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閑話

 試験を終えた天音たち一行は、それぞれの今日の結果を話しながら食堂へと向かっていた。

 仮想体の身体とは言え、精神をすり減らす戦いのあとで彼らはすでに眠気を感じるほどに疲れ果て、あくび交じりに話をしていた。

「え、天音は第一試験、新藤とチームだったの!?」

 試験の結果を四人で共有している中、新藤の話題が上がった途端、苦虫を噛み潰したような渋い顔をした詩恵。そんな彼女の表情を見て、雀と徹も天音に対して言葉にはしないが、「大丈夫だったのか?」と眉をひそめて問うて来る。

「さすがの新藤も、そこまで戦いに見境がないわけではなかったみたいだ。ちゃんと戦ってくれて、頼りになるやつだった」 

 彼らの反応はもっともで、天音自身も彼への疑念が全くなかったわけではない。

 自分と新藤の二人のチームが出来上がったときは、それなりに勘繰ったりもしたが、紀伊との対戦での彼の意外な行動に、すでに天音の中での敵対心のようなものは完全に払拭されている。

「へえ……たしかに、敵としては面倒な相手だけど、実力は本物だもんね」

 天音以外で、唯一新藤との戦闘経験がある雀も、まだ怪しんではいるが彼の実力を加味してどうにか納得したようだ。

「まあ、天音と城野のチームなら寄せ集めのチームじゃあ敵わないよね」

「三十八ポイントなんて、ほとんど天音のチームに全滅させられてるんじゃないか?」

「ほかの三人も能力が高かったし、なにより開始地点が敵に囲まれていたからな。嫌でも相手にするしかなかったんだ」

「それを返り討ちに出来るって所がすごいのに、どうしてそこまで謙遜するかねえ」

「それが天音だろ。もっと頑張らないと、そのうち置いて行かれそうだな」

 こんな風に、彼らは天音の成長について嫌味のような発言をしているが、彼らの単独戦果も相当なものだ。

 天音の討伐数が十二と平均を逸しているのは間違いないが、ほとんど正面から相手しない奇襲とカウンターでの戦果。

 それに対し、雀たち三人は住宅街フィールドでの正面戦闘での戦果。そんな地力の問われる状況でも彼らは、それぞれ七ポイント以上の結果を残している。

「それにしても、今日は疲れたねぇ。これが五日間も続くとなると少ししんどいかも」

「試験はそんなに長くなかったのにね」

「就寝時間まで戦闘ルームを使っていいらしいが、今日はやめておくか」

「そうだな。俺も今日は少し調べたいことがある」

「調べたいこと?」

「ああ。少しな……」

 彼らにはまだ紀伊藍のことは話していない。

 特別秘密にするような理由があるわけではないが、試験の最中に集中を乱すようなことをわざわざ雀たちに話す必要もない。

 千人の中から一人の生徒を探し出すことは相当困難なことだが、同じ制服の生徒を探すくらいは大して難しいことではないはずだ。

 そいつらに話を聞けば、あれだけの力を持った生徒の噂くらいは聞き出せるはずだ。

「それじゃあさ、今日はサボってお風呂でゆっくりしようよ」

 ずっと眠そうな目をしていた詩恵が、急に目を輝かせて一歩身を乗り出した。

「風呂?部屋に備え付けてあったユニットバスでか?」

 お風呂と言われて初めに連想したのは、徹の言う通り部屋ごとに設置されていた小さい箱のような浴槽だった。

 しかし、あんな手足を縮めて入らなければならないような小さな風呂ではくつろぐことは難しいように思える。

「それがね、ここの施設案内を見てたら大浴場を見つけたの!」

「大浴場?」

「なんでそんなもんが研究所のなかにあるんだ?」

「それは知らないけど、ここの施設内の設備は好きに使っていいって言ってたから、私たちが入っても問題ないってことでしょ」

「そうだね……そうなのか?」

「わからない」

 屁理屈のような詩恵の理論に、いまいち納得のいかない三人は揃って首を傾げた。

「いいったらいいの!さ、早くご飯食べて行きましょ」

 

「俺、時々、詩恵の強引さを尊敬することがある」

 徹の声がタイルの壁に反響し、エコーが掛ったようにして隣に座る天音の耳に届く。

 詩恵の言った通り、大浴場は生徒たちにも開放されていて、天音たちも自由に湯浴みを楽しむことが出来た。

 ほかの生徒たちはこのことを知らないのか、天音たち以外の姿はなく貸し切り状態で誰に気兼ねすることもなく大きく手足を伸ばすことが出来る。

「やっほー!」

 一枚の壁を隔てた向こう側からはしゃぐ詩恵の声が聞こえ、向こう側も彼女ら以外に客はいないようだ。

 直後、激しく飛び散る水飛沫の音がそれを裏付けた。

「詩恵、危ないでしょ」

「大丈夫だって。誰も見てないし聞いてないよ」

「聞こえてるぞー」

「ひゃあ!?」

 壁越しで姿は見えなかったが、その裏返った声で彼女が顔を真っ赤にしている姿が簡単に予想できた。

「ど、どこ!?まさか、混浴なんてことは……」

「落ち着いて詩恵。壁の向こう側だから」

「いやー!もう恥ずかしい!」

「あ、ちょっと待って!」

 一しきり騒いだ女性陣は、ばたばたとどこかへ駆けていき、急に水を打ったように静かになった。

「なんだ、もう出ていったのか?」

「露天風呂に行ったんじゃないか?」

 

「いい加減機嫌直してよ。あんなことで徹は気にしないと思うよ?」

「あいつが気にしなくても、私が気にするの!」

 顔を湯に沈めてぶくぶくと不貞腐れる詩恵を、雀はまるで子供を慰めるように話しかけていた。

 まだ日の沈まない時間帯。露天風呂とはいえ特に景色のいい場所でもなかったが、装飾はなかなかにこだわっていて、まるで庭師の仕事のようだ。

 いつもは二つに結んでいる髪を湯船に付け、小さく縮こまる詩恵の姿は思いのほか可愛く、彼女は仏頂面だというのに雀の口元とは緩んでいた。

「ちっちゃくなった詩恵可愛いね」

「ちっちゃくない……ち、っちゃ……く……」

 突然口ごもった詩恵の視線が上下に動き、雀の顔と胸のあたりを何度も往復させる。

 そのたびに大きく見開かれる目が少し怖く、今にも飛び出して来そうだ。

 そして、最後に自分の胸に手を当てると、意識が飛んだように後ろに倒れた。沈んでいく詩恵を引き上げようとするが、まるで壊れたロボットのようにぶつぶつと何かをつぶやいている。

「……私は高校生……まだ成長期は終わってない」

「どうしちゃったの、詩恵!?」


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