ゼルの作戦
「リントブルム、お前の背中の棘って、感覚はあるのか?」
『ない。何かするつもりなら、勝手にやってくれ』
俺はリントブルムに許可をもらい、棘に縄を括りつけた。
これは「とある蜘蛛」の糸から作ったらしく、簡単には切れない。
『主、少し暴れ回るぞ』
「構わない。やってくれ!」
リントブルムは城壁へ『竜弾』を撃ち込んでいたリザードマンの渦中に飛び込んだ。
攻撃が集中するが、リントブルムは構わずに体を捩じり、尻尾がリザードマンを襲う。
「昨日、魔王軍を退けた英雄が来援したぞ!」
その声には聞き覚えがあった。
「カーラー君たちはこんな最前線に配置されていたのか」
城壁の上にカーラー君たちのパーティを確認した。
四人ともいる。
それを見て、安心する。
俺がリザードマンを撃退したことで味方の士気は上がっているようだった。
これじゃ、本当に英雄みたいだ。
「やれやれ、あなたが出てくると戦場が滅茶苦茶っすよ」
戦場に合わない軽い口調が聞こえた。
「どーもっす」
ゼルだ。
城壁への攻撃を妨害されているのに、相変わらず笑顔だった。
本当に何を考えているか分からない。
「今日も退いてくれると助かるんだけど?」
「それは無理っすよ。昨日、あの後、ガンウォールの旦那とレイちゃんに凄い怒られたんで、今日は頑張んないといけないっす。ハヤテさんの方こそ、昨日のお礼のお返しで退いてくれないっすか?」
「退けるところがあるなら、退きたいね。でも、君たちのせいで俺たちはもう背水だよ」
「背水? 面白い表現っすね。なら、しょうがない。俺も戦うっすよ」
ゼルは空を飛んだ。
「追いかけてくれ!」
リントブルムもゼルを追いかけて、空に飛んだ。
「不用意に追いかけて来たっすね」
ゼルが反転し、リントブルムに接近する。
「あんたを狙った方が手っ取り早いっすよね!」
ゼルの標的は俺だった。
『簡単に主を討てると思うなよ!』
リントブルムはそれを避けて、尻尾でゼルを地上に叩き落とした。
『主、無事か?』
「ああ、問題ない。……さて、これじゃ、終わらないよな?」
ゼルはすぐにまたリントブルムの所へ飛んできた。
「その図体で、その素早さは反則じゃないっすか?」
多少のダメージは入ったみたいだが、ゼルは相変わらず笑っている。
リントブルムとゼルの戦いは互角だ。
これで良い。
俺とリントブルムがゼルを、リザと香がフィールレイを押さえていれば、他の負担が減る。
いくら三臣といえ、軍自体が壊滅すれば、戦えないはずだ。
「分かる。分かるっすよ」
ゼルは相変わらず、笑っていた。
「上空のレイちゃんはハヤテさんの所の強そうな二人が抑えているし、俺にはハヤテさんが当たっている。こっちのヤバイ戦力をうまく防いだと思っているっすね?」
「だとしたら?」
「一番ヤバい奴の相手は誰がするんすか?」
ゼルは自軍の奥の方へ視線をやった。
そこにあったのは……
「投石機か……?」
「あれはガイエス城塞で奪取したただの投石機っす。問題は何を投げ込むかっすね」
話が見えてこない。
『主、まずいぞ。あの投石機には昨日、アイラを倒した竜人が乗っている』
なんだって!?
「ガンフィールの旦那なら多少に衝撃は何とも思わないだろうさ」
「リントブルム、投石機を破壊してくれ!」
「おっと、そうはいかないっすよ」
ゼルがリントブルムに攻撃を仕掛ける。
これでは投石機を狙えない。
「エドワーズさん! 敵の投石機を狙ってくれ! 敵は投石機で『ガンウォール』を街の中に投げ込むつもりだ!」
俺の叫びが通じたらしく、『赤の魔術師』の砲撃が投石機に集中する。
しかし、敵も『竜弾』を放ち、弾幕を張った。
エドワーズさんたちの攻撃が通らない。
そして、投石機はガンウォールは投擲した。
「リントブルム、打ち落とせないか!?」
「だからさせないって言ってるっす」
ゼルに邪魔される。
俺はガンウォールの侵入を許してしまった。
「リントブルム、街に……」
「おっと、そんなことをしていいんっすか? ハヤテさんがいなくなったら、最前線を崩壊するっすよ? そうっすね。手始めに城壁の上の目障りな人間を『波動』で一掃してやろうっすかね?」
ゼルは作り笑いから、少しだけ本当の笑いに変わったようだった。
「くっ……リントブルム、ゼルをすぐに……」
違う、そうじゃない!
冷静になれ!!
俺が焦って、ゼルに負けたら最悪だ。
「…………」
「あれ、急に冷静になったっすね」
ゼルが一瞬だけ真顔になった気がした。
「俺は仲間を信じるよ。仲間を信じて、ここでお前に勝つ!」
「帰る街が無くならないと良いっすね!」
俺はこの場を離れられない。
「ローラン、リスネさん、無事でいてくれ……!」




