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王家の谷

 次の日、スタンレンさんが俺たちを迎えに来た。


 用意された馬車で街を出て、しばらく移動する。

 やがて、岩場が目立つ場所にやって来た。


 大きな門が見える。

 入り口の両側には立派な像が立っていた。


「あの二つは右が太陽の神、左が月の神です」


 スタンレンさんが説明してくれた。

 神の像と言われるとさらに神々しいと思える。


 しかし、像にはなんだか違和感があった。


 像の下半身部分は作られてから、大分年月が経っているようだ。

 一方で上半身の部分はまだ新しい。


「この像は破壊されたのです」


 俺の疑問に気付いたスタンレンさんが説明してくれた。


「八十年近く昔、魔王軍が襲来し、我々の街や遺跡は全て破壊されました。その後、魔王は遺跡の再建を禁じ、我らの誇りも歴史も蹂躙したのです。ですから、遺跡の再建を初めたのはこの一カ月余りのことです」


 門を通過し、中に入ると遺跡は明らかに修繕されたものとまだ破壊されたままのものばかりだった。

 自分以外の者たちをおもちゃとしか思っていないあいつらしい凶行だ。


 力による支配で多くの種族を奴隷にしていた竜人族を奴隷のように扱い、破壊される前は素晴らしかったであろう建築物の数々を破壊して蛇人族の築き上げた歴史を破壊する。


 本当に性格が悪い……


 王家の谷をしばらく進むと一団が見えて来た。

 馬車はその手前で停止する。



「おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」


 女王陛下が声を掛けて来た。


「緊張で少し寝不足です」


「そうは見えないわね。ハヤテさんたちがやることを説明するわね」


 女王陛下は自分がしていた指輪を地面の窪みに嵌める。


 すると石畳だった地面が動き出し、入り口が出現した。


「ここは魔王にも見つからなかった秘密の霊廟に続く道よ。入るとひたすら、地下に向かっているわ。ハヤテさんたちには曽祖母様の作った遊戯場まで進んでもらう。だたし、途中には罠もあるから注意してね」


「罠、ですか?」


 昔見たトレジャー映画の罠を思い出す。

 床が抜けて剣山があったり、多い岩が転がってきたり、そんなのがあった気がする。


「油断しないことね。運が悪いと死ぬかもしれないわよ」


 そんな大切なことをこの土壇場で言わないでくれ。


「どうする? 今ならまだ引き返せるわよ?」


「いいえ、やりますよ。それに俺には心強い仲間がいますから」


 俺はリザたちを見た。


「任せろ、つまらない罠なんて正面から叩き潰してやる」


 リザが宣言する。


「健闘を祈っているわ」


 さてと俺、リザ、アイラは良いとしてナターシャとフィールレイはどうしようか?


「ナターシャ、君は待っているかい?」


「ハヤテが待っていろ、って言うならそうする。でも、付いてきていいって言うなら、一緒に行きたい。いつも待っているだけは嫌なの」


「分かったよ。十分気を付けてくれ。フィールレイはどうする?」


「待っているのは暇だ。一緒に行く」


 俺たちは五人でこの遊戯に挑戦することになった。




 中に入るとすぐに真っ暗になる。


「『ゴブリン偵察隊』を召喚」


 俺は松明を持ったゴブリン部隊を召喚する。

 彼らに先行してもらうことにした。


「変わった魔法だな。お前はあの竜たち以外にも魔物を使役できるのか?」


 俺の召喚盤の能力を初めて見たフィールレイが言った。


「というか、今はゴブリンとかしか召喚できないかな」


「どういうことだ?」


「魔王を倒した代償だよ。君が戦った竜、リントブルムは今、召喚できない」


 それを聞いたフィールレイは驚く。


「お前は力を失ったのに平気なのか? 怖くはないのか?」


「不安はあるよ。でも、俺には頼れる仲間がいるからね」


 リザとアイラを見ると二人は照れ臭そうに笑った。



 階段は下に続いている。

 今の所、罠がある様子はない。


「こういうのって、壁とか床の一部を押したら、罠が作動したりするんだよなぁ」


 ふと、そんなことを思い出した。


「そんなありきたりな罠があるのか? …………んっ?」


 リザが何か違和感があったようで足を止めた。


「ハヤテ、踏んだら、ここのブロックだけ下に凹んだ」


「おい、それって…………」


 直後、後ろから何かが転がってくる音がした。

 それを俺たちは肉眼で確認する。


 大岩だ!

 こんな定番で良いのかよ!


「おい、逃げるぞ。どっかに窪みとかがあるのがお決まりだから、そこまで…………」


 などと慌てる俺とは別にアイラとフィールレイは冷静に大岩と対峙した。


「この程度の罠、力でどうとでもなるの『竜爪』」


「『竜槍』」


 二人の攻撃で大岩は砕けた。


「蛇人族の用意した罠というのも大したことないようじゃな」


 アイラは笑った。


「君たちの前では中途半端な罠は意味がないな…………」


 竜人族は戦闘力だけなら全種族中最強クラスだ。

 生半可な罠は通用しないらしい。


 その後もいくつかの罠はあったが、アイラとフィールレイ、そしてリザが力づくで突破していく。


「…………君たちがいると定番が、定番じゃなくなるね」


「何のことだ?」


 リザがキョトンとしていた。


「いや、何でもないよ。それにしてもこれなら罠はあまり関係ないかな」


「儂たちがいれば、安心じゃ。…………すまん、また何か踏んだみたいじゃ」


「……だからって、少しは警戒しても良いんじゃないかな!?」


 さて今度は何が襲ってくる?

 天井から槍が降って来るか。

 それとも両脇の壁が迫って来るのか。


 などと身構えたが何も起こらない。


「アイラ、何も起きないぞ。本当に罠が作動しているのか…………?」


「うむ、確かに儂は何かを…………んっ…………?」


 アイラはよろめき、そのまま倒れた。


「おい、大丈夫か!?」


 これはまさか…………


 俺は嫌な予感がしてフィールレイを見ると彼女も倒れそうだった。

 それにゴブリンたちが騒いでいる。


「ハヤテ、これは…………」


「睡眠ガスだな。リザ、ナターシャ、大丈夫か?」


「私に毒は効かない」とリザが即答する。


「私はちょっと体が怠いけど大丈夫…………」


 ナターシャの方は辛そうだった。

 それでも意識はある。


 それより問題はアイラとフィールレイだ。

 竜人族は毒に対する耐性が極端に低い。


「リザ、アイラを頼めるか!?」


 俺はそう言いながら、フィールレイを抱き抱える。


「まったく、竜人族は変な弱点がある」


 リザはアイラを抱えた。


「この区画から早く移動しよう。そうすれば、アイラたちも回復するはずだ。ナターシャ、歩けるかい?」


 ナターシャは頷く。

 俺たちは移動を開始した。

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