46.決戦当日--11-エルキュラート邸での騒ぎ
その夜は目まぐるしく慌ただしく、そして呆気ない一夜だった。
エルキュラートの屋敷では怒号が飛び交っていた。
ルークの言葉にエマリアの死の真相とイリューリアの引きこもり…
そして王も王妃も不思議に思っていた宰相とマルガリータとの結婚も、その黒魔石のせいだったのと深く納得した。
「エマリア殿の死をこの女は、そんな物騒な石に願っていたというのか!」
「許せないわ!おかしいと思ったのよ!あんなにもエマリア様を愛してらしたカルム殿が貴女などと再婚だなんて!」
王は怒り王妃は涙目でマルガリータを責めた。
「そそそそ、そんなこと!そこの男の嘘っぱちに決まっているじゃありませんか!大体、魔導士だなんて怪しすぎじゃないですか!王様王妃様!しっかりして下さい」と、マルガリータは事もあろうに国王夫妻を窘めるかのような言葉を吐いた。
その言葉にイリューリアは憤然としてマルガリータに歩み寄り反論した。
「お義母様、ルークは怪しくなんてありませんわ!先ほどから、あのラフィリルの魔導士だと言っているではありませんか!ラフィリルは我が国よりずっと大きく歴史も深い、伝説の国です!そんな国の魔導士様なんて、凄くて立派な方なんです!ルークに謝ってくださいませっ」
「「「え?怒るとこそこ?」」」とダルタス、ルーク、ルミアーナが、思わず呟く。
今までの話の流れだと、イリューリアは実の母をこの女に殺された訳で、父親だって呪いで結婚するように仕向けられ、何よりも自分の事も呪われていた訳なんだから、よりによって怒るところがそこなのか?と不思議に思うのも道理というものだろう。
ふとルミアーナが視線をイリューリアからルークにうつす。
そしてルミアーナが、ダルタスの腕をちょいちょいと引っ張り、ダルタスもルークを見た。
するとルークが片手で口元を押さえ、イリューリアを凝視したままみるみる耳まで真っ赤になっていった。
心なんか読めないダルタスやルミアーナだが、これは、めちゃくちゃ分かりやすい表情だと思った。
おおぉ!ルークが照れている?しかも真っ赤!
生まれて初めて見るルークのすこぶる人間らしい表情にダルタスとルミアーナは内心、浮かれはしゃいだ。
あくまでも内心でではあるが…。
そしてルークが人の心を読めてしまうことを知るルミアーナは、思った。
(ああ、イリューリアは、今、自分の事よりも自分の実の母の死の真相よりも何よりもルークの事を悪く言った事が許せなかったのね?そうなのね!その気持ちをモロに読んじゃったのねルークってば!)とルミアーナは堪えきれないほど嬉し恥ずかしい笑顔がこみあがって止まらなかった。
(はうっ!イリューリアちゃんってば、可愛いわっ!可愛いわっ!ついでに真っ赤になってるルークも案外、可愛いわ!)と悶えた。
大人たちの喧噪をよそに、ジーンとリミアはふかふかのソファーに横たわりお互いの肩を寄せ合って眠っていた。
マーサを別室に寝かしつけて戻ってきたルルーが、すかさず毛布にくるんで二人まとめて隣の部屋に運ぶ。
そこそこ美人さんのルルーは意外にも怪力の持ち主だった。
何気に、こんな騒がしい中で黙々といい仕事をこなすルルーである。
「お黙りなさいっ!イリューリア!子供のくせに、この私に口答えなどと何様のつもり!」とマルガリータは手を振り上げイリューリアの頬を力いっぱい叩いた。
「「「「何て事を!」」」」
まわりのすべてが一瞬、固まった。
ルークがさっとイリューリアを引き寄せる。
「イリューリア、イリューリア!大丈夫か!ああ、すまない。君の言葉に動揺して一瞬、気が緩んでいた。何するかわからない女に近づくのを咎めなかった」と悔しそうに言い、頬をさするがイリューリアはその手を払った。
「お義母さまっ!お謝りになって!」とそれでも引かずにマルガリータに食い下がった。
「衛兵!何をしておる!その女の両手を縛り拘束せよ!」と国王が怒鳴る。
「何をするのですか!陛下!私は娘の躾をしただけですわ!」そう言うマルガリータに周りの目は冷たい。
「馬鹿な事を!お前などがお嬢様の母と名乗るのも汚らわしい!旦那様の妻ですらないお前など、我が家に寄生する単なる居候ではないか!」と家令のジェームスが叫んだ。
「なっ!お前!召使の分際で!」
「いいえ!よくぞ言いましたわ!あっぱれです!流石は、エルキュラート家の家令ですわ!」と王妃はジェームズを賞賛する。
そしてルークはさっとマルガリータの胸元に光る黒い宝石に白い光を放った。
するとマルガリータの胸元を飾る宝石はパンッと弾け散った。
「きゃぁぁあああああ!」
マルガリータのつんざくような悲鳴が屋敷の外にまで響いた。
そう…”黒魔石”が砕け散ったのだった。




