遊戯場までの道
俺は一旦、先行していた『ゴブリン偵察隊』をデッキに戻す。
アイラとフィールレイが戦闘不能になった以上、不測の事態にモンスターを召喚して対応しないといけない可能性があるからだ。
ソウルポイントを確認すると1800ポイントと表示されていた。
リザたちをカード化していた頃を考えると少なすぎると思ってしまう。
正直、不安だ。
走っている途中でナターシャがフラフラとし始めた。
「大丈夫か?」
俺はナターシャに肩を貸した。
俺が足を止めたことでリザと俺たちは少し離れてしまった。
その隙を狙っていたかのように俺たちとリザたちの間に壁が出現する。
完全に分断されてしまった。
「まったく、次から次へと…………リザ、無事か!?」
「大丈夫だ! ハヤテたちは!?
「こっちも大丈夫だ! 先に行ってくれ!」
待ってほしい気持ちはあった。
しかし、また大きな音がする。
ここで止まっていたら、また何かが起きそうだった。
「分かった。気を付けてくれ!」
「リザたちもな!」
その言葉を最後に俺たちは完全に分断されてしまった。
少し甘く見ていたかもしれない。
油断をしたら、本当に俺たちは死んでしまう。
「ナターシャ、大丈夫かい?」
さすがに俺にも催眠ガスの影響が出てきたらしく、眠気に襲われる。
辺りの変化が落ち着いたところで俺は召喚盤から水と塗り薬をを取り出した。
俺はその塗り薬を鼻と耳の周りに塗った。
「それは?」
「眠気が飛ぶよ。ナターシャも使う? でも、あんまりたくさん塗ると酷いことになるから気を付けてね」
塗り薬を渡されたナターシャは、俺と同じように鼻と耳の周りに塗る。
その瞬間、トロンとしていたナターシャの瞳は見開いた。
「効くでしょ?」
「うん、凄いスーッとする。おかげで目が覚めた…………それにしても私でも耐えられるくらいの睡眠ガスで倒れるなんて、竜人族って毒の耐性が本当に低いんだね」
ナターシャは昏睡しているフィールレイに視線を移す。
「ねぇ、ハヤテ、ちょっと気になったことがあるんだけど、良いかな?」
「フィールレイのことかい?」
ナターシャは首を横に振った。
「違うよ。私たちが進んで来た通路のこと。ちょっとおかしいと思って」
「おかしい?」
「うん、もし、私たちが正規の通路を通っているとしたら、さすがに罠が多すぎると思ったの。リザちゃんたちが強引に突破して来たから何とかなっているけど、こんなに罠だらけじゃ、蛇人族の人だって全部を躱すのは大変なはず。本当は安全な道があるんじゃないのかな」
「でも、道はずっと一本しかなかったよ」
「ちょっと松明を貸してくれる?」
俺がナターシャに松明を渡すと壁の周りに火を当て始めた。
「昔、冒険小説で読んだことがあるの。こういう時にはお決まりがあってね…………」
ナターシャは辺りを調べ始める。
それにしても根拠が冒険小説って……
現実はそんなに単純じゃ……いや、ここまでの罠は全部、映画や漫画や小説に出てきそうなものばかりだった。
ナターシャぐらいの感覚で攻略した方が良いかもしれない。
やがて、ナターシャは動きを止めた。
「どうしたんだい?」
「ハヤテ、ここの岩の隙間、風が来てる」
そう言って、ナターシャは石で作られた壁を押した。
すると壁は奥に押し込まれた。
「ナターシャ、また罠が作動するんじゃないのかい?」
俺が身構えるとナターシャは笑った。
「大丈夫だよ。正解を見つけたみたい」
とナターシャは言った。
石の壁が移動し、新しい道が出現する。
「多分、ここから本来の道に繋がっているよ。私が先に行くね」
ナターシャが先行する。
「おい、気を付けろよ」
俺はフィールレイを背負って、ナターシャの後を追う。
新しく現れた道は驚くほど何もない。
まっすぐ進んでいくと開けた場所に到達した。
俺たちが部屋に入ると設置されていた灯火が勝手に点灯した。
部屋全体が明るくなる。
「ここが霊廟……」
広い部屋には明かりと中央の棺以外に何もなかった。
棺に入っているのは女王陛下の曽祖母様か……
俺とナターシャは棺に一礼し、奥の部屋に視線を送った。
恐らく、もう一つ向こうの部屋が遊戯場だろう。
見たところリザたちが来た形跡はない。
フィールレイは俺に背負われて寝ている。
リザたちを待つという選択肢もあるが、ここまでにかなりの時間を使ってしまった。
「女王陛下との約束の時間を考えると前に進むべきか」
「そうだね」とナターシャも言う。
俺たちは次の部屋に足を進めた。
次にあった部屋は霊廟より、さらに広い。
そして、ゲームの内容をすぐに理解することが出来た。
巨大なチェス盤のようなモノと、同じく巨大なコマがあった。




