65.それぞれの気持ち-02
そして二人は、黙って頭を下げ、兵達によって牢へと連れていかれた。
兵達は、かつての上司、軍部最高司令官である将軍を連行しながら複雑な心境で歩いた。
尊敬していた将軍をよもや自分達の手でとらえる事になるなんて…と。
身分など関係なく実力ある者は取り立ててもらえた。
辺境地区での部族同士の争いや、犯罪組織の壊滅にと共に戦った。
時には軽口をたたき、共に戦い、共に笑い、共に泣き、共に汗を流した。
将軍は言っていたのだ。
『俺達は同じ釜の飯を食った仲間だ!』と…。
信じていた…。
そして…そんな心無い言葉で裏切られた…。
先ほどまでの身分を振りかざす数々の言葉は、たたきあげできた平民や下級貴族出身の兵達の心をえぐった。
兵の一人クルトは思った。
妹のサラは本気で将軍の事が好きだった。
将軍にとっては野営中に差し入れを持ってきただけの、ちょっとばかり見目の良い少女で、軽口をきいただけだろう。
「サラくらい美人なら、将来、嫁さんにしたいくらいだ」等と言ったらしい。
将軍にとっては単なる、リップサービスだったのだろうが、妹は本気にした。
憧れは本気の恋になり、妹は毎日のように将軍に差し入れを持っていっていた。
ほかにもそれらしい事を言われていたのだろう。
無垢だった妹は未だにそれを信じていた。
兄の俺がどんなに言い聞かせても聞きはしなかった。
公爵令嬢を取り合っているという噂にも耳をかさず、数回、気まぐれな言葉を交わしただけの将軍をひたすら想っていた。
自分も平民出身の妹がまさか妻になれるとも思ってはいなかったが、あの平民にもわけ隔てない将軍ならひょっとして、そんな事もあるかのかも…などと少しばかり夢をみてしまっていた。
「婚姻ともなれば話は別だ!」と言う言葉は、明らかに自分達、爵位など持たぬ人間に境界線を引いた言葉だった。
そうだよな…王様の弟なんだものな…あたりまえだ。
そんな事はこの国の貴族社会で常識だった。
でも、現実にそうだとしても、言葉にされると結構きつかった。
あんなに我が国に支援してくれたルーク魔導士にも、ひどい言い様だった。
今回の捕物でも、あの方の力添えなくば、上手くはいかなかったというのに、侮るような言葉を何度も吐いて…。
ルーク魔導士が、将軍や王子殿下を叱りつけた時、正直、すかっとしたのは、俺だけではないだろう。
人の口に戸は立てられない。
これだけの人々の前で行われた茶番劇…。
この事は一両日中には広まるだろう。
ザッツ将軍はこれまでの信頼も栄光も、失った。
そして、もしかしたら命さえも…。
***
王の「極刑(死刑)もあり得る」という言葉は、周りを驚かせた。
王族とはいえ実の息子(しかも一人息子)と実の弟である。
しかし、この言葉はその場を収めるのに、大使達を納得させるに至るものでもあった。
世界平和の象徴とも言えるこのデルアータ園遊会での暴挙で真に王家の醜聞といえるこの事態である。
実際に極刑にまで行かなくてもそれに準じた処罰が下るであろうと予測されるし、少なくとも将軍と王子と言う立場は、あの時点で剥奪されている。
その時点で身分を重視する王侯貴族から見れば死刑よりも重い罰ともとれたからである。
「やり過ぎでは?」という声もあれば
「さすがに、賢き王は事の重大さを理解しておられる」と感心する者もいた。
しかし、そうなるとこの国での世継ぎ問題や将軍不在の問題に他国が付け込み何か仕掛けてきそうなものではあるが、ラフィリル王国が、それを許さないであろうことは、王妃を慰めるラフィリアード公爵夫人の対応や、この国の公爵令嬢を愛しむルークの眼差しに見て取れた。
そして各国の要人たちは、それほど愚かではなかった。
デルアータの行く末はまさにラフィリルの采配次第だろう。
それに異を唱える国などこの園遊会に出席する者たちの中にはいなかった。




