58.恋する乙女は美しい-05.イリューリアを巡って
晩餐会では食事が終わると、明日の園遊会を控えて早々に各自の宿泊先に戻っていった。
各国の賓客たちの間ではこの国の公爵令嬢イリューリアの噂で持ちきりである。
中には、結婚を申し込もうと自国に許可の早馬を送る皇子や高位貴族がいたし、デルアータの貴公子達の中にも王子や将軍の手前、表立っては言えないもののイリューリアとお近づきになりたい、あわよくば…と考える者がいたのは否めない。
そんな空気はローディ王子やザッツ将軍にも伝わり二人は焦った。
諸外国の、自分達より大国の王子や王に見初められでもしたら自分たちやイリューリア自身の意思ではどうにもならなくなってしまう。
そう危惧したのである。
デルアータよりも大国となると、近隣の国々はともかく、遠方のジャニカ皇国やラフィリルである。
ザッツ将軍が、考えるには、ラフィリルの親善大使は一家で来ているし、(つまり既婚者だし)ルーク魔導士などは、身分的には気にしなくても大丈夫だろう…とタカをくくるものの、父親であるカルムがルーク押しなので油断はできない。
そして、大国の中でもジャニカ皇国は、権力にモノを言わす傾向が強めの国だと警戒している。
そして、その心配もあながち見当はずれとは言い難かった。
実際に、ジャニカ皇国の第二王子ラクアは、イリューリア嬢への婚姻の申し込みをと自国へ文を持たせて早馬を走らせていた。
(幸い、ジャニカは遠く、早馬でも片道でも半月は、かかるので、時間は稼げるものの一ヶ月以内が勝負である)
国を挙げて申し込まれたらイリューリアは現在婚約者を持たぬ立場から断ることは出来ないだろう。
明日の園遊会の夜に行われる舞踏会でのパートナーを次々に申し込まれるが、自分はラフィリル王国親善大使さまご一行の案内役ですのでとやんわり断る。
つれないイリューリアに諸侯は益々、想いを焦がすのだった。
「まずいな…」とザッツ将軍が呟く。
「叔父上、何がです?」ローディ王子はわかりつつも一応、叔父であるザッツに何か策があるのだろうかと思い、聞いてみる。
「このままでは、イリューリア嬢は他国の皇子や公子に持っていかれる!さっさと自国で婚約者を定めないと!やはり、ここは、私が…」
「なっ!叔父上!何を言っているのです!イリューリアは私と!」
「ああ?お前とイリューリア嬢との婚約は何年も前に破棄されただろうが!それも、お前自身のせいで!」
「それは、叔父上に言われたようにきちんと謝りました!イリューリアは許してくれると言いました!父上、母上にも再び婚約することのお許しも頂きましたし!」
「ああ?それなら俺も王に聞いたが、あくまでもイリューリア嬢の気持ちを確かめてからだろうが?」
「…っ!イリューリアは、わたしと同じ気持ちです!」
父王からと同じ事を言われローディ王子はちょっとむっとした。
「どっから、くるんだ?その見当はずれな自信は?」とザッツがたずねると、ローディは自信たっぷりに答えた。
「彼女はお互い誤解していたのですね?と…嫌われていなくて良かったと…喜んでくれて、私の言葉に”良かった”と言ってくれたのですから!」と、また都合の良いところだけを切り取ってザッツに伝えた。
しかし、それでもザッツは譲らなかった。
あり得ないと一笑に伏す。
「ふん!そんなもの、お前の受け取り方だけの問題ではないのか?お前は腐ってもこの国の王子だからな、イリューリア嬢とて言葉を選んだだけではないのか?」と遠慮も何もない物言いである。
叔父とは言え、臣下に下った公爵の身分で、この国の王子に不敬もいいところな物言いだったが、まさしく真実をついていた。
「ともかく!同じ公爵家同士なら、彼女も本当の気持ちで返事できるだろうが、お前はそうは、いかん!おまえは王子だ!しかも今のところお前が王位継承権一位!お前が公に申し込めば、イリューリア嬢は嫌でもお前の申し込みに首を縦にふるしか選択はなくなるんだ!焦って馬鹿な事はするなよ!」と釘をさした。
「…」
「こらっ!だまるなっ!」
「わ、わかっていますよ!申し込むならまず、二人きりの時に、内々に気持ちを確かめますとも!いや、でも気持ちはもう、謝った時に聞きましたけどね。あとは申し込むだけですから!」と言い放った。
そんな事を言い争いながら全ては、明日の園遊会で!と問題は翌日に持ち越されたのだった。




