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決戦Ⅰ

俺は、朝に強い。

 どこかの誰かが、「俺は朝に弱いから」なんて腑抜けた言い訳をしていたせいで、なんでもないことを誇るようになってしまった。

 目が覚めたらカーテンを開け、歯を磨いたらすぐに着替えてランニングに出る。

 と、その前に、

「白銀。起こしに来たからな。俺はランニングに行ってくる」

「……むー、いってらっしゃぁい」

 ドアの向こう側から寝ぼけた声が聞こえたのを確認し、止めた足を再始動させる。

 夏の太陽は俺より朝に強いせいで、五時には空の色が薄くなり、うすら青く染まっている。

 朝のルーティンは中学生の頃に習慣づけたものだ。

 俺がこの時間に活動するようになったのは、部活のための体力づくりのつもり。

 そのつもりだったのだが、それに便乗して「それなら私の家までピンポン鳴らしに来てよ。目覚まし時計じゃなかなか起きれなくて」と、間の抜けたことを言う困ったやつが現れた。

 そのせいで、今でも時々、ランニングのコースがめちゃくちゃになるから困り者だ。

 あいつらと選ぶ道を変えてから、もう一年以上が経つ。

 一人の時間が増え、計算力もあの二人には及ばないものの平均程度には向上した。

 強くなりたければ孤独になれ。

 どこかの誰かが言っていた、そんな言葉を信じて俺は薄暗い朝の道を駆け抜ける。

 

「みなさんおはようございます。本日は試験三日目。ようやく折り返し地点です」

「先生、そんなに気合入れなくても大丈夫ですって」

 先生にとってこの場所は居心地が悪いのか、先生は初日から緊張しっぱなしだ。

 三年生の代表である司馬さんがしっかりものなおかげで、どうにかここまで保っているという感じ。

 自分たちの学校は三年生二人、二年生二人、一年生二人と、周りの高校よりも参加人数は圧倒的に少ない。

 咬園や相良第一のような、もともと優秀な学校には教師や生徒も一級ばかりが集まってくる。成績下位の生徒も、この相当試験に参加するレベルであれば、必死でメンバーに選抜されようと血を吐くほど努力した俺たちと同等の評価を受けているということになる。

 それは生徒に限った話ではなく、特に咬園の教師陣は別格で、ニュースにも頻繁に取り上げられるような有名人ばかりだ。

 対して中宮は、県内でこそそれなりに成績が高いと言われるが、全国区となれば知っている人間は誰もいない。有名のレベルが違い過ぎる。

 つまり、今この会場内で中宮高校をライバル視している人間は誰もいないということ。

「この中じゃ、一年生の二人が成績優秀。風下に至っては第一第二試験で単独トップだ。こんなに誇らしいことはない」

「これじゃ、俺たちの立場ねえな」

 皮肉を言いながらも、顔は一切起こっていない。

 嫌味もあるだろうが、褒めてくれていることは間違いない。

「ありがとうございます。俺、絶対に特記戦力になってみせます」

「頼もしいな」

 先生や先輩から期待されるというのはあまり得意ではない。

 運動部の上級生との関わりなんて、面倒ばかりで面白くないことが多かった。単に、まだ中学生だった彼らが幼かっただけだろうか。

「白銀さんも選出圏内だよ。頑張ってね」

「……はい」

 俺の隣に立つ少女。

 雪のように白い髪の毛とサファイアを二つはめ込んだようなキレイな瞳。いつも真っ黒なフードを被っているせいで男子と間違われることもあるが、本人はあまり気にしていないようだ。

 それでも、俺といる時以外はずっと不機嫌な顔をしている。顔を伏せて、まるで拗ねた子供のように俺の服の裾を掴んで離さない。

「おい、離せよ」

「やだ」

 返事は虫の羽音のように小さかったが、今度は明らかな拒否を示した。俺の体を盾にして、先輩たちから隠れる姿は高校生には見えない。

 これではいよいよ子供だ。

「それじゃ、俺たちは控室に行ってますね」

「おう。お互い頑張ろうぜ」

 あまりにもしつこい白銀を連れ、俺たちは少し早めに移動することにした。

 頑張ろうぜ。か。

 本当に彼らにその気はあるのだろうか。

 白銀はあれだけ優しくしてくれる先輩や先生たちにはまったくこころを開こうとしない。その理由を、俺はなんとなく理解しているが、それを言葉にするほど意地が悪くはなれない。

「頑張れよ」

 先輩たちも先生も、俺たち二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 

「ほんとにあの人たちつまんない」

「あんなによくしてくれてるのに、そんな言い方はないだろ」

「これでも十分がまんしたでしょ?僕、えらいでしょ?」

「はいはい。えらいえらい」

「ふふん」

 投げやりな言葉を放り投げる。

 しかし、俺がどんなに雑な言葉を使おうと邪険にしようと、自分からは離れようとしてくれない。

 邪魔なわけではないが、意味が分からない。

 こんなつまらない人間に付きまとって何が面白いのだろう。

「さ、そろそろ準備だ。第三試験の内容はもう頭に入ってるな」

「うん。二人一組のデュオを組んでの隠密作戦。一グループ十組ずつに分かれてのバトルロイヤル。会場内には十メートルおきに監視カメラが設置されていて、カメラに体を捉えられると他のチームに居場所がバレてしまう」

「加えて、銃声などの音で反応するドローンが回遊し、必ずしも遠距離武器が有利というわけでもない」

 白銀は、贔屓目で見ても大人とは言えない。

 気配りなんて全然知らないし、朝もわざわざ起こしに行かなければ必ずと言っていいほど遅刻する。

 まったく。誰かさんによく似ている。

「だからこそ、今回はランダムではなく、自分たちでパートナーを決めることが出来る」

「ふふ……」

「なに笑ってんだ?」

「だって、嬉しいよ。兵くんからプロポーズしてくれるなんて」

 体をうねらせる彼女の動きはなかなかに気持ち悪い。もちろんそれを口に出したりはしないが。

「そんなこと、一言も言ってないぞ」

「なんだっていいよ。あなたから誘ってくれたことが僕は全身の血が沸騰するほど嬉しんだ」

「……それが、不純な動機でもか」

「へ!?」

 たしかに、俺は自分から白銀をパートナーに誘った。

 だがそれは、ただ単に戦力としてしか彼女を見ていないからだ。

 褒められたやり方ではないが彼女は俺の目的である一人の男と、一度戦闘を経験している。

 ほかから見れば本当にどうでもいい私怨。

 そいつのことを嫌いになったわけではないんだ。

 あいつには任せなきゃならない大切なこともある。

 それでも、俺は、あいつにだけは負けちゃならん。

「え、えっとね。なんていうか、まだこころのじゅんびが……」


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