親友の影
「総合ポイント、八十二ポイントか」
現在移動している狙撃手の得点は、つい先ほど討ち取った最高バウンティを加算し、一位の座を台頭した。
マップの上では点と点が動き回っているようにしか見えない殺風景な景色だが、実際に行われた戦闘もそれほど面白いものではなかっただろう。
戦闘の縮図であるマップ上ではたった三十センチほどの距離しか離れていないように見えるが、本物のフィールドでは約六百メートルは離れているはずだ。
仮想世界においても、物理の法則は現実世界のそれとほとんど差はない。地球の自転や風の影響こそないものの、重力の計算だけでも相当の対応力が必要になる。
それに加えて発砲時に見せる仮想体の反応で、初弾であっても躱される可能性はかなり高い。
それをこの生徒は、ほとんど同時に四人の目標を撃ち抜いて見せた。
まぐれでも偶然でもなく、この狙撃手は長距離狙撃で敵を仕留める実力を持っている。
狙撃銃は、武器の性能自体はそれほど高くないため、高い計算能力を有していなくても扱うことが出来る保有率は最も高い電子刃の一つでもある。
しかし、これは使い手の攻撃力を電子刃で補うために一撃の威力を高めた分攻撃頻度が極端に遅く、使い勝手という意味ではあまりいいとは言えない。
だからこそ、使い手自身の能力が最も顕著に表れる電子刃と言い換えることもできる。
こいつの射線には、出来るだけ入らないようにしないとな……。
幸いなことに、第二試験のマップ上には獲得ポイントが表示されているため、一定の距離を保つことが出来る。
仕掛けるにしても、中盤のこの場面ではリスクが高すぎる。
すでにフィールド内には二桁を超えるポイントを保有した者ばかりが残り、それらすべてはここまで生き残った猛者ということになる。
下手に動けば、狙撃手どころか、そこらの伏兵にも狙われることになる。
第二試験の時間制限は五時間。三十分を超えた時点で半数が脱落というのは一見ペースが早いようにも見えるが、人数が減ればその分慎重にならざるを得ないため、それくらいの時間が妥当だろう。
ならば、まずはその伏兵たちから叩いていくべきだろう。
天音は、もう一度マップ上でフィールドの建物の配置を頭に詰め込み、出来るだけ多くの敵の場所も記憶する。
ただし、あの狙撃手だけは、たとえほかの何を失念したとしても場所の確認をしなくてはならない。
その点の動きをじっと目で追いかける。
そして、完全に動きが停止した瞬間、彼はマップを閉じ、潜んでいた路地から飛び出した。
大通りに出た天音は、すぐさま電子刃を起動し、一切迷うことなく真っすぐに疾走する。
通りは先ほどまでの喧騒が嘘のように鎮まり、開けた道には一人の姿も確認できない。
しかし、高バウンティが自ら顔を出したことで、路地や建物に潜んでいた伏兵たちがまるで示し合わせたかのように一斉に襲い掛かる。
「わかりやすくて助かる」
射程持ちや天音の剣よりもはるかに大きい剣、二刀流など一目では情報を処理しきれないほどの敵がただ一つの対象を求めて飛びかかる。
「一番槍、貰った!」
もっとも接近した槍使いが剣の間合いよりも二倍ほど遠い位置から攻撃を放つ。
「よし。全員射程ないだ」
天音の剣を振るったのは三度。
漁夫の利を狙った敵が一直線上に並び、槍使いを含めた五人が十個の肉片に変わる。頭ごと両断されて即死した者もいれば、辛うじて急所を外してはいるものの身動きが取れなくなって地面でもがいている者もいる。
あと残っているのは近づくほど不利になる弓や杖、銃使い。
有効射程は守っているのか、ほとんどの敵が同じ程度の距離感を保っている。
最も遠いもので十二メートル。欲を張らずもう少し間合いを取っていれば、天音の剣の射程外だった。
照準を合わせていたはずの彼らは下半身が切り離されたせいで狙いが大幅にずれてしまった。ほとんどの弾は天音から一メートルほど離れた場所を通り過ぎていく。
その中には運が良く頭に飛来するものがあったけれど、それくらいのカバーが出来る程度には余力を残していた。
およそ十人ほどいた襲撃者たちは、たった三振りの斬撃で全滅した。
もし俺の剣が普通の射程でそれなりの威力を持った剣だったなら、もう少し扱いも楽だっただろう。
脳の処理を余計に振らず、ただひたすらに相手の動きを読むことだけに集中すればいいのだから。
戦闘は出来るだけシンプルな方がいい。
刹那的な思考の差がそのまま勝敗に直結する。俺の計算が他より少しくらい高くてもそれらの差を埋めるにはまだまだほど遠い。
俺のこの見えない斬撃にしても、初見の相手だからこそこうやって単純な攻撃でも切り伏せることが出来る。
だがもし、俺の情報をすべて知り尽くした相手が現れたとすれば、その時はやはりセンスや勘に頼った勝負も必要になる。
おそらく、兵司と戦うことになったなら俺は勝てない。
気が付くとフィールド内に残っている敵の数は一桁台まで減っている。
自分が倒した数を二十としても、すでに三十近くの人間が脱落している計算になる。
その中で、天音に次いでポイントの高い点がここから代替二百メートルほど離れた位置に陣取っている。
少し距離があるが、これがあの超距離射程持ちだったならすでにここも有効射程内ということになる。
試験終了まであと十数分。
これ以上ポイントを積んでも大して意味はないだろう。
本来ならばここの戦局で動くことはあまりいい選択ではない。
がしかし、この超距離射程持ちからはなぜか放っておけない。強敵であることは確実であり、常に相手の射程内であるこの状況でもなお、俺はこいつと戦わなければ、会わなければいけない気がしてならないのだ。
お久しぶりです。
約七月振りの更新で申し訳ありません。
ようやくこちらの作品に着手する時間が出来、これからは週一連載で頑張っていきたいと思います。
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