目覚めないアイラ
「みんな、無事か!?」
俺は地上に降りた。
「私たちは問題ないが…………」
ローランは視線をアイラに移した。
「シャル、アイラは…………?」
「死んではいません。でもどんなに語りかけても反応がありません。恐らく、自分を守る為、自ら仮死状態になったんだと思います。次に目覚めるのは明日か、明後日か、それとも一カ月後、一年後になるか、分かりません…………」
シャルは子供の状態に戻ったアイラを抱きしめる。
「……一旦、戻ろう。あなたも一緒に」
俺はリザードマンに肩を貸した。
「連れて行って、大丈夫か?」
リザは心配そうだった。
「置いていくわけにはいかないよ」
「ありがとうございます…………」とリザードマンが言う。
「気にしないでくれ。アイラを守ってくれてありがとう……」
「ハヤテさん!」
ヒルデさんたち『勇獅子』のメンバーが駆けつけた。
「君たちだけで行かないでくれよ、まったく…………。アイラっていうのは、あの『竜使いのアイラ』だったんだな」
ヒルデさんは視線をアイラに向けた。
「そうだけど、だったらどうする?」
「そんな怖い顔をしないでくれ。『竜使いのアイラ』が街を守ってくれたのは事実だ。私は恩を仇で返すような薄情者になるつもりはない」
ヒルデは真っ直ぐ俺を見て言った。
卑怯さや卑屈さの欠片もない。
「……ごめん、ちょっと気が立っているんだ」
「気にしないでくれ。仲間を気にかけるのは当然だ。…………で、奴らは?」
「今日は終わりだそうだ。街に戻ろう。分かったことがあるからね」
俺たちが戻るとレイドアの民衆は歓声で出迎えてくれた。
「魔王軍を退けたぞ!」
「英雄だ!」
その歓声を聞いても、何も感じなかった。
竜人の戦力、そして、アイラのことで頭が一杯だった。
「見ろ、竜人を捕まえて来たぞ!」
「見せしめに晒してやれ!」
称賛する声は遠くに感じたのに、そんな言葉はとても近くに感じた。
香が言った人たちを睨みつける。
彼らは驚いたようだった。
「止めなよ。彼らは何も知らないんだ」
「はい……」
俺たちは作戦本部まで戻ってきた。
「ハヤテさん、良かった。無事だったのね! 本当に無茶ばかりして……どうやって竜人たちを退けたの?」
「俺がやったことなんて、ほとんどないよ。シャル、アイラとリザードマンを任せていいかい?」
「私もエルメック元帥に直接言いたいことがあります」とシャルは答えた。
「なら、アイラたちは私が見ていよう」
代わりにローランがそう言ってくれた。
「ありがとう。お願いするよ」
と言い、俺はリスネさんとエルメックさんの所に向かう。
「ハヤテ殿、よくやってくれた」
エルメックさんは険しい表情で言う。
「エルメックさん、悪い知らせです。竜人軍にはアイラ以外の四臣が全員来ています」
「ああ、ここからも確認できたよ。昨日、襲撃してきた者と君が話していた者はあまり情報がないが、アイラ殿が戦ったあの男の情報はある。ガンフィール、奴が関わった戦いは全てこちらが負けている。天災のような存在だ」
天災……
その表現は納得がいく。
アイラが負けるなんて想像できなかった。
「それだけじゃありません」
シャルが前に出る。
「アイラが気を失う前に教えてくれました。二日後、この戦いに〝魔王〟が参戦します」
「なんだと?」
歴戦の将であるエルメックさんでさえ、〝魔王〟という言葉には驚きを隠せなかった。
「魔王軍の戦争の最終的な目的は西方連合の完全消滅にあります」
シャルの言葉を聞いた者たちは息を飲んだ。
「そんな岐路に立っているのに、未だに援軍が来ないなんて……」
リスネさんが言葉を漏らす。
「とにかくやるべきことをしよう。今日、戦力を温存できたことは喜ぶべきことだ。我々は何としても援軍の到着まで、このレイドアを死守する」
エルメックさんの言葉に全員が頷く。
すでにやれることはそれしかない。
「ところでハヤテ殿、この後時間を作ってもらえるかな?」
エルメックさんが俺を名指しで呼んだ。
戦いについてだと思ったが、エルメックさんは、
「共に屋敷に行きたいのだが、良いか? アイラ殿やリザードマンも連れてな」
と言われる。
俺は話が見えてこなかった。
言われるがまま、俺たちは屋敷に戻る。
到着するとナターシャたちが避難所から戻ってきていた。
「ハヤテ!」
ナターシャは俺に抱き着いた。
「無事で安心したよ」
「それは私の言葉。戻ってこないから、心配したんだよ!」
ナターシャはそのままキスでもするのではないかというくらい接近する。
「おい、ナターシャ、そこまでだ」
リザが俺とナターシャを引き剥がす。
「もうちょっとくらいいいじゃない。キスして、抱きついて、もう一回キスするくらい」
「それ、ちょっとじゃない!」
リザが声を張る。
これに関してはリザに同意する。
そんなのは刺激が強すぎる。
香を見ると笑顔で、刀に手をかけていた。
何も言ってこないのが余計に怖い。
「って、あれ、アイラさん!? それに確かエルメック様?」
ナターシャは驚く。
「今更か。どんだけハヤテしか見ていなかったんだ?」
リザは呆れていた。
「仲が良さそうで安心する。ちょっと、客間に行っても良いかな?」
エルメックさんにそう言われ、俺たちは客間に向かった。
「煙突がないのに暖炉があることを不思議だと思わなかったか?」
とエルメックさんが言った。
それは思っていた。
変な作りだと思ったし、それにこの屋敷の冷暖は魔法石で調整が効く。
この暖炉の存在理由が分からなかった。
「これはちょっとした仕掛けたあるんだよ。さて、動くかな」
エルメックさんは暖炉に体を入れて、何やらレンガを押す。
するとレンガは奥に食い込んだ。
その瞬間、何かが動く音がした。
「良かった。仕掛けは活きていたみたいだ」
暖炉の床部分がスライドし、階段が出現した。
「ついておいで」
エルメックさんに言われて、俺たちは地下へと降りて行く。
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