24.呪縛からの解放---02
鏡に映る自分を見て私は驚いた。
皆が言うように自分の顔が、ルミアーナ様にそっくりなように見える。
みっともないと思っていた髪色も精霊のリュート様と比べても引けを取らないのではないかと思うようなプラチナの輝きを放つさらさらの髪なのだ。
瞳はルミアーナ様の碧色とはまた違う薄めの水色の瞳だがぼやけているというよりは優しそうな温かみのある光を受けたような優しそうな色あいだ。
肌の色も、さすがに屋敷にこもり続けて三年!
日にも当たらぬ生活が、まさかの功を奏したのか、“透けるような肌”とメイド達が言っていたのは本当だったのかと今さらながらに思う。
その白い透けるような肌に驚きのためか頬には赤みがさし、ほんのりピンクに染まりルミアーナ様が大人の美女なら自分はまだ少女のあどけなさの残るまごうことなき美少女である!と認識してしまう。
自分のあまりのナルシスト的な考えにぼっと顔をピンク色から真っ赤に染めて驚きの声をあげた。
「ま、ままま、まさか、こんな!」
「「ん?」」と周りはその反応にやっと気づいたかと満足気な笑顔になる。
「ほ、本当に…私、ルミアーナさまに…とてもよく似て見えます。目がおかしくなったのでしょうか?」
「だから、おかしくなったんじゃなくて治ったんだってば」とルークが苦笑する。
「だ!だだだ!だって、これでは」
「「では?」」とルークとルミアーナ様が同時に聞きかえしてきた。
「ものすごい美少女に見えます~」と素直な気持ちを、消え入りそうな声で申し訳なさそうに言うと爆笑された。
もう顔から火が出そうである。
「「あはははははははははは」」
ルミアーナ様、ルーク!笑い過ぎですから!
「「きゃはははははは」」
ジーンにリミア!笑い過ぎだってば!
リュート様を除く皆が一斉に笑いだした。
ルミアーナ様までもが、お世辞にもお上品とはいえない大爆笑である。
リュート様はさすが精霊様です。
淡々とした表情で腕をくんでこちらを観察しておられる感じです。
それも、何だかちょっとこわいですが…。
「良かった、正常だよ」とルークが涙をこらえながらも笑いながら言った。
涙まで浮かべてひーひー笑うなんて!ひどい!
ルークってば、なんて笑い上戸なんでしょう?
落ち着いた感じの男性だと思っていたのに…何だがちょっと意外です。
(でも、そんな気取らない彼に、ちょっと親しみやすさを感じてしまうのは私だけでしょうか?)とか、思う。
そうこうしているとドアの外から、がやがやと何か慌ただしいような人の気配がして、前触れもなくばんっとドアが乱暴に開け放たれた。
「「「イリューリア!大丈夫なのかっっ?」」」とけたたましい声をあげながら三人の男性が入って来た。
それは、お父様とザッツ・クーガン公爵様とローディ王子殿下だった。
「まぁっ、お父様に…クーガン公爵様!ローディ王子殿下まで!」と、私は驚いた。
そしてさらに、その後ろには国王陛下とお妃様まで!
「まぁ!」と恐れ多くてベッドから出てひざまずこうとする私に国王陛下ご夫妻はそれを手で制しました。
「ああ、そのままで!イリューリア、倒れたと伝え聞いて様子を見に来たのだ。起き上がらずとも良い」
「そうよ、どうか、そのままで!ねっ!起き上がったりしないで寝ていなさい!」
と、もったいなくも王様とお妃様、両陛下からのお優しいお言葉には胸があつくなった。
「イリューリア!一体、何が?どうしたと言うんだ?今朝は体調不良でも何でもなかったろう?」父であるエルキュラート公爵はおろおろとしながら私に話しかける。
普段は冷徹な“氷の宰相”とか呼ばれているくせに私の事でこんなにも慌ててくれる父に、私の心はさらに暖かくなった。
屋敷にいる時はいつもお父様のほうが具合が悪く見えていたのに今はお元気でそうで何だか、その事にもほっとした。
「お父様、皆さま、ご心配をおかけして申し訳ありません。それが…私にもよく分からないのですが…えっと…」
私が説明に困っているとルークがすっと私とお父様たちの間に割って入ってくれた。
「それについては、僕からお話しいたしましょう」
「む?失礼だが、貴公は?」いきなり横から入ってきたルークに父は低い声で答えた。
「はい、わたしはダルタス・ラフィリアード公爵の従兄でルークと申します。ラフィル国の魔導士で今回はこの国に不当に闇取引されたと思われる“黒魔石”の調査も兼ねて親善大使一行であるラフィリアード一家に同行させて頂きました」とルークが実に優雅な所作で片手を胸にあて、少しだけ頭を下げて答えた。
「な!なんと!ラフィリルの魔導士様!しかも、ご禁制の“黒魔石”ですと?」
ラフィリルの魔導士と言えば、教会の大司教様並みに力を持つ方だと聞いた事がある。
ルークってば、双子ちゃんたちのお守だなんて嘘ばっかり!
そんなにすごい方だったなんて…と何故か少しだけ胸が痛んだ。
そんな私の胸の痛みなど知る由もないルークは父との会話を淡々とこなし、現状を説明する。
「はい。じつは、ご令嬢のイリューリアさまも、その黒魔石による被害者であり、それを確認するために私の魔力をお嬢様に少しばかり放ったが為に一時的にお嬢様は意識を失われたのです。ですが、黒魔石の呪縛はもう解かれましたので、もう大丈夫です。ご安心ください」
「娘が黒魔石の呪縛に!まさか、そんな!」父や後から入ってきた周りの大人たちも驚く。
「それについて、お聴き取りしたい点もあり、ここからは別室でお話を伺ってもよろしいでしょうか?イリューリア嬢はもう少しこのままお休み頂いて…ダルタス…ラフィリアード公爵には既に別室でお待ちいただいておりますので出来れば、この国の将軍であるクーガン公爵と国王陛下も…」と隣の部屋へと退室を促した。
「わ、わたしは?」とローディ王子殿下が訪ねるとルークはまるで何もかもを理解しているかのように王子殿下に意外な言葉を返した。
「貴方は、まず、ここでイリューリア嬢に言わなければいけない言葉があるのではないですか?ご自分の問題を先に解決して下さいませ」と穏やかに、目をふせながら言った。
「!」
「なぜ、そんな事を…!い…いや、しかし、そうだな…ありがとう。それでは、わたしは、少しこちらでイリューリアと話をさせて頂こう」意を決したかのようなお顔でルークに答えて殿下はこちらに向き直った。
一体、嫌いな私に何の話が?とも思ったが、何やら大事な話があるらしいと理解し、その成り行きを黙って受け入れていた。
そしてルークはクーガン公爵様と父を伴い別室へ移っていった。
残された王妃様にもルミアーナ様がお声をかける。
「王妃様、私達は隣の部屋へ…子供達とお茶でも…王子殿下は過去の問題とちゃんと向き合わなくては、二人にしてさしあげましょう。何かあれば隣の部屋ならすぐに対応も出来ますから」と優しくほほ笑んで手を引いた。
「まぁ、お心遣いありがとうございます」
王妃はルミアーナ様やルークの心遣いに心から感謝して、その誘いを受けルミアーナ様や子供達と共に隣の部屋へと移動した。




