十七室
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48話と49話同時投稿になります。
「僕たちの方は、戦闘中だったチームの漁夫の利で五ポイント獲ることが出来た。三人とも生き残れたし、まあまあな戦果だと思う」
「二人とも、地上での戦いの腕はさすがなもので、やっぱり一対一だとまだまだ敵わないです」
「そんなことないですよ。津久野さんのあの動き、少なくとも第二の生徒であんなに速く動ける人はいません」
人数を絞ったことで、お互いの力をさらに近くで確認したらしい彼らは、よかったところや改善点まで言い合えるほど団結力が高まったようだ。
考えてみれば、戦闘経験が浅い順に三人選んだメンバーとも捉えることが出来ることから、危険も十分にあったと言える。
しかし、彼らはそんな重圧に屈することもなく、しっかりと役目を果たしてくれた。試合開始直後からすれば、この短時間で劇的に成長している。
「城野さんたちの方はどうだったんですか?」
「……」
松原が天音に問いかけてみるが、残念なことに彼の耳にはその声が届かなかったようだ。
タイルの床を見つめたまま動かない彼を心配して松原が肩に手を置こうとするが、それを遮るように新藤が声を上げた。
「俺たち二人は計四ポイントを獲得した。途中で俺は死んだけど、それも城野がとどめを刺してくれたから、相手にはゼロポイント。不測の事態ではあったけど、最低限の被害にとどめることが出来た」
いたって冷静に報告をする新藤だったが、もちろん聞いている方は冷静でいられるはずもなく、焦った様子で津久野が質問を返した。
「え、新藤さんがやられたんですか!?」
ほかの二人も新藤の曲芸じみた動きをその目で見ている。だからこそ、その彼がやられたことだけでも驚きなのに、それが最低限の被害と称されていることは簡単に消化できるものではなかった。
「二人係でなんとかなるかなってくらいだったんだけど、城野のその様子からするとなんとかならなかったみたいだね」
今もなお、あの金髪の少女の姿が頭から離れない天音の呆けた顔を見て、新藤も敗北を悟ったらしい。
「そんな……城野さんと新藤さんの二人で勝てないなんて……」
「そ、そんなに落ち込むことはないだろう。同じ学生でも上には上がいるってことだ。まだ自信を無くすような状況じゃない」
「……」
必死にフォローしようとする浜岡に松原も無言で頷いて賛同する。
「大丈夫、落ち込んでいるわけじゃない。ただ……あの子は……」
今更誰に負かされようとも天音のメンタルに響くことはない。まして、今までの戦歴を考えれば、敗北の方が圧倒的に多いわけで、この程度で落ち込むのは調子に乗り過ぎだろう。
「あれは完全に見えてたね」
「見えてたって、なにがですか?」
「城野の『見えない斬撃』不可視の斬撃をあの女の子は、まるで見えているかのように躱して見せた」
あの時、唯一彼女の動きを見ることが出来た新藤は、あの背中越しになにが起こったのかを語った。
「作戦は俺が先に斬りかかって、城野の姿が相手の死角に入った瞬間に俺ごと城野の剣で斬るっていう特攻だった。どんなに反応が早くても、視界が塞がれた状態で手元も見ずに城野の剣を避けるなんて不可能なはずだった。けど、あの子はそれに対応して見せた」
天音を含め、四人が固唾を呑んで見守るなか、新藤は話を続ける。
「死んだわけじゃないみたいだけど、完全に攻略されたと思っていいだろ?」
「……」
「ああ、新藤の言う通りだ」
「そんな……」
天音が肯定したことで、彼らの様子を窺っていた三人にもより一層の不安を与えることになってしまった。
天音の敗北が直接的に浜岡や松原に関わるわけではないが、せっかく認めてくれた彼らの期待を裏切ってしまったことに変わりはない。
しかし、そんな彼らの感情に寄り添ってあげられるほど、天音の心にも余裕があるわけではなかった。
あの少女は一体なにものなんだ……。
何度思考を繰り返しても、結局はこの問いに回帰してしまい、一向に答えは出そうにない。
紀伊藍という名前にも聞き覚えはなく、そもそも、あんな強烈な風貌をした女の子を完全に忘却することなどありえない。
しかし、彼女と天音の間には記憶の矛盾が存在し、明らかに彼女の方は天音のことを前から認識していたようだ。
『楽しみにしてますよ……天音さん』
唯一、声だけはどこかで聞いたことがあるように気がするが、たったそれだけのヒントでは彼女の正体を掴むことは出来ない。
だが、あの声はまちがいなくどこかで……。
「でも、考えてみれば、そんな強い子も僕たち人間側の味方なんだから、そんなに気にしなくてもいい……のかな?」
「たしかに、そうなんですが、やっぱり私はショックです」
「私も……」
「でも、今は素直に総合得点一位を喜んでいいだろう」
「城野さん?」
「悪い。俺のせいで少し暗い雰囲気になってしまったな。たしかに紀伊と名乗ったあの少女は強かったが、浜岡の言う通り彼女は敵じゃない。気にすることはないんだ」
「……そうですね。でも、次は絶対に勝ってくださいよ!試験中にご一緒することはもう無いかもしれませんが、私応援してますから!」
「……!」
より一層熱気の籠った津久野の声援と、激しく首肯する松原。彼女らの迫る勢いに気圧され、熱を帯びて回転し続けていた脳がその動きを緩め始めた。
「お互い、いい結果が残せるといいな」
「はい!」
「……!」
そう、まだ時間はある。
あと四日間のうちに、紀伊藍は間違いなくまた天音の前に現れるだろう。
俺はその時まで、頭の回転さえ止めなければ、いつか彼女の正体に近づくことが出来るはずだ。
『お疲れさまでした。本日の試験内容は以上となります。これから生徒の皆さんは、宿泊棟に移動し、一時間の休憩になります』
スピーカーから流れてきたアナウンスに従い、仮結成された十七室のチームはこれで解散だ。
「短い時間だったが、君たちと同じチームで戦えて本当に良かったと思う。特に城野、君は絶対に特記戦力になれる実力がある。もしよかったら、浜岡景伍の名前を憶えていてほしい」
「私も、ちゃんと自己紹介できなくてごめんなさい。松原詩乃。もし、城野さんが隊を率いることになったら呼んでくださいね」
「ありがとう。期待に応えられるように俺も出来る限りやってみるよ」
二人と固く手を結び、五人は十七室をあとにした。
相良第二の二人と別れたあと、咬園の三人は学校ごとに決められた宿泊棟へと移動していた。
「そういえば、津久野は梶先生から訓練を受けているのか?あの人はあまり戦闘が得意そうには見えないが」
「得意かどうかは知りませんが、試験中にも話した通り、先生は電子刃ばっかりいじって戦闘のスキルなんて一切教えてくれません。まあ、その分多少電子刃のいじり方は学べるんですが、私には難しくて」
「電子刃をいじる?メンテナンスということか」
「いえ、汎用型に限ってですが、少しだけバランスを崩して性能を特化型に近いものに変えることが出来るんですよ」
「汎用型を特化型へ?それはすごい技術じゃないか」
現在、特化型の電子刃は数時から予想すると、五十一本しか造られていない。
例外的に天音の『S』のような出来損ないがほかにも存在するかもしれないが、基本的に五十一から百番までが特化型とされている。扱いが難しい分、誰でも使いやすい汎用型に比べて強力な力が備わっていることが多い特化型電子刃は、人によってはそれを持つだけでも十分な戦力アップに繋がる。
もちろん、汎用型の電子刃に満足しているはずもない新藤はこの話に食いついた。
「津久野ちゃん、その話もう少し詳しく聞いてもいいかな?」
「え、新藤先輩にですか……」
露骨に嫌な顔を見せた津久野だったが、新藤はそれを意に介さず彼女に迫った。
「例えばだけど、俺の『グリーム』をいじれば、どう変化する?」
「『グリーム』なんて、私触ったこともないんですが……」
「それじゃ城野、ちょっと津久野ちゃん借りてくよ」
「ちょ、なんでそうなるんですか!」
抵抗を見せた津久野だったが、強引な新藤に引きずられていく。
彼らの姿を目で追っていると、ちょうど向こう側から歩いてくる雀たちの姿が目に入った。どうやら向こうも天音に気が付いたようで、手を振っている。
試験一日目は終了し、天音はつかの間の日常へと戻る。




