51.恋する男達-03-ザッツとカルムの会話
王城にあるカルム宰相の執務室に数日後に控えた園遊会の警備の打ち合わせに来ていた。
「うん、当日の警備はこんなもんで問題ないだろう。デュロノワルの一派も一掃したし、王都はすこぶる平和だしな」とザッツが言う。
「まぁな、でも油断するなよ!国外からの賓客たちに紛れて良からぬ者が入って来ないとも限らないからな」と、カルムはザッツの出した警備体制の報告書に目を通した。
「ところでカルム宰相!この間、魔導士殿に言っていたこと、本気なのか?」
「娘を薦めたことか?うむ…本気だ」
「馬鹿な事を…お前、分かっているのか?あのルーク殿は、ちょっとやそっとでは行けないような遠い国ラフィリルの住人なんだぞ!そんなところに嫁がせれば、もう死ぬまで会えなくなるかもしれないんだぞ」
「それは、大した問題ではない!わたしは、今回のことで思ったのだ。娘を確実に守ってくれる者に嫁がせたいと!」
そのカルムの言葉にザッツは少しむっとしたように言い返す。
「それならば、わたしのところに嫁がせればよいではないか!わたしならなら、彼女を守れるし、身分も問題ない。何より遠くに嫁がせるよりカルム殿もさみしくはなかろう?そして、わたしとイリューリア嬢との間に子ができたらそのうちの一人にエルキュラート家を、もう一人には我がクーガン公爵家を継がせれば大団円ではないか!」と、声を荒げてまくしたてた。
「た…確かに、それはそうかもしれんが、今回の呪いなどルーク殿がいなければ、いくら猛将と呼ばれるザッツ将軍でも、どうしようもなかったではないですか?」
「そ、それは、否定できないが、そもそも呪いなんてものがそうそう転がっているものでもあるまい!それに”黒魔石”なるものの存在をしり、これから厳重にこの国に入らぬようにしておれば良いのではないか?デュロノワルの一派も一掃したのだから、もうこんな事はおきまいて」
「いや、実際、妻はそれで命を落としたのだ。私は娘がほんの砂粒ほどの可能性でもそんな運命をたどってほしくはない!」と、自分が愛する妻を守り切れなかった事を思いながら悔いるように瞳を伏せて言った。
そんなカルムを責めるかのように、ザッツは、言葉を続けた。
「あの男は魔法は使えても、いかにも武術とか体術とかは出来なさそうじゃないか?いくら魔導士といっても不意をつかれたら、とっさに呪文もなにも唱えられないだろう?呪いやら魔法やらではない事で襲われた時、あんなひ弱そうな男で大丈夫だと思うのか?」
「そ…それは…」
「考えてなかったのか?」
「……貴公の言うことにも確かに一理あるのかもしれない…。だが、彼は…いざと言う時は自分の身をていしてでも娘を守ってくれるような気が…」
そのカルムの言葉を遮るようにザッツは言葉をかぶせた。
「そんなのは、単なる思いこみだろう?実際は剣すら扱えない腰抜けかもしれぬのに!」
「…」
「それに、あの男、魔導士とはいえ、家名も名乗らぬところをみると次男か三男とかで継ぐ家督もないのではないのか?まぁ、ラフィリアでは尊敬される職種と言えるかもしれないが、魔法など存在しない我が国の公爵令嬢を公爵未満の者に嫁がせるなど前代未聞だぞ?」
「…」
「まぁ、よく考える事だな。わたしは本気だ」
そう言うと、ザッツはカルムの執務室を後にした。
だが、カルムは黙って聞きながらも思っていた。
(身分も強さも問題ないが、ザッツ将軍よ…。少し調べてみたが貴公のこれまでの女性関係に問題ありありだ…。嫉妬にかられた女達にそれこそ恨まれて呪いどころか実力行使で刺されたらどうするのだ…)とか、思ったが、この時はまだ口にはしなかったカルムだった。
親として、とにかく娘が一番、幸せになれる相手に嫁がせたい…。
その為になら、自分が寂しいとか跡取りがどうとかどうでもいい事だと思うカルムだった。




