最悪の兵器
三日目の朝、俺はリザ、香、ローランと一緒に家を出た。
「ハヤテ、気を付けてね」
屋敷を出る前にナターシャが声を掛けてくれた。
「君たちもだよ。今、レイドアに安全な場所なんてないからね。危ないと思ったら、最善を尽くしてくれ。こんなことしか、言えなくてごめん。シャルとアイラも頼んだよ」
アイラは相変わらず目を醒まさない。
俺たちは半壊した作戦本部にやって来た。
「おっ、英雄たちのお出ましだ」
エドワーズさんがそんなことを言う。
「英雄って、柄じゃないですよ。昨日はありがとうございました」
「私は今回の戦いで一生分の労働をした気がするよ」
「ハヤテさんたちの方がお前の十倍働いているだろ」
ルタンスさんが横から口を出すが、昨日は『赤の魔術師』に救われた。
彼らがリザードマンを引き受けてくれたから、俺はゼルとの戦いに集中できた。
それにゼルが撤退した後、リザの所に向かうことを決断できたのは前線にエドワーズさんたちがいたからだ。
「君たちに比べて、私たちは活躍が少ないな。レイドア№1パーティの肩書は返上した方が良さそうだ」
ヒルデさんが話に加わる。
「そんなことないわよ」といつの間に来ていたリスネさんが言う。
「ヒルデさんたちが街のリザードマンを引き受けてくれたから、ドラズさんとディアスさんをガンウォールに当てられたわ」
「そう言ってもらえると少しは慰めになるよ」
そう言って、ヒルデさんは笑う。
「みんな、揃っているな」
エルメックさんが現れた。
「昨日の戦い。君たちには感謝しかない。ガンウォールを討ち取り、敵の竜騎兵、ワイバーンをほぼ壊滅させることが出来た。魔王が来る前に敵の戦力をここまで削れたのは本当に大きい」
魔王。
あれだけ強い竜人が屈服する存在だ。
噂だと魔法に長けているらしい。
しかし、それ以外の情報がほとんどない。
それに気になることがある。
アイラは竜人が魔人側に付いた理由を「人間に迫害されたから」と言っていた。
(※第56部分『アイラとシャルロッテ』参照)
けれど、ガンウォールの口調からすると人間からの圧力に耐えかねて、魔人側に味方した様子はない。
竜人族の肉体は強靭だし、魔力は膨大だ。
それにプライドが高そうである。
そんな竜人が屈服した理由はなんだ?
そんなことを考えてみるが、分からない情報が少なすぎる。
「おい、何か降って来るぞ!」
リザが叫んだ。
また空襲かと思ったが、空にはワイバーンも竜騎兵もいない。
それに投石やワイバーンの『火球』じゃない。
地面に着弾した瞬間、それは爆発した。
「なんだ、あの威力は!?」
一瞬で着弾した付近の建物が吹き飛んでしまった。
「おい、まだ来るぞ!」
ローランが叫ぶ。
「各固定砲台、迎撃用意! 飛来物を打ち落として!」
リスネさんの言葉で対空砲から攻撃が開始される。
しかし、おかしい。
飛来物は意思があるように砲撃を避ける。
次々に着弾し、爆発を起こす。
「まさか、そんなこと……でも……」
リザは青ざめていた。
何かに気付いたようだった。
「リザ、何か分かったのか!?」
その答えを聞く前に作戦本部付近にも飛来物が接近する。
「確かめる…………魔法付与の矢(水)『深水』連撃」
リザの放った一本目の矢は躱された。
しかし、それを予測して放った二本目の矢が飛来物に的中する。
そして、地面に着弾した。
しかし、爆発を起こさない。
飛来物は長方形で二メートルくらいのロケットのような形状だった。
「香、これを斬ってみてくれ」
「爆発しませんか?」
「問題ない。爆発の原因は私が消した。それに中の奴はもう衝撃で死んだ」
香は一瞬、ハッとし、そして、飛来物を斬る。
何かにはすでに息絶えたリザードマンが入っていた。
特攻兵器、人間爆弾、神風、回天……
俺が知っている限りのこういう兵器の名前が浮かんだ。




