魔王の正体
リザ、ローラン、リスネさんを乗せたリントブルムは魔人の一団の上空が飛ぶ。
すると、何人かの魔人が飛翔して、襲ってきた。
「こいつら、飛翔能力もあるのか!?」
「撃ち落とす。魔法付与の矢(炎)『青炎』連撃」
リザの正確無比な矢が魔人を射抜く。
しかし、魔人は燃えなかった。
俺たちが驚いている中、リザは冷静だった。
「こいつら、やっぱりおかしい。魔力を感じない」
リザの矢は相手の魔力に反応して、発火する。
燃えないということは相手に魔力が無いということだ。
「えっ、どういうことだ? 魔人は魔法に長けているんじゃなかったのか?」
「そのはずだ、でもこれは魔法とは違う。似てるけど違う……魔法のようで魔法じゃない。この世界の決まりが通用しない存在、これじゃまるで…………」
リザは俺の顔を見る。
俺はリザが何を言いたいか分かってしまった。
しかし、そんなことがあるのだろうか?
「今はこいつらの正体を言及している場合じゃないでしょ!?」
リスネさんが声を上げた。
「確かにその通りだな」
ローランが二丁の魔砲銃を取り出した。
「どこまで効くか分からないが……『雷弾』!」
ローランが放った『雷弾』が直撃した魔人が一撃で撃ち落された。
「えっ? 威力が上がってる? どういうことだ?」
放ったローランが一番驚いていた。
俺が見ても分かるくらい『雷弾』の威力が上がっている。
リザがローランに近づき、何かを確認する。
「ローラン、アイラの肉でも食ったか?」
「いきなり恐ろしいことを言わないでくれ。食べるわけないだろ」
「ふーーん、そうなのか? でも、ローランの中にアイラの魔力を感じる」
「一体、どういうこと……あっ」
ローランは何かを思い出したようだった。
「何かあったのかい?」と俺が尋ねると、
「そうだな。何かあったのかもしれない。しかし、今は説明するより……」
ローランは急襲してきた魔人を二人、撃ち落とす。
「ここを切り抜ける方が先だろ?」
「それには同意だけど、ローラン、あなたも異質な強さを入れたの?」
リスネさんは呆れ顔だった。
「なんだその『あなたも人間、止めちゃったのね』って言いたそうな顔は?」
「あら、その通りよ。やっぱり、あなた、死んでおかしくなったんじゃないかしら?」
「だとしても、この力はありがたく使わせてもらう」
「おい、そろそろ、お喋りは終わりにしろ」
リザは魔法付与の矢を風属性に切り替えて、応戦していた。
「悪かった」と言い、ローランも魔人を撃ち落とす。
「私もいずれハヤテさんに変えられちゃうのかしらね?」
「その言い方は止めてもらえるかな!?」
リスネさんは微笑んだ。
しかし、それは一瞬で、次には険しい表情になる。
「到着したみたいだわ…………」
魔人の一団も突破する。
その先には一人の男が立っていた。
普通、王様って言うのは厳重な護衛に囲まれているものじゃないのか?
それだけ実力に自信があるのか?
リントブルムが地上に着地する。
そして、俺は魔王と対峙した。
この男が魔王?
普通の人間に見える。
いや、普通の人間という表現は間違いかもしれない。
だって、俺や香と同じ見た目、ジンブ人か、…………あるいは日本人だった。
「あんたが魔王か?」
「そうだよ」
その口調はとても軽かった。
「その見た目、ジンブ人か?」
俺に問いかけに男ははっきり「違う」と答えた。
「…………じゃあ、日本人か?」
今度の問いに対して、男は無邪気に笑った。
その笑顔に俺は寒気がした。
「やっぱり君も僕と同じなんだね!」
「転生者、ってことなんだな?」
「そうだよ。僕は選ばれたんだ。僕は史上最高の悪役になるんだよ」
悪役?
英雄や勇者じゃなくて、元から悪役、魔王を目指していたってことか?
「神や女神は馬鹿なのか? なんでこんな奴が転生している?」
リザが男を、いや、魔王を睨みつける。
「神? 女神? そこのエルフは何を言っているんだ?」
「お前は俺と一緒で、神や女神に言われて転生したんじゃないのか!?」
「さて、そんな存在は知らないな」
魔王は惚けているわけでも、嘘をついているわけでもなさそうだった。
一体どういうことだ?
「あ、でも、死神になら会ったよ。で、そいつから力を貰った。世界を滅ぼせる力をね」
死神だって?
じゃあ、こいつは死神が送った世界を滅ぼす存在ってことか?
で、俺が女神に選ばれた世界を救う英雄ってことか?
女神と死神の代理戦争。
英雄と魔王。
そんなことを希望した覚えはないが、これ以上無いくらい分かりやすい構図が完成した。




