43.決戦当日--08-断罪
エルキュラート家の貴賓室は、ただならぬ雰囲気が漂っていた。
やらかしまくりのマルガリータに呆れるラフィリルの一同。
恐怖に引きつる召使たち。
マルガリータに腹を立てつつも焦りながら詫びるデルアータ国王夫妻。
「ダルタス殿、ルーク殿、本当に申し訳ない!このような無知で無学なものが我が国の、ましてや形だけとはいえ宰相の妻だなどと」
その言葉にマルガリータが聞き捨てならないという風に眉を寄せた。
「形だけとはどういう事でしょうか?私は正真正銘、カルム様の妻で公爵夫人ですわ!」とマルガリータが国王に抗議した。
「お黙りなさい。マルガリータ、不敬ですよ!貴女ごとき身分のものが直に陛下と口を聞くなど!」と王妃が窘めた。
「其方が、カルムの妻だと?カルムの妻は今も昔もエマリア殿ただ一人だ!馬鹿な事を申すな!そもそも公爵家当主のカルムが其方のような女を本気で相手にする訳がなかろう!正式な婚姻の許可など私は出しておらぬし、申請もされておらぬわ!」
「そんなっ!でも私はカルム様と結婚式も挙げましたわ!」
「それが、何だというのです?正式な妻で公爵夫人と名乗るには国王と大司教の許可と祝福がいります!さほど身分も高くない子爵家の出身とは言え貴族の端くれなのですから、それくらいの常識わかっているはずでしょう?」と王妃が言うとマルガリータは目をパチクリさせた。
「は?」
「は?では、ありません!まさか、本当の本当にそんな事すら知らなかったと言うのですか?」王妃が驚愕の表情でマルガリータに問うた。
「し、信じられないっ!ひどいっ!私は騙されていたと言うのですかっ?」とマルガリータが怒りを含んだ声で金切り声をあげる。
王妃は思った。
信じられないのはこちらの方だわと!
あのエマリア様のあとに正妻として本気で迎えられると欠片でも思っていたのなら、そっちの方が信じられない。
あんなにも完璧なエマリア様の後で…。
王妃になるべく教育を受けてきた自分ですらエマリア様と比べられたらとても敵わないと思うほどなのにである。
「騙すも何も、そもそも子爵家出身の貴女が、どこぞ伯爵家以上の養女にでもなる手筈でも踏まない限り、王位継承権すら持つ公爵家当主の正妻になどなれる筈もないではありませんか」と王妃が言うとマルガリータは心底、傷ついたような声をあげた。
「そ!そんな!では、一体、私は何だったと言うのです!」
「少なくとも公爵夫人と名乗ってよいものではない!良くて”妾”か”愛人”だろう!」と国王が言うとマルガリータはわなわなと震えだした。
「な!ななな、何ですって!」とマルガリータはわなわなと震えた。
「そんな…そんな筈はありませんわ!カルム様は、私を愛して…」
そう言うマルガリータの姿は哀れで、若干なりともルミアーナやイリューリアの同情をかった。
「さすがに、それは、可哀想じゃない?」とルミアーナが眉をしかめた。
そもそもルミアーナは身分がどうのこうのと言うのは嫌いなのである。
あまりにも人の心を無視している気がするのだ。
イリューリアに至っては尊敬する父が、そんな女性の気持ちを蔑ろにするような形だけの結婚をしたのかと義母に同情すらした。
「それは…あんまりじゃ…」とイリューリアが言いかけた。
その言葉を、ルークが遮った。
「…黒き魔力にすがって得た関係などに愛情など皆無だろう?」と静かに低い声で呟いた。
いかにも不愉快そうな口調と冷ややかな眼差しで…。
ルークの言葉にマルガリータは、一瞬、さっと顔色を青くした。
思い当たることは、そう”黒魔石”の事である。
「え?ルーク、一体それは、どういう意味ですか?」とイリューリアが訪ねる。
ルークはその冷たい表情をとたんに緩め穏やかで優しい口調になる。
「この世には魔法と言う不思議が確かに存在している。これは、わかるね?」
「え、ええ。もちろんよ。貴方がいきなり銀の光を纏って現れたのも見たし、私を訳のわからない呪いから救ってくれたのも貴方の魔法のお陰ですものね?」
「この世界には決して使ってはならない禁忌の魔法というものがある。それは、死者の復活と呪い…。人の心を魔法でねじ曲げる事だ…」
「え?それって?」
そして、ルークは、静かに語り出した。
マルガリータが"黒魔石"を使って願い叶えてきた数々の事を…。
それは、そこにいる全ての者が言葉を無くす程の内容だった。




