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新藤戦 Ⅰ

 放課後、新藤たちの待つ天音たち四人は第一仮想戦闘ルームへと向かった。

「授業全然集中出来なかった」

「反論してやりたいところだが、さすがに同意見だな」

「私も、いままでで一番やる気に満ちてるかもしれない」

 あの後、三人から話を聞いてみると、新藤たちはたびたびああいったことで三人に絡むことがあったらしい。つもりにつもった感情が今日ついに爆発してしまったわけだが、天音は自分の失態を悔いていた。

 自分がもっとしっかりしていれば、三人をここまで追い込むこともなかっただろうに。

 完全に天音の判断ミスだった。

「作戦の確認はいるか?」

「いいや、ちゃんと理解しているさ。な?」

 徹に続いて詩恵と雀も大きく頷いた。

 四対四のチーム戦はこの場の誰も体験したことがない、本番一回限りの変則ルール。

 連携など組んだことなんて一度もないのだが、この中にそんなことを気にしている人間はどうやらいないようだ。

 もはや天音に止める権利も理由も存在しない。

 本当は天音一人で決着をつけるべきなのだろうが、それをほかの誰でもない彼らが許してはくれないのだから。

「よし、新藤の鼻を明かしてやろう」

「「「おう!」」」

 頼もしい仲間たちと共に、天音は決戦の場所へと歩みを進めた。


「やあ、待っていたよ、城野くん」

 訓練ルームに入ると、いち早く天音の登場に気が付いた新藤が近寄ってきた。

「お前の相手は俺がしてやる。せいぜい、他の三人にやられないように気を付けてくれ」

 後ろで詩恵の歯をきしませるような音が聞こえてくる。

 しかし、今回は彼女がなにかを言い返す前に天音自身が口を開いた。

「望むところだ。新藤の方こそ、流れ弾に当たっても知らないぞ」

「ふーん、忠告ありがとう、とでも言っておこうかな」

 相手を舐め切ったようなしたり顔は気に入らないが、彼の電子刃の性能は近接系の中で群を抜いて高い。

 そもそも、電子刃とは全校生徒に配布できるほど本数が存在しない。

 この学校には全校生徒合わせて百本ほどが配布されているらしいが、それを手にすることが出来た生徒たちのなかでも新藤は優等生の部類に入るのだろう。

「あ、それと、今日は観客を用意したんでね。せいぜいがっかりさせないように頑張りなよ」

「観客だと」

「私のことだな」

 観客、という存在が誰なのかを思案する前に現れた女性に天音は声をあげることはなかったが驚いた。

「三宮先生……」

「やあ、一限目ぶりだな、城野」

 声の主は天音の担当教師、三宮泉(いずみ)

 棒付きの飴を咥えて観覧席に腰を下ろす彼女は足を組んで退屈そうに天井を仰いでいた。

「なんでわざわざ先生がこんな正式でもない試合を見に来ているんですか」

「ほお……君には心当たりがあると思っていたんだが」

「……」

「ふっ、冗談だよ。たまたま廊下を歩いていたらそこの彼に捕まってしまってな。暇だったから大人しくついてきた」

 楽しそうに笑う彼女を見て、天音はもちろん笑う気にはなれなかった。

 一度敗北を喫した相手とは言え負けるつもりはない。

 だが、彼女の笑みの中には天音の内側を探るような、なにかが感じ取れる。

「もし負けるようだったら、飴を返してもらおうかな」

「残念ですが、あの飴はもう雀にあげてしまいました」

「ああ、あれ三宮先生からもらったものだったんだ。天音にしては可愛いものもってるなとは思ったんだ」

「なんだ、あげてしまったのか?せっかく分けてあげたのに可愛げのないやつだな」

 棒付き飴は三宮の必須アイテムといっても過言ではない。

 仕事に没頭しているときなどは決まってプラスチック製の持ち手を咥えている。まるで子供のような行動のようにも思えるが、彼女曰く、「常に糖分を供給できるから飴玉はちょうどいい」とのこと。

「まあいい。だが、もう少し誇ってくれてもいいんだぞ?」

「飴を誇るとはどういう意味ですか」

 天音と三宮の間で、この場の誰も理解できないであろう視線での会話が交わされる。

 一瞬三宮は怪訝な表情を見せたが、天音の無表情からなにかを読み取ったのか小さく頷いてくれた。

「まあ、そういうことにしておこう」

「天音、なんのこと?」

「気にするな。三宮先生は自分のおやつを取られてご立腹なだけらしい」

「城野。今度の個別訓練のとき覚悟しておけよ」

 なにやら恐ろし気なささやきが聞こえてくるが、耳に入らなかったふりをする。

 こういう曖昧な会話や視線だけで理解しあえるとは、やはり俺と三宮先生は系統が似ているのだろうか。

 時々、本当にこの人が教頭で大丈夫なのかと思わないでもないが、天音の見ていないところでは優秀で可憐な先生らしいので本当に不思議な先生だ。

「城野ぉ、そろそろ始めようよ」

「ああ、そうだな」

 新藤の後ろでは集められた三人の電子刃持ちが退屈そうにしている。

 その中の二人は見覚えのあったが、残りの一人はまったく天音の記憶に存在しない完全に初見の生徒だ。

 フードを目深にかぶっているせいで顔がよく見えないせいかもしれないが、まず間違いなく天音は彼との戦闘経験はない。

「それじゃ、お先に」

 新藤たちのチームは一足先にヘッドギアを装着すると、仮想の世界へと旅立ってしまった。

「雀、徹、詩恵」

 天音の呼びかけに反応し、三人は円を描くように天音の前に立った。

「あのフードの男の正体、わかるか」

 しかし、天音と同様に誰も彼のことは知らないようで、一人も首を縦には振らなかった。

「そうか、ならしょうがない。あのフードは雀に任せてもいいか」

「え、私?」

「ああ、相手の確定している情報として、射程持ちが一人、近接武器は二人。もし、あのフードが射程持ちだった場合、徹では分が悪い。徹と詩恵には黒尾と椎名を抑えてもらう。一撃離脱でもいい。その時は俺にやつの情報を伝えてくれ」

「わ、わかった、頑張る」

「うん、任せる」

「俺たちも任せとけ」

「この学校で私以上にメテロを使いこなせる人間なんていないわ。さっさと叩いてそっちに行くから」

「頼もしいな」

 この状況でこんな感情が沸き上がってくることは間違っている。

 しかし、この仲間たちとチームを組んで戦えるということに少なからず胸が高鳴ってことを否定は出来ない。

「さあ、行くぞ!」

「「「「換装(イン)開始(ストール)!」」」」 


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