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第一試験 Ⅰ

お久しぶりです

 視界に光が戻り、閉ざされていた世界が顔を見せる。 

 太陽の光がほとんど届かないその場所には、隆起した大木の根にコケが生え、いつかの雨で地面は少し濡れて移動するには足元が悪い。

 仮想体への換装が終了したほかのメンバーもきょろきょろと辺りを見渡し、自分の位置とステージの状況を確認している。

 換装が済んだと同時に視界に表示された青いウインドウには、第一試験開始の合図と、勝利条件が開示されている。

『戦闘終了時点での撃破ポイントによって順位を決定』

 それ以外の試験の合否に関する記述はなく、この試験でどれほどの評価を得られるのかまでは明記されていない。

「開始地点は最悪だね。ステージのど真ん中だ」

 いち早く状況確認を済ませた新藤は、マップを起動し敵の配置を確認している。それに天音と津久野も続き、各々マップを起動して警戒に努める。

 新藤の言う通り、白い五つの点はマップのほぼ真ん中に配置され、それを取り囲むようにほかの九チームが配置されている。開始してすぐに攻撃を仕掛けられるほど距離がないわけではないが、どのチームと戦闘になったとしても、背後を突かれる危険がある。

 そのうえ、自チーム以外の人間はすべて赤い点で表示されるため、敵の区別もつかない。間違いなく、この場所は最悪の開始位置だ。

「私、周囲の警戒に当たります」

「頼む」

「これは、二手に分かれてる暇ないかもしれないね」

 津久野も状況を理解したらしく、高い機動力であっという間に大樹を掛け上がり、木を伝って索敵を開始する。

 新藤を、置かれた状況に対し冷静に判断し、座り込んで相手の出方を窺う構えを見せた。

「これ、学ラン着たチームはかなりアドバンテージあるね。俺たちみたいに白いシャツだと目立つよね」

「それなら、戦闘服を起動するか」

「それがいいかもね」

 なにか合図を出すでもなく、戦闘服の起動をイメージすると、白い制服が真っ黒な戦闘服に自動で仮想体が変更される。

 相良第二の二人は換装した時点で戦闘服にコスチュームを変更していて、迷彩の戦闘服を身にまとっている。

 最初から咬園の三人も戦闘服にコスチュームを変更しても良かったのだが、状況によっては余計に目立ってしまう戦闘服をほぼ全員の咬園の学生は使い分けている。

「浜岡、松原も上に上がれるか?状況があまりに悪すぎる。ここは一度、敵の観察に徹した方がいい」

「あ……ああ、」

「……」

「津久野ちゃんがいい場所見つけたみたいだよ」

 目線を上に向けると、手を振って合図を送る津久野の姿が目に入った。

 高さは五メートルほどの黒い幹の大樹で、身を隠すにはちょうどいい場所だ。あれくらいの高さなら天音の動きでも難なく登れるだろう。

「やあ、津久野ちゃん。いい判断能力だね。今度気軽に殺しあってみようか」

「殺し合いなら喜んで受けますが、今は電子刃を起動しないでくださいね。目立ちます」

 新藤も、持ち前の身軽さで木の枝を伝って跳ねまわり、難なく津久野の待機する場所へとたどり着いた。

「さあ、俺たちも」

 二人のように俊敏な動きは出来ないが、天音も助走をつけて木の幹を駆け上がっていく。津久野と新藤が待機する場所の一つ隣の枝に足を着き、身を屈めて姿を捉えられないようにする。

「この戦い、少し苦しくなるかもね」

「そうですね」

「……」

 彼らの言わんとしていることは、天音にも理解できる。開始位置の悪さもあるが、それは当面は問題ない。それよりも、問題なのは相良第二の二人だ。

「まさか、マップの起動すら知らないとは、戦闘慣れてないと言っても限度があるよ」

 新藤のことを毛嫌いしている津久野も彼の意見に賛同し、登ってくる彼らの姿を見下ろした。

 天音よりも身体能力において秀でているはずの二人が、かなり足元もおぼつかない動きで登ってくるのを見て、新藤はため息を漏らした。

 あからさまに態度には表さないものの、津久野も少なからず新藤と同じような印象を彼らに対し抱いているようで、冷たい視線を彼らに送っている。

「まあ、城野があの部屋に来る前にある程度のことは聞いてたから、あんまり期待はしてなかったけど、この三人を同じチームにしたところを見ると、彼らの前評判はよくないみたいだ」

「けど、相良って結構有名な学校ですよね。松原さんは特化型を保持しているのに、あまりに戦闘慣れしていなさ過ぎませんか」

「それは相良第一のことだろうね。まったく、宝の持ち腐れだよ」

 入学してまだ数か月しか経っていない津久野に、彼らが経験のなさを指摘されてしまうのには理由がある。

 それは設備の不十分さ。

 咬園のように複数人で同時に使用できるような戦闘ルームを保有している学校は県内でもそう多くはなく、咬園、相良第一、中宮の三校だけで、その他の学校は一対一の戦闘が可能なレベルの設備しかないのが現状だ。

 だから、彼らのように、素質はあってもその力を使いこなせない人材も多く存在している。

「四の五の言っても話は進まない。平面的な戦闘ならば、彼らも力を発揮できる。その状況さえ作ってやれば、十分戦える」

「城野さん……っ!敵、来ます!」

 急に声を張り上げた津久野の緊急信号に、二人の緩んでいた感覚が一気に研ぎ澄まされる。マップを開いたままにしていた天音も、確認を急ぐが、どういうわけかつい先ほどまで違う方角を目指していたチームが一気に距離を詰めてきている。

「なんでバレてんの」

 新藤が愚痴をこぼすが、それは天音も同じ感情だった。

 急すぎる方向転換。明らかに、天音たち十七室チームの何かを捉えての行動にしか思えない行動。

「なんで、まだ電子刃すら起動してないのに」

 津久野、新藤、天音の三人は誰一人として電子刃を起動していない。

 まさか、と思い、下の二人を確認すると二人とも電子刃を起動させ、それらからかすかに光を漏らしていた。

 明るい場所だと気づかない程度の発光だが、これだけ薄暗い空間だとそれ十分な目印になる。

「まったく、嫌になるよ」

「どうしますか」

「幸い、相手も電子刃を起動して全員の位置が捕捉出来ている。新藤と津久野の二人で後ろを取れるか?」

「前はどうするの?」

「俺が援護する」

「城野さん一人で大丈夫ですか」

「ああ、大丈夫だ。なんとかして見せる」

 天音の指示を新藤と津久野は素直に聞き入れ、左右に分かれて森の暗闇の中に消えた。

 敵までの距離はもう少しあるが、詩恵クラスのスナイパーが潜んでいたならば多少のダメージを覚悟しなければならないギリギリの距離だ。

「浜岡、松原。敵が来る。一時の方向、強い光が見えたらすぐに飛び降りろ」

「わ、わかった」

 二刀一対の刀を構えてはいるものの、その姿はあまりにも頼りなく、虚勢を張っていることが相手にも察知できるほどに素直な反応だった。

 結局、彼らは天音たちのいた場所よりも一段低い場所に待機していた。そのおかげでほかの三人の位置までは敵にバレてはいない。加えて、二人の電子刃は二人ともが乖離した二つの刃であったため、敵からは四つの光が見えているはずだ。

 敵は木の陰に隠れながら徐々ににじり寄ってくる。二人の電子刃の光を見て、自分たちの居場所も同様に気づかれているとみての対応だろう。

 この距離まで近づいて一発も撃ってこないところを見ると、遠隔型はいないのか。

 それを確認し、天音は胸をなでおろした。

 天音の中で、敗北の可能性が完全に息の根を止め、それを確定させる断末魔が森の各所から響いてくる。

 後ろを取った新藤と津久野が奇襲で確実に一人ずつ仕留め、これで敵の数は三人になった。

 新藤の光剣の光を合図と判断し、浜岡と松原が地面へと降り立つ。

 その場所は、敵の残りのメンバーが潜む木の目と鼻の先で、好機だと勘違いした彼らは浜岡たちに襲い掛かる。後ろには津久野と新藤が控えているので、後退するよりはよっぽど勝率は高いと思うが、任された以上、天音にはそれらを処理する義務がある。

松原は完全に委縮してしまい、戦意を欠いてしまっている。

しかし、三対二の状況にも、果敢に浜岡は立ち向かおうとしている。だが、集団戦に慣れていない以上、彼だけそんな重責を負わせるわけにはいかない。

 容赦なく襲い掛かる名前も知らない学生たち。彼らにも負けられないという意地が存在し、卑怯だと言うつもりは少しもない。

 天音は五メートルの高さから飛び降り、その滞空時間で電子刃を起動させた。

 黒い刀身はこの薄暗さではより見栄えが悪く、剣と呼ぶには鈍らもいい所だ。一見使い勝手の悪そうなその剣を敵兵三人の動きをなぞるように動かす。

『見えない斬撃(ミラージュ)

 剣のリーチを考えれば届き得るはずのない位置からの斬撃。

 しかし、彼の剣はそれを可能にする。

 一斉に飛びかかった三人の直剣使いは、ついさっき結成したチームにしては統率の取れた動きをしていた。

 綺麗に一直線で結ぶことのできる彼らの動きは、だからこそというべきか、不可視の一刀のもとにねじ伏せられた。

 上半身と下半身が赤い光を零して分かれる。それらの身体は、地面に叩きつけられるが、精神を宿した目は何が起こったのかを理解するために目まぐるしく回転する。

 降り立った一人の青年をその目に捉えたが、消滅するその瞬間まで、自分がなにをされたのかを理解することはなかった。

 大量の赤い光を散らし、消滅していく三人の身体を、同じくなにが起こったのか理解が追い付かない浜岡は茫然と眺めていた。

「大丈夫か?」


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