【第一章】7話 演技と本音
「施設長が男と出入り口で話していた時,見張りは近くにいなかったの。」
セラの考察が始まる。
「つまり,見張りの人たちはこの施設の裏事情を知らされてないってことですね。」
セラはうなずく。
「そして,見張りの様子がいつもと変わらない。」
三人は見張りの方を見る。だが普段見ていない三人には様子の違いなどわからない。
「まあ,しょっちゅう覗いているあなたが言うのだからそうなのでしょうね。」
「言い方がちょっと…。でも見張りの様子から今回の騒ぎはまだ知らされてないはず。」
ここで焦れったそうにシャーロンが頭をかく。
「もう時間が無いんだろ?この場はもうセラに任せるぜ。で,どうするんだ?」
セラはみんなを見て言った。
「三人とも私についてきて。できるだけ顔を下の方に向けてね。」
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「おや,施設長。今度はどうなさいました?」
近づく老人の姿を見張りの一人が気付いた。
「遅くまでご苦労様です。実はこの子たちがあなた方の事を悪く言っておりましてね。指導したところ直接謝ろうということになりまして…。」
いつもの物腰やわらかい老人の後ろには沈んだ顔をした,三人の少女がついてきていた。
なるほど,事情はわかった。
「あっ,そうなんですか?わざわざ申し訳ないです。」
「いえいえ。ほら三人ともお二方の前に。」
並び立つ二人の前に三人の少女が近づき,目の前で立ち止まった。老人は見張りの背後に立った。
ここの仕事も大変だなぁ。
それを考えるとここで立ってるだけの仕事は遥かに楽である。
そんな事を思いながら二人は少女たちの謝罪の言葉を待つ。
「あぁ,先に私から謝っておかねば。」
そこへ後ろから急に老人が話しかけたので二人の見張りは思わず振り返った。
「すまないね。」
その言葉が終わらぬうちに二人の視界は真っ白になった。
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「そのあとにシャーロンに門を吹き飛ばしてもらって…」
眠い
啓二のまぶたはシャットダウンしかけていた。
かれこれセラが話し出して二時間近くたっている。
話の内容は面白いし,どうやってこの世界に来たのかも知りたいが…。
「あのー…,セラさん?」
「後ろから来る追っ手を…何かしら?」
「そろそろ寝たいのですが話の続きは明日にしてもらっても構いませんかね?」
手と手をあわせて懇願のポーズ。いやマジで頼みます。
するとセラははっとした様子で
「あっ,ごめんなさい。これだけ話を聞いてもらえるの久しぶりだからつい…。」
確かにここに来てからはずっと一人だったんだろう。
そう考えると誰かと話せるのがとても嬉しかったんだろう。
「いや,いいよ。なかなか貴重な話が聞けて良かった。でも続きはまた明日ね?」
「わかった。ところで…あの…,」
急にセラが言い淀む。
「ん?」
「今日はここに泊めてもらってもいいかしら?」
「…。」
なるほど。そう来たか。
異界から来たんだから家がないのも無理はない。
「いや,迷惑なら朝まで外で待ってるけど。」
「そっちの方が迷惑なんですけど?!」
住人に見つかったら大変なことになる。
これもう泊める以外の選択肢ないじゃん。
むしろこの場面で泊めないと言う奴がいるだろうか。いや,いない。
「全然迷惑じゃないよ。なんなら騒ぎが収まるまで居てくれてもいいし。」
セラは驚いた表情を見せる。が,しばらくすると微笑んだ。
「ありがとう,啓二。あなたは本当に優しいのね。」
「これも何かの縁だよ。これからよろしく,セラ。」
啓二が手を差し出す。
セラもその手を握る。
「こちらこそ,よろしくね啓二。」
二人は握手を交わす。
異界との交流が本格的に始まった。
それが何を意味するのか,二人はまだ知る由もなかった。