34.屋敷に現れた魔法使い
王城から帰ってから、いつもより簡単に夕食を済ませるとイリューリアはメイドのマーサやルルーにかしずかれながら自室でゆっくりとお茶を楽しんでいた。
そこでイリューリアはまるで夢物語の一場面に立ちあったようなそんな素敵な経験をした。
シャランと鈴の音のような綺麗な音がして、キラキラと銀色の光が舞った。
振り返ると、そこには美しい貴公子が立っていてしずかに頭を垂れていた。
今日、知り合ったばかりの魔導士ルークである。
「やぁ、イリューリア!前触れもなく突然の来訪の無礼を許してくれるかい?」
メイド達は驚き固まったが、イリューリアは嬉しそうな様子でそのいきなり顕れたその貴公子に駆け寄った。
「まぁあ!ルーク!どうされたのです?え?え?お父様たちとのお話は夜までかかると聞いておりましたのに?」
「うん、さっき終わったよ」
「え?さっきって、王城からここまで馬車で一時間はかかるはずじゃ…」
「うん、だってほら、僕ってば魔法使いだからね」とおどけてウィンクした。
「まぁ」
「君の父君は馬車で帰られたから一時間ぐらいしたら戻られるんじゃないかな?僕は君に渡したいものがあったのと確かめたい事があってね!?急にお邪魔して申し訳ない」とルークがふんわりと笑った。
「まぁ!とにかくおかけになって」と、イリューリアは嬉しそうにルークに椅子を勧めた。
「マーサ、ルルー!彼は私の恩人の魔法使いさんなのよ。お茶をお出しして」とメイドの二人に指示したものの二人は口をパクパクさせて固まったままである。
「「お、お、お、お嬢様、そそそそ、そのお方は?い、今、どちらから?あわわわ」」
「んもう!王城から魔法でこちらに移動してらしたのよ!あの伝説の国とも魔法の国とも呼ばれるラフィルからの親善大使のご一行のお一人の魔導士のルーク様よ!怪しい方ではないから安心して!」と一気にまくしたてた。
二人からしたら他所の国の突然の来訪者で、しかも『魔法使い』だなどと…怪しい事この上ない!
どっから湧いて出てきたのかと恐れおののくのも当然のなりゆきだったろう。
しかし、ルークは全く動じずメイドの二人に声をかけた。
「ふふっ、メイドのお嬢さん方、驚かせて申し訳なかったね?ちょっと彼女に急ぎ渡したいお守りを持ってきたんだよ。すぐにお暇するからね」とそれはそれは優しい極上の笑顔を振り撒いた。
ぼっと赤くなったメイド達はルークがとにかくお嬢様に害を為す者ではないと認識してしまった。
必殺奥義、美形の特権!微笑めばオッケー!(ただし、美男子に限る!)というものである!
何より人見知りなお嬢様が名前呼びしている殿方で、それなりのご身分の方でも、あるようである!
これは、もしかして?とマーサとルルーは期待に胸を膨らませ、この麗しいお客様をもてなす為のお茶の用意をそそくさと始めた。
「それで渡したいお守りって何ですの?」と、イリューリアはルークに向き直り瞳を輝かせた。
「これだよ」ルークはイリューリアに乳白色のきれいな宝石を手渡した。
その石はイリューリアの手の平の上でぱあっと薄い桜色に輝いた。
「まぁっ!綺麗!なんて可愛らしい色に輝いて!」とイリューリアがさけんだ。
「ああ!やっぱりね…石がすごく喜んでいる」
ルークが満足そうにそう言ってその石に手をかざした次の瞬間、シャランと音がしたかと思うと石は綺麗な装飾の入った台座にはめ込まれ、さらには首からかけられるような留め具のついた銀色の鎖がつけられていた。
「これを君に…。これは伝説の“月の石”…血族である君を忌まわしい呪いから守り浄化してくれる」
「えっ!これは、あの“月の石”なのですか?」
「そうだよ。君は紛れもなくラフィリルの王家の血筋、血族の姫、我が同胞!」
まるで魔法の呪文を唱えるかのようにそう言い、ルークはイリューリアの頭をポンポンっと軽く撫でるように叩いた。
小さな銀の光がキラキラと舞った。
「確かめたかったのはそれだよ。その石に宿る精霊は月の石の主であるルミアーナから名前を授けられ君を守るよう命じられている。君は主のルミアーナそっくりだし魂の色までもよく似ているから石も喜んでいるんだな」
「まぁ、何て光栄な事でしょう。この石の精霊様にはお名前があるのですね?」
「リアと名付けていたよ。君の名から付けた名前みたいだね…これを持っていれば、君に危険がせまった時、同じ石を持つ僕にも分かるから助けに来ることができるしね」
「まぁ、なんて素敵なんでしょう」イリューリアは、ルークの思いがけない言葉の数々に驚きつつもときめきをかくせない。
「とにかくこの月の石の精霊は、君を守るようにルミアーナに命じられている。これを肌身離さずつけているんだよ?そうすれば、また訳の分からない暗示や呪縛に捕らわれる事もないからね」
「まぁ、ルーク!ありがとうございます。この鎖の装飾もなんて綺麗なんでしょう」とイリューリアが頬を染めてお礼を言うとルークは少しだけ固まった。
「まったく…君は…ルミアーナとそっくりなのに、また随分と可愛らしい…」
そう言いながら鎖をイリューリアの首にかけた。
「ええっ」とイリューリアは顔を真っ赤に染めた。
よく分からない言われ方だが、褒められようだ。
とにかく可愛いと言ってくれた事は嬉しい。
しかし今の言い様ではまるでルミアーナ様が可愛くないとでもいうような言い方ではないか?と、イリューリアは不思議に思った。
しかし、ルークの言い様から、まるであのルミアーナ様より自分の方が可愛いと言われたようで、それを嬉しく感じて胸が早鐘を打つようにどきどきとしてしまった。
こんな気持ちははじめてだった。
「じゃあ、僕はお父上が戻る前にお暇するよ。もう夜更けだしレディの部屋に長居は無作法だからね」と軽くウィンクした。
「えっ?そんな…もう帰っちゃうの?」
「うん、また明日、王城でまっているよ。くれぐれもその月の石は肌身離さずつけているんだよ?あ、あと、お父君が、家にいる時は、父君とできるだけ一緒にいてあげてね?そう、朝晩ハグしてあげるといいよ」
そう言って、ルークはメイド達がお茶の支度を終える前に、パチンと手をならし、銀色の光に包まれたかと思うとその場から掻き消えてしまった。
その夢のような魔法使いの来訪にほうっとため息をつき幸せそうにイリューリアは「うふっ」と声をあげルークが首にかけてくれた“月の石”に触れながら頬を染めたのだった。
その様子を見たマーサとルルーは、またまた目をむいて固まっていた。
「「お、おじょうさま~っ!!」」
「あの方は一体??呪いって何です?」
「お名前で呼び合って随分とお親しいご様子でしたけど!」
「一体、何がどうなって、どううしたっていうんですかぁーっ!」
「すごいハンサムさんでしたねぇ!こう言っちゃあなんですがローディ王子殿下なんて目じゃないですわねっ!」
「まったくだわ!お嬢様!あの方はどういうご身分でっ!?」と、二人が矢継ぎ早にイリューリアに問いかけてきてた!
それはもう、凄い勢いである。
イリューリアは、呪いの事は二人が心配するからと黙っていたのだが、城でのいきさつを全て説明する羽目となったのだった。




