表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

魔剣? そんなことより鉄拳だ

「お前が黒幕だったのか?」


 怪訝な眼差しで見つめられる。注目されてる感じでちょっとうれしいけど、あたし関係ないから。


「違うよ。あたしはその人のこと知らないし、名前も知らない。関係ないよ」


 怯えた表情で答えてやる。知らない人に名前を呼ばれて、そそのかされたんだとか言われたら怯えるよね、普通の人は。


「こ、このやろ……。昨日も今日も一緒に寝たくせに!」


 それをここで言うか。あたしのイメージが崩れるじゃない。良い子のクリスちゃんは、誰にでも股を開くようなアバズレじゃないんだから。


「えぇ……怖い……」


 怖すぎるわー。初対面なのに一緒に寝たとかいう知らない男も、幼馴染から向けられる疑念の眼差しも。

 細めた目で見つめられる。あたしも負けじと見つめ返す。

 あたし嘘ついてません、という目で。


「助けてレオナルド……」


 媚びた上目遣いになる。


「かったりーなぁ」


 やっぱり信じてもらえないかなぁ。長い付き合いだもんね。嘘くらいわかるよね。鉄拳制裁も仕方ないか。

 観念して、ぎゅっと目をつむっていた。


「俺はクリスが本当はいいやつだって知ってる」

「え?」


 そっと目を開く。

 レオナルドは、ヤスハルの方へ向き直っていた。


「信じてくれるの?」

「長い付き合いだからな」

「遠慮しなくていいんだよ? バチーンと来てもらっても」


 本当は遠慮してほしい。


「もういい」


 いいんですかー! ラッキー。


「ありがとう、レオナルド」


 ということは。


「観念しな、コソドロ野郎」


 すべての責任はヤスハルにあります!


「ななな、なんでだよぉ!

その女、絶対怪しいじゃないかぁ」


「言い訳すんじゃねぇ」


 拳を鳴らしながらレオナルドが近づいていく。


「くっ、こうなったら力づくだ!」


 剣を振りかぶるヤスハル。

 レオナルドは左にステップ。右半身をひいてそれをかわす。

 そのまま軽く一歩踏み込む。右ストレート。

 顔面に直撃し、ヤスハルは倒れた。


「くっそ。なんでだ……。魔剣を手に入れたのに。ステータスの加護だってあるんだぞ……」


 剣を取り落し、顔を押さえながらヤスハルがつぶやく。


「その剣は魔剣なんかじゃねぇ。花屋みてーに色とりどりになるように、色粉を混ぜて打った、ただの鉄の剣だ。大体、柄もついてねー剣をまともに使えるわけねーだろ」


 たしかにそりゃそうだわ。よく握れたな。


「仮に魔剣だったとしてもだ。こっちはいつも仕事で命の重さのハンマー振ってんだ。強い武器手に入れて、手っ取り早く強くなろうなんて浅はかな考えのやつに、負ける気はしねえ。ステータスなんてもんより重たい魂込めてんだ。なめるんじゃねえ」


 頭だけ持ち上げていたヤスハルは、完全に伸びていた。おっつかれー!


「さっすがレオナルド。ありがとう。こわかったー」


 力のない少女を装いつつ。


「大したことじゃねえ。ま、お前は本当は悪いやつじゃないって知ってるからな」


 いやー、本当のあたしが知られなくて良かったよー。レオナルドもまだまだ分かってないなぁ。プププ。あいつの方が分かっていたかも。

 倒れている男を見る。白目むいていた。

 あいつ、起き上がったらあたしのこと恨んでるかな。いいようにおちょくってたもんね。あたしが人を恨むのはいいけど、恨まれるのはだめよね。

 なんとか始末をつけとかないと。


「レオナルド、このどろぼう自警団に突き出して捕えてもらおうよ。気がついたらまた盗みやりだすかも」


「そん時はまた一発殴るさ。これでこりただろ」


 甘い、甘すぎるよレオナルドくん。それじゃああたしが危ないじゃない。


「あたしは不安だな……」


 ヤスハルを見る。黒髪の前髪ぱっつん。幼い顔の口からは泡を吹いている。

 ま、こいつには報復するような度胸ないか。大丈夫だわ。


「ま、レオナルドがいるから大丈夫ね!」


 泡を吹いた顔が起き上がってくる。

 ぎょええ。


「レオナルドさん」


「あ?」


「あんたの鉄拳にほれました。弟子にしてください!」


「お前、頭大丈夫か? おかしなところでも打ったか?」


「そうじゃないんです。僕、今まで誰からも殴られたことなくて」


 レオナルドを見上げる目が少し潤んでいる。


「生まれて初めて、魂のこもった拳をいただきました。それで、気づいたんです。人の強さっていうのは、持っている武器とかスキルやステータスで決まるものじゃないって。レオナルドさんには本当の強さがあると感じました。ぜひ弟子にしてください。僕も、本当に強い男になりたいんです……!」


「……かったりーなぁ。強くなりたけりゃ自分で頑張れよ」


 ため息まじりで言うレオナルド。ちょっとうれしそうだぞ。


「まぁ。いいぜ、勝手にしな」


「ありやっす!」


 ヤスハル、多分殴られた衝撃で、頭のネジがどっか飛んだんだろうな。


「アネキには、いろいろ思うところはあるっすけど、今は飲み込んでおくっす。自分で強くなるって決めましたから。全部自分の責任っす」


 おかしなことを言い出しているし。急に性格変わりすぎ。



タイトル案

・剣どろぼうに鉄拳制裁

・嘘の見破り方

・頭のネジのぶっ飛ばし方

・華やかな剣には毒がある

・弟子の心得


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ