19.噂の令嬢
今年の社交界の幕開けの王家主催の舞踏会での話題はエルキュラート公爵家の一人娘、イリューリアの話題で持ちきりだった。
その美しさ、愛らしさ…。
そして国王夫妻からの覚えもめでたく、お二人に慈しまれている様子は諸侯達に一目おかれ、彼女を射止めるのは一体、誰だと囁かれた。
そしてまだ、一度しか社交の場に姿を現していないのにも関わらず既にイリューリアは、社交界の蝶よ花よともてはやされていた。
これまで、学園にも通わず、教育もすべて自宅で家庭教師をつけて行っていたという事もあり、まさに”深窓のご令嬢”だと口々に語られ、話題の人となっている。
そして何処からそんな情報を仕入れてくるのか、王の実弟ザッツ・クーガン公爵将軍とこの国の第一王子ローディ殿下がイリューリア・エルキュラート公爵令嬢をめぐって争っているというような噂も飛び交っていた。
そんな噂が当の本人に伝わったのはラフィル王国からの親善大使ラフィリアード公爵一家と出会った次の日の事だった。
***
「全くあり得ない話だわ!」
イリューリアは呆れたような声でぼやいた。
「何がでございます?」メイド長のマーサがイリューリアに尋ねる。
「王弟殿下とローディ王子が私を取りあっているとか…とにかく全部よ!そんな噂が広がっているなんて…噂って恐ろしいのね?そんな根も葉もない話」
イリューリアは心底、呆れたようにため息をひとつついた。
「いや、むしろ、根も葉もどころか、幹も枝もありますでしょう?」と、マーサが、何故かどや顔でうんうんと頷きながら言うとイリューリア命なメイド、ルルーも満面の笑みで何度も頷き、騒ぎたてる。
「そうですよ!花まで咲いてますとも!真実の花が咲き誇ってますとも!うふふふふ~、さすがは私達のお嬢様ですわ!当然ですっ!」
ルルーは、勝ち誇ったようにほくそ笑んだ。
「でも、私は、そんな噂にされるような令嬢ではなくてよ?」
「また、お嬢様はそんなことを…いいですか?まず、お嬢様は誰が何といってもお美しいですっっ!」とルルーが、指をびしっっと立てて言い切る!
「…っ!」イリューリアはどう答えて良いか分からず押し黙った。
「って…あら?おめずらしい!そんなことないわ!とかは、おっしゃらないのですね?」と、マーサが、突っ込むとイリューリアはぱぁっと顔を赤らめた。
どういう心境の変化だろうか?
いつもだったら『それは身内びいきというものよ』とか言うところだった筈である。
「えっと…あのね?つい昨日の事なのだけれどね?お父様と王城に行った時に…この世の者とも思えないほど、ものすごっく綺麗な双子の子供達に“お母様”と間違えられちゃってね…」と頬をピンクに染めてそれはそれは良い笑顔で語りはじめた。
「「はあっ???」」
「「おかあさま~?」」
メイド達は、こんなにうら若い乙女が母親に見えるはずもないのに?と驚いた。
しかもそれを嬉しそうに言うのだから全く訳がわからない。
…と、二人のメイドは心底、不思議に思ったが、初めて見るようなイリューリアの心から嬉しそうな恥ずかしそうなまるで恋する乙女のような様子にぐいっと引き寄せられた二人は、「「そ!それで?」」と、話の続きを促し聞いたのだった。
そしてイリューリアは昨日の出来事をメイド達に瞳をきらきらと輝かせながら話して聞かせたのである。




