49.恋する男達-01
翌朝、国は大騒ぎだった。
人身売買、婦女暴行、暗殺、闇取引に賭博…そんな暗黒界を牛耳るデュロノワル一族とそれに関わっていた全ての業者も捕えられたのである。
一時的な経済的な流通被害などの弊害は危惧されたが、なんとラフィリルからの援助も受けられることとなった。
この国はもっと良くなるだろう。
そして世界各国の招待客の訪れる来月の園遊会までには、きっともっと活気も出るだろう。
怯えて暮らしていた街の人々からは歓喜の声があがり、奴隷売買の為、連れ去られて閉じ込められていた人々も解放された。
そもそも奴隷制度自体が禁止されているこの国で、人が売り買いされている事自体がカルムには許せなかった。カルムが学生の頃デュロノワル一族を調べたいと思ったきっかけがそれだった。
この国に…この街に安息を!と…。
その望みが叶ったのである。
そしてカルムは、亡き妻の事を思っていた。
ああ、エマリア…わたしは何と愚かだったのだろう。
よもや黒魔石などという人外の力が君の命を…。
自分があんな女マルガリータ等と関わったせいで…。
心から愛した妻は自分のせいで…しかも娘にまで呪いを…。
徹夜明け、一旦屋敷に戻ったカルムは、三時間ほどの仮眠を取ると直ぐに登城し、結果を国王陛下に報告した後、王城の中庭でそっとため息をついていた。
ふと、空を見上げると空は青く澄み渡り風は気持ちよかった。
長く悩んでいた頭の中の靄も晴れている。
あのラフィリルの魔導士ルークのお陰なのだろう。
娘の呪いを払ってくれたように自分にも何かしたに違いないと思い当たる。
霧の晴れた頭で考えると昔のように様々なことが明確に見えてきた。
多分、私の肩や頭に触れた時、自分に纏わりついた呪いを払ってくれたのだろうと…。
自分がグータリム捕縛の為に出ていた時の屋敷でのマルガリータの一件を聞いてもそうに違いないと思った。
カサリ…と地面に落ちる草木を踏む音がして振り返るとそこには今まさに頭に浮かんでいた人物ルークの姿があった。
彼もまた今回の事件の功労者だが国王陛下に報告に登城してくれていたのである。
むしろこちらから頭を下げてお礼を言わねばならない所なのにである。
なんと好ましい若者なのかとカルムは、感じ入るばかりだった。
「あまり、思いつめてはいけませんよ?事件は解決したのです。エマリア様も浮かばれたに違いありません」
「貴公は…優しいのだな」
カルムは思った。
どうしてこの若者は私の欲しい言葉をくれるのだ…不覚にも泣きたくなってしまうのではないか…まだそんな歳でもないのに…と涙ぐんだ。
「そんな事はありません。キリアク王や王妃も心配されていたようですし、何より貴方が落ち込んでいるとイリューリアが悲しみます」と穏やかにいう。
カルムは、ハッとしてルークを見る。
「ね?彼女もまた、慕っていた義母の正体を知り傷ついています。でも彼女は自分の事より結婚までしていた父親が自分より傷ついているのではと心配しているのですから」
「な、なんと!そ、そうか、あの子はそういう優しい子なのだ。本当に天使のような」
「本当に…清らかで優しいお嬢さんですね」
「む、貴公もそう思って下さるか?」
「え?ええ、勿論です」
「そ、そそそ、そうか!」とカルムの表情がパアッと明るくなった。
「はい?」
「そのっ、貴公はお国元に婚約者とか奥方とか、いらっしゃるのかな?」
「は?い、いえ、おりませんが…」
「おおおっ!そっそれでは、うちの娘などは、どうでしょうか?」といきなりカルムはルークに愛娘を勧めてきた。
「えっ!」とルークは驚き、その言葉が本気と分かるとぼっと顔を赤くした。
「ええええっ!カルム宰相、いきなり何を!」
そうルークが言った瞬間だった。
「「ちょっと、待ったぁ!」」とザッツ将軍とローディ王子が割って入って来た。
「お、お前たち、立ち聞きしていたのかっ?」とカルム宰相が怒ると二人はぶんぶんと首をふる。
「「し、失礼な」」
「たまたまだ!たまたま、庭に出て来たら、とんでもない事をお前が言いだしたから!」とザッツ将軍が慌てて答える。
「そ、そうです!」とローディ王子も大きく首を縦に振りながら頷く。
「やっぱり聞いてたんじゃないか!お前たちこの国の賓客に対して失礼だぞ!」とカルムがザッツ将軍とローディ王子を窘める。
「それとこれとは話が別だ!おい、カルム!正気か!ルーク殿には今回、確かに恩があるが、所詮は遠い異国の魔導士だぞ!おまえ、娘がそんな遠くに嫁に行って寂しくないのか?」とザッツがまくし立てた。
「カルム宰相!ザッツ叔父上の言う通りです!彼女だって知り合いもいない地で可哀想じゃないですか!」とローディも言う。
その凄い剣幕にルークが両手で制しながら「ま、まぁまぁ、お二人とも落ち着いて…」と言うと
「「貴公は黙っててくれ!」」と同時に叫ばれルークは苦笑いして答えた。
「はぁ」…と。




