53.エルキュラート家のにぎわい
園遊会の前日、晩餐会の支度でエルキュラート家は大騒ぎだった。
と、いうのもあの騒ぎ(マルガリータのやらかし事件)以来、イリューリアのたっての希望もあり、ラフィリアード一家は、エルキュラート家に宿泊しているのである。
晩餐会の支度ではルミアーナやメイド達がイリューリアのドレスを見立てるのに大はしゃぎである。
ルミアーナとイリューリアの楽しそうな様子は、本当に仲の良い姉妹のようで、あんな事件があった後とも思えないほどに幸せそうなイリューリアだった。
仮にも母と呼んだマルガリータの悪事の露見は、イリューリアにとって少なからず衝撃を与えた。
もし、あの騒ぎのあと一人きりになっていたのならきっと、思い悩んだことだろう。
しかし、それを見越してか、たまたまなのか、公爵夫人ルミアーナと双子のジーンとリミアが盛大に駄々をこね、イリューリアもまた、ルミアーナ達といたいと願った事から、父であるカルムもイリューリア命の召使たちも快く…と、いうか、むしろお願いして一家でお泊り頂くような形になったのだった。
最初の夜は、双子のおチビさんたちが、イリューリアの部屋にきて大騒ぎになった。
「いりゅおねーしゃまは、りみとねゆの!じーんは、おとこのこなんだから、おとーしゃまのとこいけば、いいの!」
(何気に傷つく父ダルタスをよそに子供達はイリューリアを巡って大喧嘩である)
「りみ!ずるいっ!ぼくも、おねーしゃまといっしょがいい!」と、ジーンとリミアは、お互いの顔をつねったり髪をひっぱりあったりの大喧嘩をはじめたのである。
「「うわぁ~んっ!」」
そして、とうとうお互い泣きじゃくることに…。
「まぁ、ジーン、リミア、じゃあ仲良く三人で寝ましょう?」イリューリアは慌てて二人を抱き寄せてなだめた。
そしてきわめつけは、双子の母ルミアーナである。
「ええ~っ!ジーンとリミアばっかり、ずるいっ!私もイリューリアちゃんと一緒に寝た~い!パジャマパーティしましょうっ!」と言いだしたのである。
ルミアーナが、何故か、メイド達に用意させたのはふかふかのたくさんの枕!
そして子供達と「枕投げ」なるものをした。
これにはイリューリアもメイドのルルーもマーサもびっくりである。
ラフィリルの国の風習なのか?そうなのか?(いや、違う!)
(ここだけの話だが、これはルミアーナのもう一つの記憶の中にある地球の日本での遊び?である。ルミアーナは日本での記憶とラフィリルの記憶を合わせもっているのである)
力いっぱい枕を投げつけあうだけという、この遊びにイリューリアも子供たちも夢中になってしまった。
ルミアーナの指示で無理やり参加させられたルルーやマーサも、何気に、これまでのストレス発散ができて楽しかったようである。
そして、くたくたに疲れた子供達はすぐに眠りにつき、その後、メイド達も部屋を片付けると下がっていった。
そしてぐっすり眠った子供達をベットから落ちないようにと、イリューリアのベッドに横づけした子供用の柵のあるベッドにうつす。
ルミアーナとイリューリアはひとつベッドで向き合って横になるとルミアーナにぽつりぽつりと、過去の自分の事、義母の事を語った。
「私…お義母様は、本当に私の事を思って、色々と教えて下さっているんだと思っていました。私のためを思って…という言葉に何の疑いも持たず…」と、眉尻を下げ、辛そうに呟くイリューリアに、ルミアーナは、声をかけた。
「自分の言葉を疑わないように…そんな呪縛もあったのかもしれないわね…」
「お義母様のこと、好きだった…いえ、好きじゃないとだめだと思っていました。実のお母様を呪い殺しただなんて…夢にも思わなくて…」とイリューリアは目に涙をためた。
そっとルミアーナがイリューリアを抱き寄せ頭を撫でる。
「イリューリア、何もかも呪いのせいよ。呪いはとけたのだもの。今、イリューリアのお母様エマリア様だってきっと空の上から見守りつつ喜んで下さっているわよ」
「そうでしょうか?知らずに自分を殺した者を母と慕っていた私の事を情けなく思われてはいないでしょうか?私は自分が許せません…」
「馬鹿な事を言わないの!イリューリア!貴女ほど心根の美しい素直な娘はいないわ!」
そう言ってルミアーナは、ぎゅっとイリューリアを抱き寄せた。
「そんな…それは、ほめ過ぎです。ルミアーナ様…」
イリューリアはルミアーナの胸で少し泣いたら直ぐに涙をぬぐい、そう言いながらほほ笑んだ。
「あら?全然ほめてなんかいなくてよ?だって、そうでなければ、あの人嫌いなルークが最初から心許す筈もないわよ」
「そうでしょうか?…って、え?ええ?あのルークが人嫌い?まさか?」
あんなに優しいルークが人嫌いなんてありえないとイリューリアは驚きの声をあげた。
「ふふふ、本当よ…誰に対しても口のきき方は優しいけれど、誰かの為に怒ったり顔を赤らめたり…私の知る限り、イリューリア!貴女が初めてなんだから!」
「え?えええっ?そそそ、それは、えっとあの、どういう?」
イリューリアは、ルミアーナの思いがけない言葉に、驚き、そして、なぜか胸がどきどきして、きゅんとしめつけられた。
「ふふふ、どういう事かしらねぇ?あんまり言うとルークに怒られちゃう。でも、貴女の事、可愛らしいって言ってたわ。気にいっているのは確かよね。貴女をつきとばしたマルガリータの事、すっごい怖い目でにらんでたし」
「ま、まぁ…私、あの時、お義母様に謝ってほしくて、ルークがお義母様のこと睨んでいたなんてきづきませんでしたわ」
「もう、すっごい目で睨んでたわよ~ふふふ」
イリューリアは真っ赤になって口ごもった。
「ル、ルミアーナ様ってばご冗談ばっかり」
「ふふふ、ほんとだってば!まぁいいわ。いずれわかるわよ」
ルミアーナはいたずらっぽく笑いながらウィンクした。
そして、それからというもの毎日のようにルミアーナと子供達は、イリューリアの部屋で眠っている。
そして、子供達が眠ったあとは姉妹のようにおしゃべりをした。
二人は、日を増すごとに仲良くなり「イリューリア」「お姉さま」と呼び合うようようになったのである。
可哀想な旦那様ダルタス将軍とルーク魔導士は、ほっとかれっぱなしであったが、本当の姉妹のようによく似た二人の仲睦まじさはとても微笑ましくて、心がほっこりしたので、それはそれで良かったのだろう。
男達三人(カルム、ダルタス、ルーク)で夜遅くまで酒を交わしながら国政の事や、デュロノワル一味の処分についてなど、語り合って過ごしたのだった。
全くもって生真面目な男達である。




