32.暴くべき罪--04
ほんの一部ではあるが、ルークの魔法を見せられたデルアータ国の重鎮達は、ルークの事をもはや稀代の魔導士と疑うべくもなかった。
カルムに至っては自分がこれまで調べてきて推測していた大方の事を裏付ける事の出来るルークの進言と光の玉から見せられた映像に驚嘆感激し、ルークに一目置き絶大な信頼感を抱いた。
カルムは、ルークの助言を有り難く受け取り今後の作戦をザッツ将軍と練りあげ、部下たちに指示し罠を張った。
「ルーク殿!お礼が遅くなってしまったが、娘を呪いから解いて頂いて本当にありがとうございました。親でありながら娘がそんな大事に至っているとは気づかず…自分をどんなに責めても責め足りない心地です」と、眉間に皺をよせ、苦悩の表情もあらわにカルムが言うと、ルークは少し間をおき励ますように肩をポンポンと叩き声をかけた。
ルークの指先からは銀色の小さな光がキラキラと飛び散った。
すると、何故かカルムは頭の中の霧が晴れていくように感じた。
そして、より冴えた頭に湧き上がる後悔と懺悔の気持ちに襲われた。
こんな筈ではなかったのに…と。
「ええと…エルキュラート公爵…?イリューリア嬢に関して…ならば、そんなに気に病む必要はありませんよ。イリューリア嬢への呪縛は呪いとはいえ命にかかわるものではなかったし、何よりも彼女自身がそれを気に病んではいません」
「は?」とカルムは自分の耳を疑った。
カルムには、娘が呪われていたという事実を知った上で気に病んではいないというルークの言葉が、にわかには信じられなかった。
今直ぐにでも娘の元に行き慰めたいが、愚かな自分にはそんな言葉すら思い浮かばないというのに…である。
「何故です?娘はそのせいで、すっかり自分に自信を無くし王子のたわいない言葉にも深すぎるほどの傷を負い、学園にも通うこと無く若く華やかであるべき時間を潰されてしまったのですよ?」
「そうですね…普通の令嬢なら呪われていたなんて事実だけで怯えてしまったり、その相手を糾弾して憎んだりするでしょうね?」
「そうでしょう?それが普通でしょう?ルーク殿はうちの娘が普通ではないと?」
「ええ、普通どころか、彼女はまごうことなき気高き血族(ラフィリル王家に連なる尊い血筋)の姫ですよ。彼女のお婆様はラフリィリルの王族の姫君でしたね?類い稀なるのは姿だけではなく極上の魂の持ち主です。そんな彼女の本質は、あの程度の呪いで、どうにかなるものではありません。まぁ、呪った人間もそれほどの力も自覚もなく呪っていたのですから、むしろ今彼女は現状を良かったとさえ思っているでしょう」
「娘は現状の何を良かったと思えるのでしょう?」
「ん~、そうですね。まず、彼女は自分の事を不細工だと思っていたようですが、呪いから覚めて驚くほどの美少女だった事を認識できて喜んでいます」
「「「おおっ」」」
「それに、彼女は呪いを含んだ暗示の為に、王子に嫌われたのもすべて自分に非があったに違いないと思いこんでいて自分の至らない事を払拭しようとあらゆる努力を惜しまずしてきましたね?それは現在の彼女をより素晴らしい淑女にしたのです」
「「「なるほど…」」」と国王も、ザッツもダルタスも感心しながら頷く。
「彼女の素晴らしさの特筆すべきところは、自分に自信をなくして屋敷に籠っても自分の中では、前を向き続けていたことでしょう。普通の人であれば、心くじけて自分を少しでもよくしようという努力などできません。なにせ、力のなき者の呪いとはいえ、黒魔石が使われていたのですから…」
「ルーク殿、貴女は今日、娘と先ほど知り合ったばかりですよね?なのに、まるで生まれた時から見てきた父親の私よりも娘の事を分かってらっしゃる?それも魔導士の御力故?なのですか?」
「ふふっ、まぁ、そうですね」
その問いにルークは曖昧に笑ってそう答えるにとどめた。
「その力なき者と言うのは…やはり…」
「ええ、もう分かってらっしゃるのでしょう?」ルークがまたカルムの先ほど叩いた方の反対の肩をポンポンと、何かを祓うように軽く叩いた。
また銀の光が何かを清めるように光る。
「…マルガリータ…ですね…」カルムは覚悟を決めた様に答えた。
「そうです。貴方の現在の妻、そしてイリューリア嬢の義理の…母上ですね」
「「「なんと」」」と聞いていたザッツや国王、ダルタスまでもが驚いた。
「ただ、彼女は、黒魔石の呪いがどれだけ恐ろしいものか分かってはいないのでしょう。エマリア殿を呪った時もイリューリア嬢を呪った時も、彼女はお願い事を叶えてくれる魔法の石とでも言われて親からわたされたのでしょうね。彼女が願ったのは多分、恋敵がこの世から消えてなくなれ!…というような事だったのでしょう。イリューリア嬢への暗示のような呪いは、貴方の愛を一心に受ける娘が憎くて自分より愛されない存在になればよいと思いついたことを日々、祈り募っていたのでしょうね」
「そんな…」カルムは愕然とした。
※血族の姫・・・はじまりの国と呼ばれるラフィリルを創りし偉大なる魔法使い達の末裔をラフィリルでは血族の姫と呼んでいます。
特にラフィリル王家はその血筋を残そうとしてきていたのでラフィリル王家に連なる血筋を一般的に血族と呼ばれています。




