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一線を越える覚悟

「香、最初を任せてもいいかな?」


「もちろんです。すでに覚悟は出来ています」


「なんだ、俺に殺される順番の話か。下等種族がうじゃうじゃと…………」


 香に腕を斬り落とした竜人が睨む。

 斬られた腕を拾い、何か薬品をかけ、腕が繋がる。


「残念だったな。この程度なら治るのが竜人なんだよ」


 竜人は笑った。


「別に驚きませんけど。あなたは腕が生えてこないんですね」


 香の声は冷たかった。

 竜人の顔を歪む。

  

「生意気な人間だな。お前、俺が誰だか知らないな。第一大隊隊長のニール様だ!」


「だから何ですか? 私の仲間を殺そうとしたあなたを許しません」


 香は二本目の刀を抜いた。


「手助けは必要か?」とリザが言う。


「不要です。周りを任せますね」

「分かった」


「人間が俺に勝てると思うなよ! 俺は次期、四臣だ。覚悟が出来ているとか言ったな? 本当に死ぬ覚悟ができるのか!?」


 ニールが香に斬りかかる。


「死ぬ覚悟? 何のことですか? 魔陰双流攻法ノ二『ミズサワ』…………!」


 攻法ノ一『ヌキサキ』は怒涛の連撃だった。


 それに対して、『ミズサワ』は敵の動きに合わせて刀を三度、振っただけだった。


 最初の一刀で右腕を飛ばし、二刀で腕を飛ばす。


「えっ…………?」とニールの最期の声が聞こえた。


 三刀目でニールの首を飛ばした。


「私が戦った四臣の一人はあなたの百倍、強かったですよ。覚悟というのは敵を殺す覚悟です。もう聞こえていないと思いますけどね」


 大隊長がやられたことで他のリザードマンたちの動きは鈍る。

 それでも向かってくる者はいた。


「恨みはない。でも敵だ。だから戦う。魔法付与の矢(炎)『青炎』連撃」


 リザの矢に撃ち抜かれたリザードマンが燃える。


「せめて、アイラ様を……いや、逆賊アイラを殺せ!」


 多数の『竜弾』がアイラに放たれた。


「動けない相手にそれはないだろう。『鉄壁』」


 ローランの大盾はリザードマンの『竜弾』を全て防いだ。




「さてと…………来てくれ。リントブルム!」


 俺は召喚したリントブルムに乗り、浮上した。

 

 俺の命令で今から多くの敵が死ぬ。

 もう引き返せない。

 いや、引き返さない。


 仲間を守る為になら、俺は……


「リントブルム『アブソリュートストリーム』で敵を薙ぎ払ってくれ!」


『心得た』


 リントブルムから放たれた一撃が大気を揺るがす。

 たった一撃でリザードマンの隊列を壊滅させてしまった。


 こんなのは戦闘じゃない。

 一方的な殺戮だ。


「うっ…………」


 胃液が込み上げてきた。


『大丈夫か、主?』

 

「大丈夫じゃないさ。でも止まっているわけにもいかないだろ」


 リザードマンの新手が地上のリザたちに向かってきた。

 俺は込み上げてきた胃液を飲み込み、リントブルムに第二波を命じる。



 しかし、その一撃は別方向へ受け流された。


「今のは?」


「あちゃー、こんな存在は反則っしょ」


 随分と軽い口調の男が俺の前に現れた。

 翼の生えた竜人だ。


「あなたは?」


「どーも、ゼルっす。一応、四臣の一人っすよ。君が昨日、レイちゃんを撃退した人間っすか?」


「そうだけど?」


 ゼルと名乗った男は俺より少し年上のような見た目をしている。

 感情を全開でぶつけ来たフィールレイと違って、薄ら笑いを浮かべて、何を考えているか分からない。


「名前、聞いてもいいっすか?」


「ハヤテ、ユウキハヤテ」


「ハヤテさんっすね。提案なんすけど、お互いに退きません?」


「は?」


「だから、お互いに退こうっていう提案っすよ。あなた方は一刻も早くアイラを治療したいだろうし。こっちとしてはガンウォールの旦那もレイちゃんもいなくって、しかも大隊長は一人、いきなり死ぬし、これ以上は戦いたくないんっすよ。てか、俺の責任で軍を動かしたくないっす。というわけで、明日以降に仕切り直しといきませんか?」


 罠に嵌めるか?


 いや、だとしたらもっと他に方法があるだろう?

 こんなのは露骨過ぎる。


「あっ、疑ってるっすね。じゃあ、証拠を見せるっすよ。おい、もう退け!」


 ゼルは地上のリザードマンたちにそう命じた。


「一分しても戦っている奴がいたら、俺の『竜弾』が頭に直撃するからな! …………これでどうっすか?」


 リザードマンたちは慌てて撤退していく。


 リザたちは困惑していた。


「こっちも戦闘中止! 深追いはするな!」


 俺がそう叫ぶとゼルは満足そうに笑った。

 多分それは素の笑顔だ。


「やっぱり俺の予想は正しかったっす。ハヤテさん、若そうだけど実は歴戦の戦士だったりします?」


「戦争に関しては昨日が初陣だよ」


「にしては勝負勘、みたいなのが鋭そうっすね。それはどこで鍛えたんっすか?」


「………………」


 俺は答えなかった。

 この男に余計な情報は渡したくない。


「まぁいいっす。もしこの戦いが終わって、ハヤテさんたちが生きていたら、俺の部下にしたいっすね。レイちゃんやガンウォールの旦那は人間を全て殺したいみたいっすけど、俺はそんな疲れることはしたくないんっすよ。…………じゃあ、また会いましょう。ハヤテさん」


 ゼルはそう言うと退いていった。

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