38.決戦当日--03-屋敷で
その日、エルキュラート邸では主がいないにも関わらず、国賓であるラフィリアード公爵一家が招かれていた。
名目上は案内役のイリューリアに屋敷に招かれたという体ではあるが、実際の所は父カルム・エルキュラートがいない今宵、黒魔石を使ってイリューリアに呪いをかけていた義母マルガリータから守る為である。
デュムランの闇取引の事が何かの拍子でばれたりしてマルガリータに伝われば逆上したマルガリータがイリューリアに何らかの危害を加えないとは言えない。
そんな気がかりを払拭する為である。
魔法で移動すれば、王城から一瞬で屋敷に来られる面々ではあったが、
「屋敷の者達を驚かせるのも可哀想よ」とルミアーナが言うので、その日は、帰る道すがら、目に留まった店でショッピングやお茶をしながら馬車で屋敷に戻った。
そして一家は馬車から降り、正面玄関から訪れたのである。
「「「「「いらっしゃいませ」」」」」
エルキュラート公爵家の召使たちは、主からの事前の指示もあり、準備万端で正面玄関から馬車を出迎え降り立つ一家に深々と頭を下げ出迎えた。
特に公爵夫人のルミアーナはイリューリアにそっくりで、亡くなったイリューリアの母エマリアにとても良く似ていたので、古くから務める家令のジェームズやメイド長のマーサはその出会いに感激した。
そしてルミアーナとイリューリアのとても仲睦まじい様子を見て亡き女主人エマリアにそっと想い馳せ目頭を熱くした。
そんな時である。
「んまぁ~!お客様ですの?」と賓客一家の後ろからわざとらしくも甲高い声で声をかけてくる女性の声がした。
これには、家令のジェームズは『げ』と心で叫び顔を青くした。
メイド達は、咄嗟に堪えきれずに「「「ひっ」」」と小さな悲鳴をあげた。
国賓であるこのご一家に決して会わせたくはなかった、この家の名目上の一応の女主人、イリューリアの義母マルガリータの登場である。
うかつにも、どこからか急な来客の知らせが漏れたのだろう。
召使たちは皆、大失態をおかしたように焦った。
「まぁ、お義母様」とイリューリアが笑顔で振り返り、ルミアーナ達に義母を紹介した。
普通にそれが礼儀だと思っての事である。
「ご紹介いたしますね?皆さま、義母のマルガリータですわ。お義母様、この方々は、ラフィリル王国からの親善大使のご一家でダルタス・ラフィリアード公爵将軍様と夫人のルミアーナ様、お子様方のジーン様とリミア様、それに魔導士のルーク様ですわ」
「まぁまぁ!それは、ようこそいらっしゃいましたわ。私が、この屋敷の女主人マルガリータ・エルキュラート公爵夫人ですわ!」と公爵夫人であることを誇示するかのように声高に言った。
そして、イリューリアに向き返り、きっとにらみつける。
「イリューリア、そんな大切なお客様がいらっしゃるのに私に一言もないとは、どういう事なのかしら?」
「ま、まぁ、お義母様!申し訳ありません。てっきりお父様からの伝言が、お義母様にも伝わっているものと…」
「いい訳はけっこうよ。全く…最近の貴女ときたら私の言う事を少しも聞かずに口答えばかり…大切なお客様がいらっしゃっているのに、この屋敷の女主人である私を蔑ろにして良いと思っているのかしら?」といきなり金切り声をあげる公爵夫人にダルタスとルークは辟易し子供達とルミアーナは面白そうにその女性を見た。
「まぁまぁ、よろしいじゃありませんの!?宜しければ、奥様も私達と一緒に本館で歓談致しません事?」とルミアーナがマルガリータに声をかけた。
旦那であるダルタスはルミアーナのその言葉に、ぎょっとしたが(ああ、またルミアーナの悪い癖だ。何かおもしろがってるな?しかし、何なんだこの下品な女は!カルム宰相、趣味悪すぎだろう?)と思った。
お誘いの言葉に気を良くし、「まぁ、そうですか?」と、ルミアーナに向き直ったマルガリータは、びくっと肩を震わせた。
亡くなった(自分が呪い殺した)イリューリアの母に、とても良く似た女性がそこに立っていたからである…。
「エ、エマリア?」
そう呟くマルガリータの顔は真っ青だった。




