45.決戦当日--10-グータリムの思惑
デルアータの暗黒街の陰の支配者と呼ばれる男マルガリータの父グータリム・デュロノワル子爵は、最初に他国からの闇商人が”黒魔石”を売りつけようとした時、何の霊感商法だと鼻で笑い相手にしなかった。
しかし、その闇商人はとにかく試してみてくれと自信ありげに小さな黒い宝石をグータリムに渡してきた。グータリムは欠片も信じてはいなかったが、娘に「願いが叶う石らしいぞ」と渡してみた。
その後、グータリムは、そんな石の事すら忘れていたのだが、ある日娘が言ったのだ。
「お父様!すごいわ!この石!本当に私の願いが叶ったの!」という。
たまたま偶然が重なったのだろうとも思ったが話をきくと、娘の願いとはエルキュラート公爵夫人エマリアの死だったという。
我が娘ながら、願い事が『恋敵の死』とは何とも浅ましいとは思ったものの、自分の欲しいもののためには他者の命など何とも思わないところが、さすがは自分の娘。デュロノワル一族の血かと可笑しくさえ思った。
そしてエルキュラート公爵夫人エマリアの死が”原因不明”の病だったことから、グータリムは娘に今後も石のお陰で願いが叶うたびに報告するように告げた。
まさかとは思うが…である。
闇の帝王とも言われる自分が、娘のたわごとで、怪し気な霊感商法の石に引っかかったなどと噂されてはたまらない。
そう思い、様子をみたのである。
この時も、どうせたまたまの偶然だとおもう気持ちの方が強かった。
とりあえずは、娘を使って”黒魔石”の力を検証してみるか…程度の気持ちだったし、そのまま放っておいた。
すると今度はあの国の宰相であり王家に最も近い公爵家のカルムとの結婚も叶ったという。
実際に結婚式にでるまで、グータリムには信じられなかった。
さすがに魔法でもない限りありえない事実である。
しかも結婚式の間、娘の横にたつカルムの目はまるで何かに操られたかのように焦点があってないようにも感じた。
それでもなお、(いやいやいや、…魔法の石とかあり得んだろう)と思うも、半分くらいは娘の言う”黒魔石”の力を信じ始めていた。
そして、娘マルガリータに、それからも願い事の石で叶った事を言うように告げたままに放置していたが、最初は話半分に聞いていた娘の戯言にも段々、真剣に耳を傾けるようになっていた。
カルムの愛娘イリューリアもマルガリータが思うがままに屋敷に籠り、外にもでてこなくなった事実もグータリムを驚嘆させた。
そうして、グータリムは”黒魔石”をあの他国の闇商人から買い付けることを本気で考慮しはじめた。
その石があれば、国王すら操り、この国どころかこの世界の覇者になれるではないか!と考えたのだ。
だが、そこでふと疑問に思ったのは、何故、これを売りつけようとした闇商人は自分で使わないのか?という事だった。
グータリムはその事に躊躇し、まだ様子をみないとと思ったのである。
そうして何年もの様子見の期間を経て、独自にその石についても調べてみた。
そして、その石には自分自身も取り込まれてしまうという危険もあると言う事を知った。
悪くすれば人ではない魔物になり果てたり死んだりしてしまうと言うものである。
それは美しく穢れなく気高いものほど、影響を受けると言うものである。
あっさりと死んでしまったエマリアの事もそれで納得が言った。
魔物になり果てるよりも死を受け入れたのであろうという、これを調べさせていた学者の言葉にも納得もした。
学者曰く、闇商人は大きな石は自分が持つのも恐ろしいから小さな石をひとつづつ売りさばくのだと言う事だった。
あまり大きな石だと自分も取り込まれては敵わないからと…。
そう言えば、あのとき、石を置いて行った闇商人はそこまでの悪党ではなかったのか石に触れる時、分厚い布越しにも拘らず、びくびくしていた。
(小心者め)とグータリムは鼻で笑った。
そういう事であれば、自慢ではないが気高くもなければ人の不幸など何とも思わない自分や自分と同じ様に悪辣非道な自分の一族の者ならこの石に取り込まれる事なく使いこなせるではないかと思った。
自分の利の為なら人の死も喜んで受け入れる家系である。
しかも自分の娘で実証済みだ。
娘はあの”黒魔石”と一緒にあって十年以上になるが、その姿が魔物に変わることもなくぴんぴんしている。
娘を使って十年越しの検証もできたと判断したグータリムは、とうとう、その禁忌の石を手に入れる事を決心したのである。
そうして、初めて取引が行われたのが数週間前のこと…。
その時はマルガリータに持たせたようなほんの小さな直系5ミリ程度の石だったが今夜の取引はもっと大きな”黒魔石”である。
それは、ずっしりとした、手の平に収まらないくらい大きなもので、この”黒魔石”ならば、どれほどの望みが叶うのかと思わされるものだった…。
グータリムの黒い欲望は際限なく膨らむ。
その日、ラフィリルの魔導士ルークの進言により、その闇取引を押さえられるであろう事を知らぬグータリムは笑いが止まらなかった。
そして今宵、決戦の夜、いよいよ取引の場にグータリムと闇商人たちが姿が現したのだった。




