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仮想訓練 Ⅰ

 六限目のチャイムがなり、個別訓練を終えた四人は二棟にある仮想訓練室に集まっていた。六限目の授業、個別訓練では再び三宮女史と顔を合わせることになったが、昼のことを特に引きずるでもなく、授業は授業と割り切っていて普段の鬼のような指導だった。

 ちなみに一年生と三年生のいわゆる三宮組と呼ばれている二人と一緒に訓練を受けるのだが、三人で一斉にかかっても彼女から一本も取ることはできなかった。

「あー、疲れた。五木先生どうやってあれを躱しているのかホント謎だわ」

「先生たちは強すぎる。五対一でもあれだけ動けるとはさすがとしか言いようがない」 

 (とおる)たちも教師陣に相当手痛くやられたのか、模擬戦の前から疲れてしまっているようだ。

「雀は大丈夫なのか?」

「うん、今日の四羽先生の授業は狙撃訓練だったから、そんなに疲れてないよ」

「狙撃訓練か。ちなみに雀の有効射程はどれくらいなんだ?」

「止まった状態で二十メートルくらいだけど?」

「そうか。……二十メートルもあると、さすがに雀には通用しないかもしれないな」 

 やはり一番最初は、三人のなかで唯一の近接武器を使う(とおる)に頼むべきか。

(とおる)、まずは近接武器の対応を試したいんだが、大丈夫か」

「おう、任せろ」

 疲れているはずだが、(とおる)は快い返事をしてくれた。

 (とおる)は自分の顔を軽く張ると勢いよく立ち上がった。

「よし、いくか!」

 この部屋には仮想体に換装(インストール)するためのヘッドギアが計十台設置されている。

 五対五のチーム戦を想定して作られたこの模擬戦闘ルームは四人で使うにはかなり広めだが、三宮女史に使用許可をもらいに行ったとき先生がてきとうに鍵を選んだためこの部屋になった。

 指摘するべきか悩んだのだが、無駄な行動は取らない適当な彼女にはなにか考えがあるのではないかと思い、そのまま受け取ってしまった。

「それじゃあ私たちも行こうか」

「そうね」

 二人も仮想戦闘を開始するためのヘッドギアを身に着けた。

「それじゃあ、始めようか」

 最後に天音もヘッドギアを頭に取り付けると、それを合図にして全員が起動のための合言葉を叫んだ。

「「「「換装(インストール)開始(スタート)!」」」」


 眠気にも似た感覚が体を襲い、真っ暗な景色が広がる。

 そう、そこに広がっているのはすでにヘッドギアのゴーグルではなく真っ暗な景色だ。

 マットレスの上に横になっていたはずの俺の身体は、いつの間にか無機質な地面の上に二本の足で立っていた。

換装(インストール)完了。続けて電子刃(フォトン)を構築します』

 真っ暗な空間の中、自分の手から光が漏れ出し、そこに実体を持った鋼鉄製の剣が徐々に生成されていく。真っ黒な刀身のせいで姿こそ視認できないが、その重さが存在を確認させてくれている。

『構築完了』

「さあ、始めるか」

 何もない場所に愛剣を振るう。

 真っ暗だった景色に一筋の光が見え、その切れ目から暗闇が瓦解していく。

 開かれた明るい世界。

 そこはビル群に挟まれた大通りのど真ん中。アスファルトの質感は現実のものと全く変わらず、照り付ける日差しは痛みこそ感じないが本物と見紛うほどの輝きだ。

 天音の服装は咬園学園の制服のままだ。

 見た目の変化こそほとんどないが、仮想体に換装(インストール)することで人によっては爆発的に身体能力が向上することがある。

 それこそ、雀なんかはあの見た目でかなり鋭い動きを発揮することができるようになった。

「待たせたな」

 遅れて三人も換装(インストール)が終了し、何もなかったはずの空間を切って現れた。

「ふわあぁ……さて、頑張りますか」

「天音、頑張ってね」

「ああ、もちろんだ」


「それじゃ、まずは俺からだな」

「ああ、よろしく頼む」

 気合の入った足取りで一歩前に出たのは、隆々とした筋肉が印象的な(とおる)

 彼の電子刃(フォトン)は大槌。

 天音を含むほかの電子刃(フォトン)を含め、とりわけ巨大な(とおる)の大槌は取り回しがききにくい分一撃がそれこそ即死につながる一撃必殺の電子刃(フォトン)

 (とおる)の厄介な所はこの大槌をその剛腕で軽々と振り回し、それに加えて(とおる)の常人離れした柔軟性がその破壊力に拍車をかけている。

「どこからでもいい。打ち込んできてくれ」

「そうか、それじゃ、行くぜ!」

 (とおる)の突進には闘牛を彷彿とさせるほどの迫力がある。これは絶対にくらってはいけない、という生存本能に基づいた危機をただの突進だけで感じてしまう。

「おらあ!」

 いつもは温厚な(とおる)だが、こと戦闘になると畏怖を感じるほどの脅威だ。

 下段からのかち上げの一撃。

 しかし、これは後方転回で躱すことはそこまで難しくはない。

「ふんっ!」

 そう、ここからが(とおる)の攻撃の恐ろしい所。

 重い一撃は躱してしまえば大きな隙が出来る。

 大抵の奴はここで前に出てがら空きになった懐に飛び込もうとするが、それはもう詰みといっていいほどの下策だ。

 ありえないほどの膂力でかち上げの威力を殺し、柔軟性を活かした捻りでさらに重い一撃が襲いかかる。

 初見でこれを避けられる人間はそう多くない。

 しかし、何度も見たその攻撃の対処法は心得ている。

 大槌の間合いのさらに外まで後ろに跳ぶ。

 そして……。

「ここで、追い打ちの叩きつけ」

 攻撃は読めている。

 しかし、あまりに間隔の狭い攻撃の連続は、外から見ているよりも隙が少ない。

 この追い打ちも体勢によっては躱すことが出来ない。

 そして、これを躱したとしても、さらに悪い体勢で攻撃を受けることになる。

 決めるのであればここ、二撃目の直後、最も威力が高いが最も隙が生まれるこの瞬間。

 俺の電子刃(フォトン)だからこそできること。

 躱すことではなく攻撃を反らすことに意識を向ける。

 大槌に剣を添わせるように構え、振り下ろしの威力を出来る限り自分の体に向けないように……。

 天音を打ち損なった大槌は強烈に地面を叩き、五センチほどめり込んだ。

 受け流したとはいえ、一トンを超える重圧を受けた手に痺れるほどの衝撃が襲い掛かる。

「ここで……」

 振り抜く!

 天音の剣の同一線上。

 狙いを定めて置いた布石を機能させるための照準の調整。

 振り抜いた剣はしっかりと(とおる)の首を刈り取った。

「なに……!」

『仮想体損傷甚大、戦闘(リタ)不能(イア)

 感情のないナレーションが仮想体の絶命を告げた。


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