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第一試験 Ⅳ

「それじゃあ、次の目標についてだが、当初の通り俺と新藤、浜岡、松原、津久野の二手に分かれて適時対応する。問題ないか」

 十七室のメンバーは輪になって天音の指示を聞き、特に問題はないと判断してくれたらしく、全員が首肯して天音の案に賛同する。

 チームの指揮を執るというのは経験がなく、浜岡や新藤に頼みたかったのだが、話の流れで天音がその責を負うことを余儀なくされた。

 しかし、二分されかけていたチームをまとめるためには、意図せずしてではあったものの中立の立場にあった自分が場を納めるのにちょうどよかったことは否めない。

 マップの端に表示された分の桁はすでに一桁に割り込み、敵チームから距離もあるため全員で動いていては一チーム分しかポイントを稼ぐことが出来ない。

 そこで、新藤が初めに出したチームを二手に分けるという案を採用したわけだ。

「もう時間はない。無理はしなくていいが、敵もポイントを稼げなくて焦っているはずだから、落ち着いて不意を突けば数の有利はひっくり返る。大丈夫、お前らならできるさ」

 少し自信なさそうに頷いていた浜岡と松原に声をかける。

「大丈夫ですよ。私だって緊張してますが、城野さんに褒められるためなら頑張れます!」

「そうですね」

「そうだね。戻ったら、城野に取ったポイントを自慢してやろう」

 気合が不安を打ち払い、普段の状態を取り戻した二人は大きく頷いた。

「じゃあ、行ってきます。二人とも、行きましょうか」

「ああ、先頭は僕が務めよう」

「……」

 無言で頷く松原だが、これが彼女の一番落ち着いた状態なのだろう。

 彼らは東の方角へとつま先を向けると、持ち前の敏捷性で颯爽と森の中を駆けていった。

 新藤がこの状況を予見していたかどうかはわからないが、このチーム分けは機動力重視と攻撃力重視と二極化された強力な布陣が完成している。

 浜岡たちのチームはここから少し離れたチームにも急襲が可能であり、天音たちのチームは最悪二つのチームを同時に相手にすることになっても対応可能な強力で単純な力がある。

 特に、新藤の光剣は一見単純な太刀に見えて、その実防御不可能というノーガードでの殴りありになるという性能がある。しかし、実体のないことを知らない状態で、この斬撃を初見で見破ることが出来るものはほとんどいないだろう。

「俺たちも行くか」

「そうだね」

 敵としては厄介な相手だが、味方になると心強い。なにを考えているのかわからないうえに、何かと天音に対抗心を燃やしているやつで不確定要素がいくつかあるが、今は勝利という明確な共通の目的がある。

 しかし、道理のうえではそうだったとしても、目的のために人格すら偽るような戦闘狂に常識を当てはまるのは間違っているような気がする。

「……」

「そんな睨まなくても、噛みついたりしないから安心しなよ」

 天音の視線に勘づいたのか、前を走る新藤は足を止めることなくそう返した。

「あんまり大人しいから怪しむのもわかるけど、俺はそこまで見境ないわけじゃないよ」

「……」

「なるほど、信用無しか。それならわかりやすく説明してあげよう。まず、君が食いついてくることを予想してチーム分けを提案したと思ってるのかもだけど、それは正解。津久野ちゃんが来てなかったら、もしかすると相良第二の二人は躊躇なく切り捨てたかもしれない」

 悪びれることもなく自分の意図を話す新藤に対し、腹黒さを感じずにはいられないが、天音の中にも少しはそういう考えもあったことを否定しきれない。

 敵の電子刃がわかっていないあの状況で、浜岡に飛びかかる三人の敵を冷静にタイミングを計ることが出来たのは、彼らの生死よりも敵の撃退を優先したからだ。

 だから、新藤が辛辣にも言葉にしたことを責めることは出来ない。

「でも、別に君と二人でチームを組んだからっていきなり飛びかかるほど愚かな行動を取る気はないよ。試験はまだ始まったばかり。こんな状況じゃ君が応戦してくれるわけないし、最悪退場になんてなったらつまらない」

「だから、信用しろと」

「ま、それは城野の好きにすればいいけど、俺はちゃんと君のことをチームメイトだと思って頼りにしてるよ」

 彼が嘘を付いているかどうかを見破れるほど、まだ俺は新藤について詳しくはない。

 そもそも、それほどまでに新藤を理解している人間がいるのかどうかも不確かだが、今の彼には、あの細い瞳の奥に敵意は感じられない。

 だから、普段から敵意に晒されているその感覚を信じ、今だけは信用に足る人物だと判断した。

「わかった。今だけは、お前のことを信用することにする」

「光栄だね。それじゃ、俺を斬らないように気を付けてね」

 マップを閉じ、瞬時に電子刃に切り替えた新藤は、高速で流れていく視界に入った微かな電子刃の光を見逃さず、一気に加速し始めた。

 天音の速度ではその動きにどうやっても対応が出来ず、彼の光剣の紫色の光を追って、暗い森の中を駆けていく。

 その紫色の光は不規則に揺れ、新藤が木の側面や頭上の枝すらも足場として急速に敵との距離を詰めていく。

 しかし、元から自分が置いて行かれることは想定の範囲内。それどころか、言わなくてもそうするだろうと天音の方も準備は整えてある。

 マップを確認し、新藤が一人目に飛びかかったことを確認すると同時に、敵の距離の取り方をしっかりと観察する。

 足は止めず、一度通った道を足の裏だけで辿るようにして出来る限りの最高速度で森を駆け抜ける。

 新藤までの距離十五メートル。これだけ接近すれば、敵に姿を現すことなく援護が出来る。

 マップで確認した中で、新藤の急襲に気づいて唯一距離を取った赤い点の座標をしっかりと頭に叩き込み、その方向を見定めたままマップから電子刃に切り替える。

 距離十二メートル。敵と天音との間に一二本の木はあるものの、斬れないほどではない。

「『見えない斬撃(ミラージュ)火力(パワー)シフト』」

 持続力、速度を削って、可能な限り刃の強度に力を注ぎ、渾身の力で見定めた方向に斬り込む。その方向は人の胴ほどの木が生えて、敵の存在を隠していたが、それを気に留めることもなく、敵の座標だけを計算して剣を振り抜いた。

 見事目の前の木は切り倒され、それだけでなく、目標と天音の間に存在したすべての木を切り倒した。

 その向こう側にいた狙撃銃使いは、レンズに目を据えた状態で胴を切断され、引き金を引く前に絶命した。

「な、なんだ、お前!」

 余計な遮蔽物がなくなったことで近くにいたもう一人の拳銃使いも、銃口の向きを新藤から天音の方に狙いを変え、残弾すべてをフルオートですべて撃ちだした。

 連射性能こそ雀や詩恵のそれを凌駕し得る高い性能を持っているが、威力そして弾速が彼女たちのそれには遠く及ばない。

 そして、無駄に高い連射性能があだとなり、弾道がほとんど同一軌道上を通っている。

 跳ね返りで多少は弾道が上向きになっているが縦方向の動きはないに等しい。

 これならば、引き金を引くタイミングを見てからでも対応が間に合う。

 振り下ろした剣をその軌道をなぞるように振り上げると、ほぼ同時に飛来していた弾丸が火花を散らして爆ぜる。

「はい、残念!」

 紫色の光の残滓を残しながら、光剣が拳銃使いの首を通過する。

 木の陰から飛び出した新藤に視線を向けると、なにやら指でサインを出している。それを直感だけで察知し、剣を握る剣に力を込める。

持続力(バイタリティ)シフト」

「うおらあぁ!」

 直後、怒号と共に斧を持った巨漢が木を薙ぎ倒しながら現れ、新藤に斬りかかろうとする。

「う、お……!?」

 しかし、急に動きを止めたその男は頭から赤い光を散らし、遅れて自分が頭を貫かれていることに気が付いた。

 距離にして二十八メートル。天音の最大の間合いの一歩手前で、彼の判断が少しでも遅れていたら体勢の崩れた新藤は斧で頭を割られていたかもしれない。


 電子刃を解除すると、支えを失った巨躯が地面に倒れ込み、数秒でそのすべてが赤い光になって消えた。

「なんて無茶なことを」

 たしかに、彼があの拳銃使いを仕留めてくれていなければ、天音は運が悪ければ次の弾丸の束を食らってしまったかもしれないが、危ない賭けだったと言わざるを得ない。

 もしかすると、新藤の方が斬られていたかもしれないというのに。

「悪い。俺もまさか、撤退する羽目になるとは思わなかった。正直、他の学校の生徒を舐めてたね」

「……どういうことだ?」

「ごめん。ちょっとそんな暇ないかも」

 その口ぶりでは、新藤が自分では手に負えないと判断して敵前逃亡を図ったように聞こえる。しかし、さっきの巨漢は彼を苦しめるほどの実力を持っていたとは考えにくい。

 だとすれば、新手の出現か。

 がさがさという枯れ草を踏み荒らすような足音が聞こえる。新藤たちが通ってきた道と同じ方向から聞こえるそれは徐々にこちらへと近づき、次第にその姿を露わにする。

「……」

 木をなぎ倒したことで、この場所だけは少しだけ太陽の光が当たり、現れた敵の顔がはっきりと確認できた。

 女の子。

病的なまでの肌の白さと、薄暗いこの場所でも輝いて見えるほどの黄金色の髪色。整った顔立ちながら、凍ってしまいそうなほどの冷たい視線に、二人の身体は一瞬強張ってしまう。

「彼女か」

「ああ、そうだ。こう言っちゃなんだけど、ポイント狙いなら十点はもらわないと割に合わない相手だね」

 他人の評価に対して、新藤が過剰に表現することはよくあることだが、今の彼には嘯くときに見せる余裕が全くと言っていいほどない。

 彼女の手には天音のような紛い物ではなく、見事な装飾の施された直剣が握られている。

 新藤の身体をよく見てみると、身体中に深い傷を作り痛々しく目に映る。

 敵の動きを見てからでないと判断の出来ない天音では、電子刃の情報が全くない相手との戦いは少々分が悪い。

 新藤でさえ一撃も反撃をすることが出来ていない相手。

 この時、天音は心のどこかでチームを二つに分けて本当に良かったと思った。

 彼女から感じるものは初めて戦った時の三宮のそれによく似ている。

 この人には勝てない。

 相対した瞬間に感じた圧倒的なまでの実力差。

生存本能の警笛を聞き、逃げだしたいという衝動に駆られながらも、天音と新藤はなおも張り付いたような彼女の冷たい顔から少しも目を離すことは出来なかった。


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