39.決戦当日--04-厚顔無知なマルガリータ
「あら、どうされまして?私の顔に何かついていまして?」とルミアーナが、悪戯っぽくニヤッとしながら言った。
「い…いえ…別に…」とマルガリータが口ごもる。
「と、とにかく中へ…」とイリューリアが促すと家令ジェームズがはっとした。
「このような玄関先で大変失礼いたしました!どうぞ中へ!」とジェームズは暖かみのある広い貴賓室に案内した。
そして、何となくバツの悪そうな義母マルガリータも一緒に本館の貴賓室に入り、歓談の席についた。
「うふふ、マルガリータ様は、私とイリューリア様が似ているので驚いてらっしゃるのかしら?」と、ルミアーナの方から青い顔をしたマルガリータに話しかける。
「え、ええ。そ、そうなんですのよ。他人の空似にしても何だか気味が悪くて…」とあり得ないような失礼な言い方をするマルガリータに召使たちは凍り付いた。
(な、な、な、国賓である公爵夫人に何たる暴言!この国に戦乱を招く気かこの女!)と一応は名目上の女主人ではあるマルガリータに目をむいて驚き心底呆れた。
(穴があったら埋めてやりたい!)と、家令のジェームズは思った。
この女は”国賓”の意味がわかっているのか?いいや!分かっている筈も無い!
しかも”はじまりの国ラフィリル”と言えば大国だ。
この国、デルアータも大国と呼ばれるもラフィリルほどではない。
きっと、この女はそんな事すら分かっていないのだろうと家令を始め召使たちの血の気はどんどん失せていき皆、紙のように白くなっていく。
メイド長のマーサなどは、今にも気を失いそうになっている。
ルルーはいざとなったら倒れたマーサを担がねばと気合をいれていた。
「ふむ、我が妻は我が国ラフィリルの王族に連なるアークフィル公爵家の出である。つまりラフィリル王家のご出身のエマリア殿やその娘であるイリューリア嬢とは親戚になるので似ていても不思議はない」とダルタスがそっけなく言った。
するとマルガリータは途端に戸惑いの表情をあっけらかんとしたものに変えた。
「まぁ!なんだ!そういうことでしたのね?私はまたエマリアの幽霊でも出たのかと思いましたわ!ほほほ」と笑った。
この時、マルガリータは激しい勘違いをしていた。
親善大使とは言っても主のカルムが帰ってきてもいないことから、どこぞの小国の大して重要でもない国の客なのであろうと…。
世間知らずな箱入り娘に案内役をさせるなど要するにどうでもいいくらいの客なのだろうと…。
それ故の侮りと嘲笑を含んだ物言いだった。
本当に大切な賓客ならばこの屋敷の主人であるカルムが飛んで帰って来て出迎える筈である。
カルムが帰っても来ないような客。
そんな小物達をうちにまで連れてきてもてなすだなどと馬鹿な娘ねとイリューリアの事も内心、せせら笑った。
(ああ、でも、この顔!本当にむかつくわ!)
世間知らずなのは自分だとも気づかずに、そんな事を思った。
自分が呪い殺したエマリアにしてもそんなに大国の王家の血を引く姫君だったとは思っていなかったのである。
誰に対しても偉ぶる事のないエマリアは常に周りに信頼され愛されていたが、マルガリータは、それすらも遠い辺境の小さな国の出だから皆が優しくしたのだろうと勝手に思っていたのである。




