反転攻勢準備
「ここにしよう…………」
リザは岩の壁の前で立ち止まった。
壁にリザが手を当てると、そこに穴が開いた。
なんだか見覚えがある洞窟が出来る。
「これも魔法?」
「土の魔法、この辺は土質が堅いから崩れない」
俺たちは中に入る。
「アイスの状態を見せて」
アイスを降ろし、寝かせる。
リザはアイスの服を脱がせて、状態を確認した。
「どう?」
「私は専門家じゃないから正確なことは分からない。でも、間違いなくあばら骨と左腕、それと右足が折れてる。スライムが殺菌と止血をしたから感染症の心配は低いけど、体温からすると失血は回復していない。早く回復術師に見せないといけない」
じゃあ、早く、という言葉が出そうになり、左の人差し指を噛んだ。
冷静になれ。
ソウルポイントは枯渇して、体力だって消耗している。
今、動くのは得策じゃない。
「リザ、食べ物はまだある。けど、水が少ない」
魔法で作る水は飲み水には適さない。
魔力水中毒、というものになるらしい。
「分かった。探してくる」
森での行動はリザの方が長けている。任せた方が得策だろう。
俺はその間に出来る限りのことをする。
サポートカード(カード化した物資)を全て確認する。
余っていた獣毛皮をアイスさんの下に敷いた。
薪にしようとしていた木を縦に割り、アイスさんの折れた左腕と右足を固定する。
「ハヤテさん…………?」
「よかった。目を覚ましたんですね」
「ここは…………?」
起き上がろうとするアイスさんを止めた。
「洞窟の中です。アイスさんは大怪我してますから、じっとしていてください。今、リザが飲める水を探しに行っています」
アイスさんは自分の状態に気付いたようで顔を歪めた。
「すいません、迷惑を掛けます…………」
「そんなことを言わないでください。アイスさんが機転を利かせてくれなかったら、火球が直撃していました。命の恩人ですよ。それとこれなんですけど…………」
折れた刀を見せる。
「………………」
アイスさんは折れた刀を手に取り、泣き始める。
「ごめんなさい…………私が未熟だから、本当にごめんなさい…………」
アイスさんの頭を撫でる。
「えっ?」
「す、すいません、嫌でしたか?」
「嫌じゃないです。ハヤテさんの手、あったかいです」
「アイスさんが冷たすぎるんです」
「じゃあ、温めてください」
アイスさんは手を広げる。
「えっとこれで良いですか?」
アイスさんを抱き寄せる。
「落ち着きます」
「そ、そうですか?」
俺は全然、落ち着かない。
「私が水を探しに行っていた間、何をしていた?」
いつもより低いリザの声がした。
「私が神経尖らせて、ドレイクの魔力が残る泉で命懸けの水汲みをして帰ってきたら、何している?」
激怒だった。
「えっと、リザさん、これはアイスさんが寒いって言ったからやってたんですよ!」
「ふーん、ハヤテ、確かコップあったよね? 出して」
リザの気迫に圧されて、従うしかなかった。
リザは水を汲んだ水筒からコップに水を注ぎ、
「アイス、飲むといい。今、火の魔法で温めたから」
「リザちゃん、コップの中の水、いえ、熱湯がグツグツいっているんですけど!?」
「よく温めた。口の中が爛れるぐらい」
「待って、アイスさん、重傷だから!」
「…………今回は見逃す。これくらいの温度なら飲める?」
「ありがとうございます」
白湯を飲んだアイスは少しだけ表情が緩んだ。
「で、これからが問題、今、私たちはドレイクの縄張りのど真ん中にいる。この森を地上から抜ける
のは時間がかかるし…………」
アイスさんの体力が持たないだろう。心配させまいとしているが、体力の限界は近い。
「かといって。ワイバーンなんて使ったら、すぐに気付かれる」
「だな、じゃあ、やることは決まっている」
リザは頷き、「ドレイクを倒す」と言った。
「無茶です! …………いたた」
「あまり大声を出さない下さい。体がボロボロなんですから」
「けど、ドレイクを倒すなんて無茶です。私のことは良いですから。置いていってください。これは私の実力不足が招いたことです」
「それは違う。原因は私だ。私が森の様子がおかしいなんて言ったから、こうなった」
「最終的に行くことを決定したのは俺だ。俺とリザのせいでアイスさんをこんな目に合わせてしまいました。絶対に助けます」
それを聞いたアイスさんは泣き出した。
「えっ、どうしました?」
「私、こっちに来てからこんなに大切にされたこと、ありませんでした。こんな状況でも私を見捨てないなんて、私は良い仲間に会うことが出来ました。…………だからこそ、逃げてください。あなた達に死んでほしくないです」
「別に死ぬつもりはありませんよ。それに勝算だってあります。ドレイクに勝てるモンスターを俺は召喚できます」
アイスは驚く。
「ドレイクに勝ったら、森を抜けましょう。これからもお願いしますね」
アイスさんは「はい」と言い、限界を向かえ、気を失うように眠った。
「正直、勝算はどれくらい?」
「数字の上では五分、こいつを召喚する予定だから」
俺は『ワイバーンキング』のカードをリザに見せた。
「レベル⑦、ドレイクと同じ?」
「うん、そして、空中戦が出来る。だから五分。逃げることは出来ない。理由は分かるよね」
「追ってきたドレイクが村を襲ったら大変。私たちでケリをつける」
「そうだ。すまないけど、明日、リザの負担は大きいと思う」
「構わない。望むところ。それにドレイクを狩れれば、素材を高く売れる」
「そうなの?」
「小さい個体でもこれくらいはする」
リザは指を五本立てた。
「五百万?」
するとリザが「ゼロがひとつ足りない」と言った。
「五千万!? それは良いな」
「それだけあったら、街に家を買える。馬も飼ってみたい。本を買って勉強もしたい」
リザは俺に抱き着いた。
また、からかわれているのかと思ったが、違った。
リザは震えていた。リザは魔力を敏感に感じ取る。
ドレイクの大きな魔力を一番理解しているはずだ。
「こうしているから寝なよ」
「四時間したら、起こして。交代する」
「分かった。ありがとう」
それから交互に睡眠を取り、朝を迎えた。
「体調は?」と俺が尋ねると
「寝不足、体中が痛い。ハヤテは?」
俺もさ、と返す。
「帰ったら、たくさんの肉で祝勝会だ。予算はハヤテが出して」
「ああいくらでも出すさ」
「二人とも、ご武運を祈っています」
アイスさんは立ち上がる。
「私も共に戦いたい気持ちはあります。でも今の私では足手まといになるから…………」
「待っていてください。ドレイクを倒して、戻ってきますから」
俺とリザは洞窟を出て、開けた場所を探す。
「さぁ、決戦だ! 『ワイバーンキング』!」
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