 ライリーは全く対応できない。


「きゃあぁぁぁ!」


 ライリーが悲鳴を上げ、次の瞬間、地面に倒れ込む。


「おい、アイラ!」


「ハヤテ、心配するな。ほれ、儂がドラズの作った入浴剤でおかしくなった時(※第98部分『洋館事件⑧』参照)、リスネにやったことがあるじゃろ?」


 あっ、リスネさんが気絶したあれか。


「心配せんでも後遺症は残らんよ」


 それは俺ではなく、ライアンさんに言う。


「容赦、かたじけない」


 ライアンさんがアイラに頭を下げた。


「どうじゃ、娘の敵討ちにおぬしが儂へ挑むか?」


「俺は自分の力量を知っているつもりだ。あなたと戦っても時間の無駄だろう。親子揃ってみっともない姿を晒すこともない。…………あなたはそれだけ強いのになぜハヤテ殿と共にいる? それとも俺の見立てが間違っていて、ハヤテ殿は恐ろしく強いのか?」


「いいや、ハヤテはその辺の動物にも負けるくらい弱いぞ」


 アイラが即答する。

 あのさ、事実だけど、そんな直球で言わないでくれるかな!?


「じゃが、一緒にいたいと思える魅力がある。それにおぬしらは何かあるかと疑っているようじゃが、

もしおぬしらのことを無下に扱えば、今度は王描人族の為にハヤテは動くかもしれんぞ」


 勝手を言ってくれるな。


「蛇人族もハヤテ殿、正直、どこまで信頼して良いか判断に迷う。だが、あの竜人族が力以外の方法で

他者と交流を持っているのは事実だ。和平の話、受け入れようと思う。ほとんどの種族は疲弊し、和平には賛成だろう」


 ライアンさんはあっさりと宣言した。


 ところがその後に「しかし」と続ける。


「闘狼人族だけは反対するだろう。奴らは全ての種族が死滅してでも生き様を示すべきだと言っている」


 全員玉砕か。

 嫌いな言葉だな。

 何度も繰り返すことが出来るゲームならそれもいいだろう。

 しかし、現実でそれをするべきではない。


「まったく、愚かなことじゃ。生きてこその人生じゃろ」


「お前が言うな。一人でガンウォールに挑んだくせに」


 横からリザにチクリと言われて、アイラは少しムッとしたようだった。


「ふん、あの時はあの手段しかないと思ったのじゃ。馬鹿なことをしたと反省しておる」


 とにかく話が纏まりそうで良かった。


「ライアンさん、闘狼人族の説得は任せてもいいですか?」


「そうだな、ハヤテ殿たちよりは俺の方が良いだろう」


「その際に現在は旧魔王軍と西方連合が和解し、連盟を結ぼうとしていることも伝えてください」


 これはまだ決まったことではない。

 シャルたちが動いてくれているだろうが、状況が分からない。

 ここは遠すぎて、アイラとシャルの連絡ラインも役に立たないのだ。


 だけど、このはったりは戦意を折るには十分なはずだ。

 何しろ西方の世界に味方する勢力がないと分かれば、さすがに戦うことは出来ないだろう。


「分かった。それを闘狼人族との交渉材料に使わせてもらう。二週間ほど待っていてくれないか? それまでには返答をする」


 俺たちが同意するとライアンさんは気絶した娘を担いで、村から去っていった。

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