再開?
今回、三宮女史は教頭という立場から学園に残り、三傑の中からは二葉のみが引率として駆り出されていた。
後から聞いた話だが、一条が引率のメンバーから外された理由が、三宮の監視無しで二人とも外に出すのは危ないと学園長が判断したかららしい。
一人の社会人としてその扱いはどうなのかと疑問に感じたが、普段の彼らの傍若無人な様子を見ていると懸命な判断だと思えてしまう。
「それでは、三組の生徒諸君は二組に続いて入場してくれ」
二組の担任である五木が生徒たちを誘導し、咬園の生徒たちが次々に研究所内の会場へと入っていく。
三宮という学園の柱が不在だからと言って、ほかの教師陣が二葉たちのように問題児ばかりなわけはない。
向こうでは七星が誘導を行っている。むしろ、トップの二人だけが特殊なだけで、ほかの教師たちは実力を持ったうえで大人としての対応も出来てしっかりとしている。
ちなみに五木は徹に勝るとも劣らない屈強な肉体を持ち、あまりの肉体美から女性人気よりも男性人気の方が上回るという偉業を成し遂げている。
「五木先生、なんで現実の身体の方を鍛えてるんだろ」
「なんでって、やっぱり男だったら筋トレは欠かせないだろう」
同種の徹の頭には疑問符が浮かんでいるが、その徹の反応にこそほかの三人は首を傾げずにはいられなかった。
「天音もしてるの?」
「いや、俺は休みの日にジョギングに行く程度だ」
「まあ、なんかすぐ想像できるね。徹と五木先生が筋トレしてる姿って」
「脳みそまで筋肉」
「ん?それは頭の中まで鍛え抜かれてるってことか?五木先生はわからないが俺はそこまで鍛えられてはいないぞ」
「……」
徹の前向きな性格は評価に値するが、まさかこんなあからさまな嫌味すらも通じないとは、もう少し疑うということを覚えた方がいい。
「どうした?」
「「「なんでもない」」」
「わあ、いろんな制服の子がいて面白いわねぇ」
この研究所の会議用海上には関東圏の第二世代の電子刃を所有した生徒たちが一堂に会している。
咬園の生徒が二百名近く、総勢千名ほどの生徒たちがそれぞれの校章を背負いこの場に立っている。
どの生徒たちも電脳科というシステムが導入されていなければ物理や化学、生物などの一般的な理系の学科を目指していたであろう秀才たちばかり。
学校内での試験でも競う相手はだいたい三百名前後。
ここで受ける試験は難関大学の入試試験をも凌駕する倍率であり、受験資格を得られなかった第三世代も含めると日本国内では空前絶後の合格倍率を記録していることだろう。
「あ、あの学校の制服可愛い!」
「男子は学ランかブレザーくらいしか違いがねえから、見ててもよくわからないな」
詩恵ののんきな発現にも真面目に答える徹の姿が滑稽だったが、緊張がほぐれているのは幸いなことだったので特に止めるようなこともしなかった。
「雀はああいうのには興味がないのか?」
同じ女子でも雀の方は、周りをきょろきょろとして一応制服も確認してはいるようだが、あまり熱心に観察しているという感じではない。
「ちょっと、もしかしたら中宮の子も来てるんじゃないかなって思って……」
「……そういうことか」
制服に興味を示すとは珍しいとは思ったが、彼女の目的を知ったことですべてを理解した。しかし、まだ目的のものを見つけられてはいないようでその目には少しだけ寂寥の感情が含まれている。
「大丈夫。あいつもこの会場のどこかにいるはずさ」
「……だといいんだけど」
二人の言うあいつ、というのは天音が中学の卒業以来顔を合わせていない幼馴染のこと。
同じ高校に入学することが叶わず、天音と彼は喧嘩別れのような状態に陥っている。しかし、天音にはもう彼を責める気はまったくない。
彼はあまりに自己評価が低すぎるだけ。それ以外はすべて天音よりも秀でていたはずだったのに、たったそれだけのことで咬園への入学を断念してしまったのだ。
雀は今でも頻繁に連絡を取り合っているようだが、電子刃のことについてなどは一切話してくれていないらしい。
それが、第二世代の電子刃を手に入れられなかったからという理由ではないことを願いたいが、おそらくそんな心配は無用だろう。
「あいつはやると言ったらやる男だ。約束を破るようなことはもう二度としないよ」
「……そうだよね」
天音の言葉で不安が消えたのか、雀は目まぐるしく移動していた視線を落ち着け、兵司を探すことを止めた。
天音もここに到着するまでに少しだけそのことに関して考えていたのだが、それは杞憂であると断定した。
……あの時の白銀の言葉。
風下兵司のことを兵くんと呼んでいたあの少女のこと。彼女の存在自体がいまだに謎が多いものの、その言動から兵司が電子刃を手に入れていることはほぼ間違いないだろう。
それに、来るべき時が来れば兵司の方から現れるだろう。
『お待たせしました。これより第一試験の競技説明を行いますので、お手元のタブレット端末をご覧ください』
受付時に受け取ったのは、受験番号と受験の大まかなタイムスケジュールのデータ。試験は泊まり掛けで五日間に分けて行われる。
途中で不合格になることはなく、全員が最終日までこの研究所で生活することになるため、改めて考えてみると施設がこれだけ大きくなってしまうことにも頷ける。
タブレット端末を開くと、そこには一日目の試験内容が映し出される。
『第一試験は午前十一時より始まりますので、それぞれ指示された会場までお越しください』
放送による説明は簡素なもので、入場してほんの十分程度で会場を後にすることになった。
「会場は第十七室……三人はどうだ」
「私は第六十五室。ここから結構離れてる」
「俺は第二十二室か。天音と近いな」
「ここ百室超えてるんだね。私は第百十二室」
会場は全員がばらばらで誰一人同じ会場での受験は叶わなかった。
しかし、千人もいたら同じ会場で受験なんてかなり可能性が低いだろう。
第一試験の内容が内容だけに、同じ学校の生徒が同じ会場になることもないかもしれないが。
「それじゃ、行こうか」
三人と別れ、天音は施設案内を頼りに第十七室へと向かっていた。
慣れない場所でどこも似たような景色であるため、案内を見ていないと迷ってしまいそうになる。
同じ十七室の人間は五人。
一室に対し五人というのは少ないような気もするが、彼らは一時的ではあるが競い合う敵ではなくなる。試験という状況ならば、敵ではない人間が四人というのは多い方だろう。
ようやく十七室の扉の前にたどり着き、まだ見ぬ受験生たちに対し天音は多少なりとも期待を寄せてしまう。
このメンバー次第で第一試験の評価が決まると言っても過言ではない。
さて、どんな人間がいるのだろう……。
意を決してドアノブを捻り、天音は十七室の敷居を跨いだ。
「やあ、城野」
室内に足を踏み込んだ瞬間、初対面であるはずの相手に名前を呼ばれたことに驚いたが、その姿を見てさらに強烈な驚きが天音を襲った。
「……」
「なんて運命的な再開だ。……望んでいた形とは少し違うが、俺は嬉しいよ」




