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初めての冒険者

 初めてのインタビューに成功したあたしは、調子に乗って(乗せられて)ほかの人たちにもインタビューするようになった。


 この世界の一大勢力、冒険者。


 彼らは異世界からやってきて、特殊なスキルを持つ。「ステータス」とか呼ばれてる。

 ステータスを持っているおかげで、魔法が使えたり、魔物の攻撃に耐えることができたりするらしい。

 そんなことより、おいしいケーキ食べたいな。


 ステータスには職業が設定されていて、

 「剣士」

 「魔法使い」

 「治癒術師」

 「格闘家」

 「槍使い」

 「弓使い」

 などなど。


 得意な武器や魔法によって分類されているらしい。

 召喚された時に決まるんだって。難しいことよくわかんない。


 一応、それぞれの職業の人にインタビューしたんだけど、覚えてなーい。


 剣士「俺は剣が得意」

 魔法使い「魔法が得意」

 治癒術師「治癒術が」

 格闘家「体術が」

 槍使い「自殺が」

 弓使い「ゆm」


 もう、こんな感じで個性ってものがないんですもの。

 個性が埋もれてコモディティ化しちゃったら、ビジネスとして成り立たせるのは難しい。って、偉い人が言ってたゾ。


 不思議なことにステータスを持っているのは召喚された人だけで、あたしたち一般人にはステータスは身につかない。

 持つ者と持たざる者。

 世の中の不条理を感じるんだけど、ステータスを持っている人は魔物と戦う義務がある、ってことでノブレス・オブリージュ。


「いざとなったら私たちが村を守りますから」


 そう言ってくれるのはいいんだけど、いざという時なんて本当に来るのかな? 来るぞ……来るぞ……詐欺だったりしない?


「その時にはぜひよろしくお願いしますね、勇者様」

「ああ、任せてくれ」


 心の中は隠して、素直にしておいたほうが後々得しそうだもんね。

 正直、あんまりノブレスには見えないのだけど。毎日酒場で飲んでる姿しか見てないし。


「お酒、好きなんですか?」


 つい聞いてしまった。


「お酒? いやー、個人的にはあんまり好きじゃないんだけど、みんなが飲んで楽しくなってる雰囲気が好きでね」


 あー、めんどくさい。


「そうなんですかー」

「良かったら一緒に飲む?」


 あ、うぜえ。でも聞いちゃったあたしの責任だよね、仕方ない。


「ごめんなさい、一緒には飲めません。まだ未成年なのであたし。その代わりに、友人を紹介します」


 どうだ。ステータスは持っていないけど、「お断り」のスキルは使えるんだぜ。

 あたしの代わりに、レオナルド、レッツゴー!


「それなら飲まなくても、友人と一緒に来るかい?」


 ……お断りが完全に入ったのに。くっ、ならばもう一度!


「ごめんなさい。そういう雰囲気が苦手なので、お断りいたします。

友人は飲めると思うので、よろしくしてあげてください」


「そっか。それは残念(笑)」


 あれ。もう1回は来るかと思ったんだけどな。意外とチキンなのかしら。今夜はチキンカレーよー!


「見た目よりも子供だったんだね」


 む、唐突な子ども扱い。なぜ?


「取材する相手に敬意を表すのは、大人として常識。

相手からの提案にはできる限り乗っかるのも大人の常識。

それができていないということは、君には大人としての自覚が足りてないね」


 なんだぁ? うっとうしいな。

 説教おじさんか?


「あ、失礼。伸びしろを感じたものでつい、言い過ぎてしまって。

大人ではなかったね。仕方ないね。

取材、頑張ってくださいね、お嬢様」


「はぁ、どうも」


 なんだか、馬鹿にされている気がする。大人ぶりやがってー。

 とはいえ、あたしだって大人。そこは心を表に出さず、冷静に対応する。


「貴重なアドバイスありがとうございます~。

あなた様にもう少し取材させていただいてよろしいですか?

取材させていただけるなら、『いいこと』いたしますよー?」


 相手の左手を両手で包み、少し上目遣いで見ながら話す。

 シャツの第2ボタンまで外したりして胸元アピール。

 このオファーは断れないだろう。

 情けなく引き受けるがいい!

 結構このお兄さんかっこいいしね。


「……君はもっと、自分を大切にしたほうがいい。

体なんてこんなところで安売りしていたら消耗してしまうよ」


 こんなところで正論。

 欲望に素直になれないなんて、つまらないやつ。


「いいこと=体を売ることだなんて、誰が言いました?」


 せめてもの反撃。

 いったい何を勘違いしてるのかしらー?


「あぁ、ごめんごめん。私の勘違いだったね。ハハ」


 あっさり認める。

 本当につまらない。


「というか、『いいこと』なんてしていただかなくても協力するよ。

この世界にはお世話になっているから」


 何をどうお世話になっているのかわからないけど、とりあえずあたしは取材をすることにした。


「何をどうお世話になっているんですか?」


「まず転生したときに、すばらしいステータスとスキルを授けてくれた。

それに、素晴らしい仲間にも出会えたし、守りたいものも見つかった。

元の世界では得られなかったよ」


 仲間、いたんだ。一人に見えたけどなぁ。


「どんなステータスとスキルだったんですか?」

「それは企業秘密かな」


「では素晴らしい仲間とは? どこにいるのですか?」

「今は少し、遠いところに。必死でやっているよ」


「魔族の討伐ですか?」

「まぁ、そんなものかな」


 インタビューがつまらなくなってきて、早々に切り上げたあたしは、酒場の外の通りへ出ていた。

 優男の冒険者とは別れている。

 石畳の大通り。町明かりの中を足早に歩いていく人々。

 その中に、冴えない男が一人いた。


 武器を腰にぶら下げた冒険者風の男だ。

 あたしはそいつの後をこっそりついていく。曲がり角をふたつ曲がったタイミングで声をかけた。


「おにいさ~ん。ちょっといいことしない?」


 ロングスカートの裾を、太ももの中頃までたくし上げて。

 壁際に追いつめて、片手を壁につきながら。


 あたしのちょっとした小銭稼ぎ。今夜のご飯はチキンカレーよ!


……


 白くほっそりとした腕。ガリガリではなく、ほどよく筋肉がついている。下を向けば、ふっくらとした胸の左側にほくろが一つ。その先の腹筋は、縦に割れ目がうっすら入っている。


 ナイスバディ。うん、あたしはやっぱりかわいい。子どもなんかじゃない。大人の体だ。


 えーと、昨日はなにしたんだっけ?


 部屋のごみ箱に、使い終わったコンドームがある。

 数年前、コンドームを作るスキルを持った冒険者があらわれた。

 それまでは気楽に性行為をすることはできなかった。妊娠したり、病気に感染したりするリスクが高かったからだ。


 0.01ミリ。

 薄いゴムの膜は、安全な性行為を世に普及した。小さな突起がついているものもあり、使用することでより大きな快感が得られる、という人もいるとかいないとか。


 あー、思い出した。


 小遣い稼ぎと称して好きでもない冴えない男と寝たんだっけ。あたし別にお金に困っているわけじゃないのに、どうしてそんなことしてるんだろ。ま、いっかー。結構気持ちよかったし。


 男が隣ですーすー寝息を立てている。

 真っ黒で太めの髪の毛は、自分で切って失敗したのか前髪がぱっつん。頬にいくつかニキビがある。幼い顔が少しかわいく思えて、ほっぺたをつついた。


 ごろん。


 男は寝返りを打った。その背中を、なぜか蹴飛ばしたくなった。



タイトル案

・槍使いは自殺がお好き

・10代男女におすすめのコンドーム3選

・飲み会の正しい断り方

・大勇者様の勘違い

・蹴りたい背中

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