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新藤戦 Ⅵ

四人の戦闘不能にすぐ気づいたのは、ここまで一度も電子刃を起動していない雀だけだった。

 開始早々からずっとマップを展開していた雀には、赤と白の点の動きの一部始終が観察できた。

 最初の赤い点の消滅から最後の白い点が独りでにその明るさを失うまで、一分とかからず、勝ち残ったはずの詩恵まで戦闘不能になるとは、こんな平面な世界ではまったく考えも及ばなかった。

 これで残りは二対二。

 ここまでじっと息を潜めていた雀も、その腰を上げざるを得ない状況になった。

 現在、天音ももう一人の敵と戦っている。

 もしこの赤い点が新藤だったならば、天音の目的は達せられたといってもいいだろう。

 それほどに雀の天音に対する信頼は厚く、彼が負ける可能性など彼女の考えには少しもなかった。

 彼らが接触してから十分近くが経過しているため、そもそもこちらに加勢に向かったところで大したことは出来ない。

 ならば、と雀が考え出したのは、

「もう片方を取りに行く」

 ホログラムのマップを目に焼き付け、ここから近いもう片方の赤い点の位置を再度確認する。指をさっと動かしてマップを消すと、ここまで出番のなかった愛銃を起動する。

「シグレ行くよ」

 立ち上がった雀は、隠れ家にしていた無人のレストランを飛び出した。


「さあ、ここからどうなるかな」

 天音と新藤の戦いに関わりながらも、次元を隔絶した場所で静観する女性が一人。

 三宮だけは四人の様子をモニター越しに見ることができ、戦いに参加していない分、中野人間よりも冷静に状況をみることが出来ていた。

「それで、」

 いや、一人という表現はあまり正しくない。

 彼女の腰かける長椅子にはもう二人、腰を下ろして画面を熱心に見つめていた。

「なんで君たちはこんなところにいるのかな」

 三宮の隣に腰かけているのは、黒髪の青年と麻色の髪をしたちびっこだ。

「二葉に連行されてきた」

「なんか面白そうだったから、一条くん引っ張ってきた」

「まあ、うちの子もいるみたいだし、少しは興味ありましたしね」

「まあ、うちの子はいないみたいだけど、かなり興味あったからね」

 しかし、彼らは三宮の問いかけに対して、まるで自分たちがいることこそが自然なのだと言うような理解できない言葉を返したのだ。

 黒髪の青年。一条は落ち着いた雰囲気で一見すると天音に似た印象を受けるが、話していると彼とはまったく違った、完全に感覚だけで行動する、かなりきまぐれな性格だ。

「あれ?よく考えたら、私個人訓練の生徒、受け持ちしてる子何人残ってたっけ?」

「先週の時点ではあと二人と言っていたな」

「じゃあ、昨日一人辞めちゃったからラスト一人だね」

 二葉はいつもニコニコとしていて一見無害な存在にも見えるが、かなり癖のある指導で音を上げてしまう生徒が続出するほど過酷なものらしい。

 ラスト一人、と軽口をたたいている辺り、その最後の一人もいつ去ってしまってもおかしくなさそうだ。

 こういう人間だと分かっているが、額に浮かぶ青筋はどうしても抑えられない。

 合理よりも感覚で動く派の人間はどうしても行動が読めず、彼らは教師であるにも関わらず自由奔放な行動が目立ち、教頭としても彼らの存在はなかなかに鬱陶しい存在だった。

 だが、

「こんなやつらが咬園の最高戦力とはねぇ」

 三宮の使う『スラスター』はあまりに強力であるため、その他の攻撃と区別するために固有名称がついている。

 そして、名前を与えられた力を『異能』と呼ぶ。

 彼ら二人もその力にちなんだ名前を冠する異能を持っており、教師陣ではここにいる三名のみが異能を取得している。

「あんなの、電脳省の人たちが勝手にそう呼んでるだけですよ」

「私も普通に戦ってるだけだし、あれいつも使えるわけじゃないしね」

 謙虚なのか無頓着なのか、傲慢にならないのはいいのだが、彼らはおそらく自分がどれだけの影響を与えているのかまでは把握していなさそうだ。

 異能持ちは現在、本校だけで五名。候補を含めると十名の特記戦力を持つ咬園は全国に名を轟かせる重要校へと成長した。

 だが、おそらく候補の人間は固有名称までもらうことはないと三宮は考えている。

 六人目の異能持ちになる可能性があるとするならば……。

「三宮ちゃん、あの子をえらく気に入ってるみたいだね」

「ああ、あんなに面白い人間はそうそういない」

「つまり、三宮はあの子が異能持ちまで成長すると思ってるんだ」

「そうだ。自分の目に狂いはなかった、というのはまるで自分の手柄のように聞こえるから好ましくはないな」

「へえ、そんなに」

 いや、実際、私の目は狂っていたのだろう。

 ある程度の潜在能力は秘めているだろうと予想していたが、よもや私から一本取るほどの爆発的な力を持っているとは予想できなかった。

 あんな『特異』な力を見せられれば、『異能』という言葉が頭をちらつくのも無理はない。

「ここで、あいつは絶対にいまの全力を見せる。それが私は楽しみでならない」

「ふうん、三宮ちゃんにそこまで言わせるなんて、私も期待しちゃうな」

「まあ、見ていればわかるだろう。ちょうど、その城野くんの試合が始まりそうだ」

 モニターを一心に見つめる三人の特記戦力。

 そんな大物たちに睨まれているとは知らず、天音は目の前の相手に剣を振るっていた


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