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相当試験

土曜日まで時間帯が不定になります。

申し訳ありません。

「状況を理解したうえでここに残ったものは覚悟有りと判断させてもらう。もし、違うという人間がいるのであれば、今から自分の教室に戻ってくれても構わない。その場合は第二世代の電子刃は手放してもらうことになるがね」

 無慈悲なその言葉によって、心の揺れていた残りの生徒たちは逃げ場を失ってしまった。そもそも、これだけあからさまに煽り立てられて反抗心が芽生えない時点で期待薄だと思わないでもないが、いつでも逃げられると思って臨まれるよりはましだろう。

 もちろん、この状況で退陣を決断するような人間は……。

「じゃあ俺、戻らせてもらってもいいですか?」

 静寂を破り、立ち上がったのは三年生の男子生徒。

 気圧されて誰も声を上げないなかたった一人、彼だけは物怖じすることもなく声を上げた。

「ああ、いいだろう。理解した上での言葉ならば、私に止める権利はない」

「そうですか。それではこれで」

 彼はそれ以上は何も、理由すらも離さずに講堂から出て行ってしまった。

 彼のことをよく理解していたわけではないが、なんの考え無しに起こした気まぐれには見えなかった。もちろん、大衆の面前でこれだけ堂々とした態度を取り、臆病風に吹かれたというのは納得できない理由だ。

 なにか考えがあるのか。

「ほかにはいないかな。候補が減っていくのはあまり好ましいことではないが、その子たちを冷遇することはしないと咬園学園の校長として保証しよう」

 二度目の確認で再び数人の生徒が講堂から去っていった。

 しかし、彼らは単に先に去っていった男子生徒に便乗したに過ぎない。彼らは、どれだけ戦闘に秀でていたとしても、今後名を挙げるようなことはないだろう。

 能力で劣っているわけでも、重大な欠陥があるわけでもない。

 欠陥があるとすれば、戦うために必要な戦意が欠落しているという点のみだ。


 もともと進学校であったこの学園に、電脳科という横車を押すような制度が導入された。

 翌年に入学する学年だった天音たちと違って、現三年生は強制的に電脳科への編入が決定し、なにもわからないまま優秀な生徒から順に電子刃が渡されることになった。

 自分の意志でこの場にいるわけではない人間も存在することを理解してやらなければならない。

 適正はあったとしても、それを実行する本人が出来ないと判断すればそれはほかの誰がなんと言おうが不可能なのだ。

 それを千校長も理解しているのだろう。

 三年生の数人が席を離れていく姿を眉一つ動かさずに見守っていた。

 この戦いから離脱するには、自主的に成績を落とすか退学するかの最悪の二焚くしか用意されていない。

 それに加えて、今回のような絶望的な知らせを聞かされ、恐怖心がさらに煽られてもおかしくはないのだ。

 もしかすると、最初に出て行った男子生徒はあとに続いていった彼らのことを思って声を上げたのかもしれない。

「三年生には悪いことをしたと思っている。しかし、今ここでそれについて語ったところで話が進まない。謝罪ならば勝利の後でいくらでもしよう。だが、そのためにはまず、迫りくる脅威を払わなければならないのだ」

 後悔しているようには見えない。

 まだまだ先のある若者たちの未来も大切にされるべきものではあるが、なによりも『ASS』を仕切るものとしては勝利を優先しなければならないのだろう。

「責めるのであれば私を責めなさい。すべての責任は私が取る。来る戦での勝利、それが実現されたなら、私はどんな叱責も受け入れようではないか」

 千校長や三傑、天音のように割り切れる人間ばかりではない。

 この世には一度決めた目標の実態が明らかになれば、投げ出してしまう人間も少なからず存在する。

 しかし、それを否定する資格は誰にもない。

 その本人が後悔する選択だけが否定されさえすればそれでいいのだから。


「それでは、ここに残った人間は自分の意志で、この先の戦いに臨むものということだ。異論はないね」

 誰も立ち上がることはなかった。

 しかし、すべての人間が覚悟の決まった顔をしているわけではなく、三年生だけでなく二年生の中にも表情を曇らせているものは存在した。

 彼らはどちらにも決心が固まらなかったのだろう。

 これ以上の戦力の劣化は誰も望むところではない。

「改めて、特記戦力相当試験について説明させてもらう」


「電子刃には現在君たちが使用している第二世代と、主に教師陣に持たせている第一世代が存在していることは知っているだろう」

「そうなのか?」

 奥に座っていた詩恵が小声で話しかけてくる。

 暗い空間で向こうからは見えてはいないと思うが、あまりこういう行為は褒められたものではないだろう。

 天音は首を動かさず、小声で反応することにした。

「たしかに、生徒の中にも異能を保有する者が二人この学園に在籍しているが、どちらも公式に特記戦力と認められているわけではない。あくまで、異能を持っているという観点から特記戦力に数えられるのも時間の問題だと言われていただけだ」

「へえ……」

「特記戦力に当たる人間は今、第一世代からのみ選出されているが、これから第三世代の電子刃が開発されるなかで、第二世代からも特記戦力の選出が決定した」


「……なるほど」

「天音、どういうことだ?」

 徹も我慢が出来なかったのか、呟いた天音に反応して声をかけた。徹の陰から詩恵の姿も見え、その奥には雀の姿も確認できる。

「第二世代の電子刃は、全校生徒分を賄えるほど用意されていなかった。その割合は約二割。これでは、相手の戦力がほとんど日本の人口に近いと予想される人工知能には到底太刀打ちできない」

「ああ、だから、これ以降に生産される電子刃と分けて第三世代っていうんだろ?それはわかるが、その特記戦力の選出と一体なんの関係があるんだ?」

「電子刃の生産量が増えるということは、兵の数も増えるということだ。訓練された兵ならともかく、教材用の電子刃しか触ったことのない第三世代では戦力にするにはあまりに時間がなさすぎる。そのために、第二世代からも特記戦力を選出することでその兵たちの統率を任せようということだろう」

「第一は課長なら、第二が係長みたいなものか」

「わかりやすい例えだな。つまりはそういうことだ」

 おそらくは、この中から小隊長になりえる人材を選抜しようということだろう。

 そのためにはある程度の戦闘能力に秀でて、試験を通過できるような器量のあるものが適任だということだろう。


「異能の申請には生徒五名以上および教師二人以上の推薦が必要だが。今回の相当試験にはそれらの制限は一切ない。第二世代の電子刃の保有という条件さえ満たしていれば、試験に挑戦可能だ」

 スクリーンの画面が切り替わり、予想される受験者数と合格者の数が提示される。

 受験者数、約二千人。合格者数六十人。

 倍率は三十倍を超え、咬園の倍率よりもはるかに高い。

 競争相手は今ここにいる生徒だけではない。全国各地に存在する電脳科の生徒たち全員がライバルとなり、その少ない席を争うのだ。

「第一よりも数は二倍ではあるが、その分第二の方が受験人数が多い。険しい道になるとは思うが、ぜひともその椅子を勝ち取ってほしいと強く願う」

 千の言葉にも熱が籠る。

 副団長である前に咬園学園の学園長である彼には、この学校から特記戦力を出したいという願いもあるのだろう。

 天音も出来ればこの学園から特記戦力が選ばれることを願いたい。


 しかし、それは自分を除いての話だ。


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