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新藤戦 Ⅸ

開戦の火ぶたはとっくに切られている。

 しかし、お互いに一定の距離を保ったまま飛び出しはせず、探り合いは思った以上に長引いている。

「うちのあの子。ああ、白髪の子ね。白銀(しろがね)っていうんだけど、かなり強かっただろう?」

「そうだな。まさか初見で見切られるとは思わなかった」

 白銀(しろがね)というのか、あの少女には、一太刀目から斬撃の軌道を読まれて無傷とまでは言わないものの、致命傷には及ばない程度にとどめられてしまった。

 そして、相手が切り札を出して完全に手の内を晒した瞬間に、満を持して後出しの切り札。

 頭脳戦という目に見えないフィールドにおいても天音は彼女に大敗を喫した。

「もう理解していると思うから話すけど、彼女の電子刃『ホーネット1111』って言うんだけど、気を付けてないとあの子いつ撃ってくるかわからないよ」

 その直後、まるで新藤は予見していたかのように、白銀(しろがね)の指先から最速の光弾が放たれた。

 完全に意識の外側からの攻撃ではあったが、新藤の言葉で対応が間に合い、叩き落すことが出来た。

「ほうらね。邪魔しないで、って言っておいたんだけど、絶対聞かないと思ってたよ」

「邪魔だと?あの白銀(しろがね)というやつは、新藤に協力してくれているわけではないのか」

「協力はしてくれてる。でも、俺は知らないけど、君には個人的に恨みがあるみたいだよ?」

 恨み?

 初対面の女の子に恨まれるようなことをした覚えはないが、離れた位置から自分を望む彼女の表情から冗談ではないことが伺える。

「どうして、わざわざ不意打ちの機会を自ら潰すようなことをした」

「俺の邪魔をするんだから、彼女の邪魔をしたところで文句を言われる筋合いはない。そもそも分担はじゃんけんで決めたんだから、大人しくしてほしいんだけど」

 まるで自分以外に天音を討ち取られるのは許せないといった風な口調で、仲間を邪魔者扱いする新藤。

 冷たい視線を白銀(しろがね)に向けるが、彼女は怯むことなく指先を天音に向けている。

 隙を見せたら撃たれる。どうやら、ある程度、そちらにも意識を割きながら戦う必要がありそうだ。

「でも、彼女はよく働いてくれた。君の奥の手を引っ張り出せるなんて、望外の戦利品を持ってきてくれたんだから」

「……」

 予想していたことだったが、やはり天音の切り札の情報は新藤まで伝わっていたか。

 あの時、一撃で白銀(しろがね)を仕留められていれば、彼の動きの選択肢を絞ることが出来ていたのだが……。

 済んだことはしょうがない。自分の失態は自分で取り返せばいい話だ。

 落ち込むことも自分を責めることもこれ以上は必要ない。

 ただ、自分の脳を酷使して、新藤を屈服させるまで信号を出し続けれることが今できるもっとも可能性の高い選択肢だ。

 新藤の電子刃は『グリーム1120』分類は光剣。この剣は物質として存在していないため鍔迫り合いや刀身を叩いて弾き飛ばすといった防御行動は通用しない。

 前回の敗因も、新藤の太刀を受け止めようとして反応が遅れてしまったことだ。

 同じ轍は二度と踏まない。

 幸いなことに新藤は、まだ『S―202』の限界を体験していない。

 わかっていても、この目立つ真っ黒な刀身に目を引かれて間合いを見誤るはずだ。

 すでに新藤は天音の間合いの内側に立ってはいるが、この距離では構えに入った瞬間に飛び退かれてしまうと躱されてしまう。

 もう二歩、ほんの一メートル近づけばどれだけ速く反応したところで躱すことは出来ず致命傷を与えられる、弓や銃でいうところの有効射程内だ。

 新藤が一歩前に出た。これで、天音が一歩前に出れば間合いを確保できる。

 天音は力強く一歩踏み込むと剣を振り上げた。

「……ここか」

 ゆっくりとした動きでなにかを探るように動いていた新藤が、ここで大きく動いた。

 天音が剣を振り上げ、見えない刀身が新藤の身体を捕らえたと思った瞬間、しゃがみながら真横に転がり、空間を抉るような斬撃を回避した。

 さらに、一糸乱れぬ動きで流れるように体勢を立て直すと、電子刃を構えて突進し始めた。

 完全にタイミングを読まれた。

 引き金が引かれるのを見て動くように、天音の踏み込みや動きの不自然さから攻撃のタイミングを察知したのだろう。

 速度で新藤には敵わない。懐に潜り込まれてしまうとかなり厄介だ。

 天音は剣に込めた力を抜くことなく、振り上げた剣をそのまま叩きつけた。

 拡張された刀身は力を抜かなければ、元に戻ることなくそのままの状態を保つことが出来る。

 これは白銀(しろがね)にも見せていない技術だ。新藤の対応次第では甚大なダメージを与えることが出来るはず。

 渾身の力で剣の軌道を無理やり変え、腕が軋む。片腕を失い膂力が半減してしまっていたが、どうにかある程度威力を保ったまま剣を振り下ろすことが出来た。

 アスファルトの破片が飛び散り、粉塵が天音の視界を遮る。

 しかし、光剣の光が粉塵越しでもしっかりと確認でき、新藤の動きは補足出来ている。

 光剣の光は天音の剣が振り下ろされた場所で動かずにいる。

 手ごたえはなかったが、受け身をうまく取れなかったのだろうか、まだ起き上がろうとはしない。

「いまだ」

「はずれ」

「……っ!?」

 見当違いな場所から新藤の声が響き、思わず振り返ってしまう。

 直後、腹に鈍い衝撃が伝わり、天音は後方へと吹き飛ばされた。

 地面をごろごろと転がり、仮想の身体が傷ついて赤いドットがちらりと輝く。

 しかし、これは距離を取る好機と見るや、天音は勢いを殺すどころかさらに後ろに跳び新藤から距離を取った。

「はい、油断した」

 天音が顔を上げると、太陽のような輝きを放った弾が回避不能な距離まで迫っていた。

 回避など間に合うはずもなく、光の弾は無慈悲にも天音の脇腹を抉り飛ばした。

「ぐっ……!」

 誤ってシガーライターに触れてしまった時のような痛みが体を突き抜ける。

 ほんの一瞬の痛みではあるが、ダメージを負ったという事実は変わらず、天音の脇腹にはピンポン玉くらいの穴が穿たれていた。

「さすがに二人相手にするとこうなるのか……もしくは、あれは本当にまぐれだったのかな?」

 途中で放り投げていた光剣を拾い上げ、再び天音を見た時の新藤の顔には明らかに不満の感情が現れていた。

「まぐれも何も、俺はお前に惨敗したはずだろう」

「確かに、単純な勝敗ということに関して言えば、あの戦いは俺の圧勝だったんだろう。けど、もし、君があの時最初から光剣の特性を把握していれば、どうなっていたかはわからないんじゃないか?」

 新藤は白銀(しろがね)と天音の間、つまり射線を遮る位置に移動すると話を続けた。

「前回のランク戦は俺たちにとって初めての戦闘。情報は全くなく、完全にフェアな勝負だったと言えるだろう。だから、君は十連敗という屈辱を受けることになった」

「……」

「おっと、これは君を正当に評価したうえで言ってるんだ。落ち着いて聞けよ。結論から言わせてもらおう。俺が君に感じている畏怖の感情はその黒い剣があるからではない。最も恐るべきものは、君のその観察力と頭の回転の速さだ」

 戦闘中とは思えないほど落ち着いた口調に、天音も静かに耳を傾ける。

「あの時、俺はこんな試合はただの階級付けとしか思っていなかった。だから、初見では見切られにくい攻撃だけを使って勝利を重ねた。もちろん、自分よりも速い攻撃やある程度距離を取る相手には使えないから、全勝とはいかなかったが、負けた奴らにも見切られることはなかったよ」

 たしかに、あの攻撃は強力だった。

 その攻撃は、ただ単に相手より先に剣を振ること。

 防御が不可能であることを知らない相手は、考えもなく剣を振るったと勘違いし受け止めようとする。躱すよりも弾いた方が大きな隙が生まれるからだ。

 しかし、光の熱線を金属製の武器で受け止められるわけはなく、どこから斬られたのかもわからないうちに戦闘不能になっているというわけだ。

「だが、お前だけはそれに対応した」

「……出来たらあんなにあっけなくやられていないだろう」

「いや、君はあの時、俺の光剣が君の剣をすり抜けるのを見てから狙いを腕に絞っていた。だが、ほんの少し俺の光剣が先に君を斬った。俺は湧いたよ。死の淵に立たされながらも最後まで冷静であるその姿に」

 あの時の場面を想像して感情を思い出したのか、新藤は熱狂的に語り始めた。

「もし、こいつとお互いを完全に理解した状態で勝負したらどうなるんだろうって。あれからずっと頭を離れないんだ」

 一人で勝手に盛り上がり始めた新藤だったが、天音はいたって冷静だった。

 こういう人間を戦闘狂というのだろうか。

 正直、こういう人間の思考は理解できないが、新藤の観察力もまたかなり秀でたものだということは間違いない。それに加えて、この戦闘のセンス。この時代でなければ発揮されることはなかったであろう才能だが、称賛に値するものだ。

「だけど、今の君からはあの時のような熱気は感じられない。煽った本人が言うのもなんだけど、プレッシャーに負けるような脆い人間だったのかな?」

 プレッシャー?

 そんなものを感じたことは一度もない。

 プレッシャーに負けたから、なんて陳腐な言い訳で自らの株を落とすようなことはしないと断言できる。

 しかし、それでも、今の自分が本調子でないことは自分自身がよくわかっていた。

 焦るな、油断するともう抑えが効かなくなる。

 天音の中に居座る忌まわしい記憶。

 内側から食い破ろうとしてくるその得体のしれない何かを抑え込むので天音はいっぱいいっぱいだった。

 飼いならせ。絶対に手綱を離してはいけない。

「……しょうがない」

 あまりの手ごたえのなさに業を煮やしたのか、新藤は白銀(しろがね)になにやら合図を送っていた。

「……了解」

 ずっと天音に向けられていた指先が方向を変える。

 しかし、その指先は下ろされることはなく、取り押さえられていた雀に向けられた。

「やめろ!」

 天音の必死の声も届かず、白銀(しろがね)の指先からは光弾が発射された。

 ゼロ距離から放たれた光弾は雀の太ももを穿ち、彼女は襲ってくる不気味な感触に顔を歪めた。

「さあ、これでやる気が出るかな」


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