44.決戦当日--09-呪いと祈り
驚愕の内容は大まかにこんな感じだった。
まずは、マルガリータが父親グータリム・デュロノワル子爵から与えられた”黒魔石”に願った事。
●一つ目の願い…恋敵エマリアがこの世界からいなくなる事。
●二つ目の願い…エルキュラート公爵夫人の座を我が物にする事
●三つ目の願い…エマリアの美しい愛娘が人目に触れずに過ごす事。
一つ目の願いはマルガリータの想いがよほど強かったのだろう。
その強力な願いは不幸なことにに叶いエマリアは原因不明の病で倒れ、この世を去った。
三つ目の願いもイリューリアの自信をなくさせ卑下させることで、自ら引き籠らせ叶っていた。
と、いう内容だった。
だが、二つ目の願いだけは上手くはいかなかったようだった。
カルムの心は得られないまでも、形だけは、公爵夫人となり、召使いや本人はすっかりこの屋敷の女主人だと信じていたが、この二つ目の願いだけは、カルム一人に黒魔石の呪いで暗示をかければ済む問題ではなく手続き上の問題も、あったのである。
幸いにも国王も大司教も認めてはおらず、婚姻の成立には至っていなかった。
結婚式まで挙げた為、結婚したと思っていただけである。
マルガリータが公爵夫人という座ではなく純粋にカルムの心だけを望んでいたら、今頃、カルムはマルガリータの手に落ちていただろうし、カルムもまた何が何でも国王や大司教を納得させようとしただろう。
しかし、幸いなことにカルムは、心の底までは、すんでのところで操られきらずにいたのだ。
その証拠にカルムは一度たりともマルガリータと閨を共にする事はなかった。
肌を交わしたこともあるという記憶すらただの思いこみに過ぎず、黒魔石が作らせた偽りでしかない。
自分の部屋に訪れないカルムに苛立ちを覚え、女としてのプライドを傷つけられたマルガリータが、黒魔石の力でそう思いこませていただけだったのだ。
マルガリータが、いくら自分の虜になるようにそれを願っても何故かそれだけは叶わなかったのである。
カルムは、時折、本来の意識を取り戻しては、亡き妻を思いだし自分は一体何をやってるんだろう?と自問自答していた。
時折、黒い靄のようなものが頭の中を覆い、あの女は何も悪くないというように思ってしまうのである。
娘に優しく振る舞う様を見ていると、じつは優しい女なのではないか?とか、愛情もないのに結婚式を挙げたことを申し訳なかったとすら思ってしまう。
しかし、屋敷を離れて仕事に向かうと何故か黒い靄ははれてまた、何故、あんな女と寝たのかと自分で自分を不思議に思い、自己嫌悪に陥る。
(実際にはカルムは、マルガリータの寝室にすら入ってはいないが、そう思い込まされていた)
そんな繰り返しだったのだ。
エマリアの死の真相を突き止め、明らかにすべく探るために、嫌々結婚式の真似事までしたと言うのに…と葛藤しつつ、マルガリータの実家の悪行を暴きまくっていた。
元来、優秀なカルムは、黒幕のグータリム・デュロノワル本人を捕えられないまでも、彼の息のかかったかなりの数の闇取引やそのほかの悪事を暴いていたのだった。
*****
ルーク曰く、カルムが愛するのは今も昔もエマリアただ一人なのだろうという。
そしてエマリアは死の直前、自分の病が呪いではないかと薄々気づいていたであろうという。
彼女が命尽きる時に願った事は、カルムやイリューリアに降りかかるだろう呪いから夫や娘を守りたいという事だった。
自分は死んでもいいから…と心から願ったに違いないと…。
普通の…魔術や呪いと無縁の無防備な人間が”黒魔石”の呪いにかかれば、ほぼ操り人形になってしまうのが通常だという。
それを緩和できたのも、カルム自身の人並み以上の強靭な精神と、エマリアの最後の強い願い…”祈り”によるものだったのだろうとルークは言った。
彼女もまた、魔力をその身に秘めたる”血族の姫”だったのである。
当時、エマリアが”月の石”を手にしていれば事もなく防げたであろう呪いだが、それは、叶わぬ事だった。
当時、月の石を生み出すルミアーナの力は目覚めておらず、現存する月の石は何百年もの昔から大神殿に安置されたわずか五個のみで、王家の者ですら手にすることはなかったのだから…。




