反省
「十戦やって二勝八敗か」
食事を終えた天音たちは、施設に用意された仮想戦闘ルームに向かった。
「やはり徹の大ぶりの一撃だと、ガラス一枚程度の耐久度しか発揮できないな」
「競り合いになれば少し弱いかもしれないけど、それだけ手数が多いとそれも弱点とまでは言えないわね」
「攻撃力は十分。手数も相当。加えて目では確認できないんですから初見ならまず勝てませんね」
十戦勝負は一年生の頃から行っていた訓練で、これをすべての組み合わせで行っていく。
普段なら勝った負けた程度で済む話だったが、試験の最中ともなれば武器の強みや弱点に対する意見も盛んに交わされる。
「それじゃ、次は私の番ね」
「頼む」
すでに第二試験で今日は相当数の敵を相手にしているはずだが、詩恵のやる気は一切欠かれていない。
こちらは連戦ではあるものの、射程が長く最も不利な状況を作ることが出来る詩恵との戦いはとても重要な訓練だ。
俺にも断る理由はない。
『仮想訓練。一本目、開始』
感情の無い合成音声がスタートを告げたのと同時に、詩恵のメテロが十数本の拡散する矢を放つ。
詩恵の腕から放たれた矢たちは天音の逃げ道を塞ぐような軌道で飛来し、それを理解したうえで天音は『見えない斬撃』の展開を待つ。
後方へと抜けていく矢を無視し、後ろに下がりながら放たれた、さらに威力を乗せた矢に神経を注ぐ。
これもあえて能力を乗せていない剣の連撃で叩き落とし、一瞬も詩恵を視界から外さぬ動きで常に射程を計る。
しかし、詩恵はなおも距離を取り、逃げ道を奪う拡散、天音自信を狙った集中。そして、一瞬でも隙を見せれば狙いすました本命の一撃を撃ち込んでくる。
三段階に分かれたこの攻撃は近距離武器の相手ならまず間違いなく苦戦を強いられる。
大玉を避けようとすれば拡散弾の被弾には目を瞑らなければならず、多少のダメージ覚悟で前へ出れば死角に入った集中弾が体に風穴を開けるだろう。
厄介だ。
足を止めれば逃れるチャンスはもうない。
常に距離を詰めるように動けば、大玉の威力も上がる。
近接に寄られた場合、詩恵の勝率はそこまでいいものとはいえなかったが、ここまで練り上げられた作戦があれば大抵のアタッカーとも勝負できるだろう。
むしろ、安易に近寄って勢いに呑まれてしまえば即死もあり得る。
さあ、どうする。
『見えない斬撃』を展開するのも一つの手ではある。
限界の集中力を用いれば、拡散と集中を同時に捌くことだって可能だ。
しかし、それでも勝率は五分といったところだろう。
すでに左腕と右足に被弾し、徐々に躱しきれない弾が増えてきている。すぐにでも決断を下さなければもうどの手段も無意味になってしまう。
やるしかないか。
「『見えない斬撃、起動』
集中弾の絶え間を狙い、一瞬で拡散と集中の両方を切り落とすだけの斬撃を発動させる。
ほんのわずかな時間ではあるが、まるで光のトンネルのようだった弾幕が霧散し、詩恵の姿が二十メートルは離れた位置に確認できた。
弾切れを起こすことはない弓を利用し、器用に打ち分ける詩恵の戦略。
普段、大雑把な性格をしている彼女だが、戦闘に関しては特に繊細だ。
最大限の集中ならば、おそらく有効射程はスナイパーライフルにすら迫るほどだろう。
この距離でも、『見えない斬撃』による防御をすり抜けるくらいの威力を持った矢が飛んできてもおかしくない。
来る。
「持続力、シフト」
直後、視界が真っ白な光で覆い尽くされ、ガラスが砕けるような破砕音が鼓膜を突いた。
「これは」
あまりにも不自然な詩恵の攻撃に、思考が一瞬、停止と近づく。
渾身の一撃だと思われた一矢に天音は最大限の防御を合わせた。同時に前に出る作戦だったが、不意な閃光がその足を止める。
ほんの一瞬の出来事ではあったけれど、『見えない斬撃』の防御に隙を作ってしまうほどには大きな一矢だ。
「終わりよ」
閃光は一秒ほどで消え、目が見えなくなるほど強烈なものでもなかった。
「さすがだよ。また速くなったな」
「これで、一勝目。まだまだやるわよ」
「もちろんだ」
背後に回った詩恵の矢が天音の頭を貫き、一戦目の結果を告げるアナウンスが耳に届く。
ほぼ同時に覚醒した俺はすぐにスタートラインに立ち、二戦目の開始を待った。
「五勝五敗。やっぱり『見えない斬撃』を使うようになってからかなり強くなってるわね。久しぶりに勝ち越せると思ったけど、対応が早すぎるわ」
「先生がいいからかな。成長が止まったら、それこそ三宮先生に申し訳ない」
一戦目以降、詩恵が連続で三本先取し、その後四本連続で勝利してなんとか後半で巻き返すことができた。
ここのところずっと天音の勝ち越しが続いていたためか、詩恵は引き分けても不満が残ったようだ。
「それにしても一戦目のあの動きは見事だった」
「ありがと。そんな秘策も天音相手だと必殺じゃなくなるみたいだけど」
「『見えない斬撃』が無ければ手も足も出なかったんだ。俺みたいなイレギュラーは眼中になくて構わないだろ」
「負けず嫌いは理屈じゃないのよ。次、徹相手してくれる」
「おう。望むところだ」
天音はステージを徹に譲り、端の方で観戦していた雀と津久野の元へと向かった。
やる気が最高潮に達した詩恵は、苦手なはずの徹を相手にして吠える。その雄々しい声を背中に浴び、天音は淡々と対戦の反省を脳内で繰り返している。
二戦目以降は常に拡散弾に囲まれないような立ち回りでなんとか中距離の戦いを演じることが出来た。
天音の集中によって操作される『見えない斬撃』のシフトも目に見える変化がないため対応される可能性は低く、まだまだ拙い操作でも十分の効果を発揮している。
しかし、それでもシフトが間に合わず、反撃に転じれる場面を逃してしまったり、防御が間に合わず無防備な体に矢を受けてしまったりといったミスで勝ち越すには星が足りなくなってしまった。
問題は処理能力の遅さと許容量の不足。
そもそも存在しない手足を動かしているような感覚で操る『ソーサラー』
膨大な量の情報を処理するだけでも相当な計算能力が必要だ。脳、脊椎、腕、手のひら、指先まで徐々に伝わっていく感覚を何千回と繰り返してようやく動く戦闘体で、プラスしてそれだけの動きを連続で続けると脳が焼き切れそうな感覚がやってくる。
その制限すら取り払う方法もあるにはあるのだが、それだけは金輪際何があっても使用することはない。
「まだまだだな」
「ん?何か言った?」
「いや、なんでもない」
先週はお休みしてしまい申し訳ございません。
たった二千ちょっとの話も私にとっては血を吐くのと同じくらい絞らないと出てこないのです。
何をいってもいいわけですね。
ごめんなさい。




