二葉 Ⅱ
先日、間違った小説が投稿されてしまいました。
前33話に関してはまったく関係の無い部分ですので、お忘れいただきたくお願いします。
「二葉、城野と何を話していたんだ?」
「ん?ただの世間話しだよ」
「嘘を付くな」
「えー信用無いなぁ」
「あんな怪しい顔をしたやつを信用しろという方が無理な話だ」
「なにもしてないよ。ただ、」
学生側の席に目を向けると、ちょうど城野がこちらを見ていた。
ひらひらと手を振ってやると、あからさまに視線をそらされてしまったが、それだけ城野の印象に残ったということだろう。
「あいつも二葉のことは苦手なようだな」
「も?あとは誰?」
「私だよ」
似たもの同士で分かり合うところが多いと感じていた三宮と城野だったが、やはり苦手な部類も変わらないようだった。
「おかえり。大丈夫だった?」
「なんとかな。やはり、あの人との腹の探り合いは肝が冷える」
席に着いた瞬間に目があった時は驚きを隠せなかったが、ここまでくれば切り抜けたといってもいいだろう。
しかし、いまだこちらを向いて微笑んでいる彼女を見ていると、まだ安心するのは早いと思わされてしまう。しばらくは、彼女に捕まらないように気を張っているべきだろう。
「さすが、最前線に立っている人間は違う」
「たしか、十二月に一度前哨戦があってるんだよね。その時招集されたメンバーの中に、一条先生、三宮先生、そして二葉先生は参加してたって」
「そのとおりだ」
「前哨戦って、本戦が始まる前のルール確認みたいなものだったって聞いてるけど」
「現時点での最高メンバーで構成された『ASS』側と選抜方法はわからないが三十人の人工知能、通称『TBF』たちとの前哨戦。勝敗に関しては公には公開されていないが、」
含みのある言い方をしたせいだろうか、どうやらなにかを詩恵に勘づかれたようだ。
「天音は知ってるの?」
「……他言しないって理由で三宮先生に教えてもらった」
「天音くーん、私たち、誰にも言わないから教えてくれないかなぁ」
まるで猫が餌をねだっている光景を見ているようだった。
彼女は相当気になっていたのだろう。目をきらきらと輝かせてお願いをしてくる彼女の姿は、もはや小動物のそれだった。
「……」
しかし、他言するなと言われたことを簡単に口にしてしまっては、信用してくれた三宮を裏切ることになってしまう。
安易に口にしてしまった自分に非があるものの、これより先を漏らしてしまうわけにはいかない。
どう応えたものか思案を巡らせていると、雀が助け船を出してくれた。
「詩恵、そんなに天音をいじめちゃだめだよ」
「えぇ、だって気になるじゃん」
「たしかに気にはなるが、先生は天音を信用したから教えてくれたんだろう?俺たちの好奇心で引っ掻き回すのはよくない」
「うぅ、わかった。今は我慢する」
徹も味方に加わり、どうにかなだめることに成功し、詩恵の好奇心は息を潜めた。最後に言った『今は』というのが気になるが、とりあえず今はそれでいいだろう。
「天音も、うっかり漏らそうとするんじゃない」
「悪かった」
徹はしっかりと天音も叱りつけると、いつも通りの穏やかな顔を取り戻した。
本気で怒っているわけではなかっただろうが、言うべきところでしっかりと叱ってくれるところが彼が頼りになる理由の一つでもある。
「三宮先生も、教えてやるなら徹みたいなやつの方が安心だろうな」
「勘違いするなよ。三宮先生はお前を信用してるんだ。それはたぶん、人間性の問題じゃなくて天音だから教えてくれたんだと思うぞ」
「……そうか」
理不尽な叱りには反抗してしまう天音だが、道理の通った叱りならば納得することができる。そして、徹の叱りはちゃんと納得することが出来た。
「なんだか、徹は天音のお父さんみたいだね」
「それじゃあ、雀は天音のなにになるのかな」
目的を果たせなかった詩恵が、ここぞとばかりに雀に対して攻撃を仕掛ける。先ほどと同じように目を輝かせているが、今度はその中に下卑た色が含まれている。
雀がどんな反応を見せるのかを楽しみにしていたのだろうが、天音は雀がなんと答えるかを知っていたため止めようともしない。
雀自身も特に赤面したり、言葉に詰まるといった詩恵が望む表情を見せることはなく、満面の笑顔で答えた。
「私は天音のお姉さんなのです」
「へ?」
望んだような反応も言葉も得られなかった詩恵は間抜けな声を上げ、あからさまに落胆していた。
「私が一番上の長女、兵司が二番目の長男、そして末っ子が天音なんだよ」
詩恵からすれば頓狂な答えなのだろうが、天音は小さいことから言われ続けてきたことだったため笑みが零れた。
「だから、詩恵が天音のお母さんになれば天音ファミリーの完成だよ」
「そうね、私が天音の……ん?私がお母さんってことは……!?」
おそらく雀に他意はなかったのだろう。空いている枠を詩恵に当てがっただけで、それ以上の含みはなかったはずだ。
だからこそ、不意の一撃に詩恵は混乱したのだろう。
下卑た企みは天然という無知の暴力にへし折られ、あろうことか反撃を食らってしまった。
「どうした、顔が赤いぞ」
「だ、大丈夫だから、気にすんな!」
「熱があるんじゃないの?私、体温計持ってるよ」
「熱とか、そんなんじゃないから。大丈夫だから!」
顔を真っ赤にして口をぱくぱくとさせる詩恵の姿を見て、徹と雀は疑問符を浮かべていたが、天音だけはその混沌とした状況を把握していた。
しかし、これは因果応報というものだろう。天音には助けるという選択肢もあったが、墓穴を掘ったのは詩恵自身だ。反省するにはちょうどいいだろう。
口元を緩め静観する天音に詩恵が恨めしそうな眼を向けてきたが、天音は知らぬふりをしてそれを退けた。
『それではこれから、臨時のホームルームを始めます。生徒の皆さんはお静かにお願いします』
詩恵には渡りに船といったタイミングで放送が鳴り、三人の会話は中断されることになった。
「詩恵、辛かったら早めに言ってね」
「無理はよくないからな」
「大丈夫だって言ってるんでしょ。ほうら、静かにしないと、三宮先生に怒られるよ」
講堂内の照明が消え、壇上の明かりのみが堂内を照らしている。
視線は自然と壇上に向けられ、そこに立つ一人の男が目に入った。
咬園学園の最高戦力が三傑の三人だとすれば、学園の最高権力という表現が正しい唯一の存在。
色素の抜け落ちた白髪の老人。白銀のそれとは違い、年相応の髪色に、髭もどうように白く、顔に刻まれたしわの数は彼の生きた時間の長さを物語っている。
しかし、体つきは歳のわりに引き締まっており、権力に胡坐をかいたような生活をしているようには到底見えない。
「生徒の皆さん、急な朝礼に驚かせてしまい申し訳ない。しかし、私の口から直接伝えたかったことだ、了承していただきたい」
ほんの数秒前まで各々の行動に集中していたはずの講堂内は、一瞬で静まり返り、彼の言葉を一言も聞き逃すまいと固唾を呑んで見守った。
「さて、これから皆さんに話す内容は、この場にいる全員に関係のあることだ。心して聞いて欲しい」




