【e4m23】結果
やっとエピソード4も終わりです。
頭のネジが数本抜けたヒロインがペイジャーをやって、ネジが全部ブッ飛んだヒロインが職員室を爆破したおかげで、ステルス露見を免れた俺。
ただし、延々と燃え盛る火事を野次馬した教師らは、元の巡視経路に戻りつつあった。全校生徒は運動場へ避難したので、校内には連中しかない。俺は小早川氏の箱を持って、慎重にクラスへ帰っていた。
サイレンともに、テクニカルがやって来た。すぐさま荷台に据えたグルーガンで消火作業を始めている。あれはメグだな。
“うっかり”先生たちにまで糊をぶっかけて、石膏像みたいにガチガチに固めている。ありがたい。これでしばらく硬直したままだ。このまま教室に直行しようとすると――
『イヤッ! 離して!』
『助けて!』
俺のHUDに字幕が表示、角の向こうでオレンジのシルエットが悶えていた。ヒロインが教師に担ぎ上げられている。声の主は、小早川ささみだった。
「どうする……?」
もしこれが協力ゲームだったら、救出するのが当然だ。しかしな、今は彼女の重要パッケージを持っている。見捨てるのは造作もない。遠征ミッションで、彼女もそうしたではないか。きっと氏も『逃げろ』と言うだろう。
「ぐがっ!」
俺はそうしなかった……いや、できなかった。進路指導主事の後ろから箱を投げつけ、氏を解放する。奴は前につんのめるように倒れこむ。起き上がった彼女は、状況が掴めない様子だ。
「……?」
「逃げるぞ!」
しかし、急に後ろから肩を掴まれたかと思うと、俺が別の教師に絡め取られて、平手打ちを数発食らった! そのまま廊下に突き落とされる。
「うまくいきましたなぁ、先生」
「ええ。すぐに食いつきました」
俺と氏を挟んだ、生徒指導部一団と進路指導主事が示し合わせたようにニヤリとする。しまった、周囲の危険を確認せず、向こう見ずに飛び出すと、こんな罠にかかるんだよ……。
「その箱は我々が管理しています。返しなさい」
「元々こいつの物でしょ?」
「ええ、だから卒業式に返却します」
「???」
小早川氏は、俺が没収物を盗み出したのに合点いかない。まあ当然だ。
「今お願いします。それがないと詰みなんです」
「意味がわからない」
「メグと仲直りしろと言ってもけんもほろろだろ? 説得では失敗するに決まってる。だから、これを手土産に土下座するつもりだった」
「なにそれ? すごく強引……」
「それしか浮かばなかったのw お願いです先生。日誌はまた書くから、返却してやってください!」
小早川氏を含む全員は、呆れた表情を隠そうともしなかった。一拍おいて――
「そんな都合で返却できません」「そんな都合で仲直りできない」
どうしてお前まで拒否るかなぁ? すると滑稽感を潰すように、大柄の進路指導主事が再び小早川氏を担ぎ上げた。
「ともかくお前らは重営倉だ。覚悟しろ!」
「イヤッ! 痛ッ、離してッ!」
「馬鹿者! 謹慎中にも関わらず好き勝手やるからだ。全て責任はお前にある!」
俺は飛びかかろうとしたが、生徒指導部に取り押さえられた。
「マジで箱は容赦してください! どうしても必要なんです!」
生徒指導主事はため息をついた。取り押さえられる俺を上から見下げていた。
「君は自分で何を言ってるのかわかりますか? 居直り強盗とさして違いませんよ」
「自分勝手なのはわかってます……」
「ますます理解できません」
「コイツとメグが喧嘩してるのは耐えられないんです……」
「大宮……」
「我々に、君たちの事情は関係ありません」
まるで他人事の口吻に頭にきた。箱さえ回収できれば、教師の沽券守れりで、あとは猫の喧嘩のごとく無関心だ。
「だ、か、ら! それができねーから盗んだんだろ⁉︎ お前らには些細な事かもしれねーが、俺には大事なんだよ! メグと小早川が好きだからな!」
「……」
そして複雑な表情を晒している彼女に向かって――
「なあ。俺、甲斐性なしでごめんな。お前は賢いから、自分でなんとかするだろって深く考えてなかった」
「別に……」
「『リードして欲しい』ってのも、1イベントこなせば事足れりだ。あの後よ、先輩にその態度を見透かされたんだ。情けねぇ。あの人のおかげで、お前が友だち思いってのを思い出したよ。パーツ探すとき、お前めっちゃ手伝ってくれたじゃん。メグが一番に声かけてくれるから、お前もメグが好きなんだろ? だからお願いだ、ちょっと歩み寄ってくれないか? 別にお前に依頼されたわけじゃないが、私物を盗み返す報酬でなんとかしてくれ!」
マシンガンのごとく自分の気持ちをぶつけた後、返す刀で――
「先生、だからこの箱は返して下さいお願いします!」
と懇願した。自分でも強引すぎと、内心馬鹿げていたのは内緒だ。
「2人とも連れて行きなさい」
主事は応酬せず、同僚へコマンドを出した。俺すらキラーに担ぎ上げられる。ハハッ……やっぱダメか。かっこわるぅ。万事休すだ。まあ、もともと俺に正当性など微塵もなかったので、説得で手に入れるなんて、無理な話だ。だから強硬手段の盗みに出たわけで……。
ただ小早川氏に素直な気持ちを伝えたので、若干の満足感を抱いていた。氏も抵抗を止め、意味深な表情で俺を見ていた。
生徒指導室に連行されたらどうなる? 2人してフックに吊り下げられるな。そして校長訓戒か? 保護者召喚か? 停学か? なんでもいいよ。後は野となれだ……。見苦しいので、もう抵抗は止めだ止め。
「これ」
その時、前から一声投げた人がいた。俺らは後ろ向きに担がれていて見えなかったが、ホーキンス博士だった。
「何しておる?」
「//// 先生っ! ////」
敬愛する師に失態を見られて、小早川氏は顔を真っ赤に染めた……と思う。俺は彼女の尻と太ももしか見えないけど。博士はひょこひょこ歩いて、俺や氏、そして教師連中の顔を一通り眺めてニンマリとした。
「これはこれは……」
一方、教師らの気まずさは手に取るようだった。誰も目線を合わせようとしない。
「どれ、老人にも話を聞かせてくれんか?」
「いや、先生を煩わせるわけには……」
「こんな所に出くわして、無視はいかんだろ?」
なんで厳しい教師連中は、単なる好々爺に頭が上がらない? 管理職でもないし、身なりも酷いし、恐ろしい人物でもないのに。主事2人から経緯を聞く。目を瞑ってゆっくりと頷く姿は、おじいちゃんそのものだ。
「なるほどなるほど。お前さん、大層なことをやらかしたの?」
「はぁ」
「本当に困りましてね。何度も反省日誌を書かせても、まだこんな反抗的で――」
唐突にカッカッカとこう笑する博士。ニヤリと俺の方を向いた。
「なかなか男気があるわい。ハバディウムが入っとるのか、その箱には?」
「いえ……遠征は失敗で」
「お、そうだったな。そう書いてあったの。まあ、実験に必要なもんがあるんだろ? どれ、ここは一つ老人の面子を立てて、ワシに預けてくれんか?」
「えっ⁉︎ それはいくら先生でも困ります。没収品は卒業式にですね――」
「それは慣例でそうしているのであって、内規に書かれておるのではなかろ?」
「しかし、正当性がありません。生徒指導部として、ここはしっかり指導を――」
「しとるが、芳しくないの?」
「――ッ⁉︎ だ、だから今から厳しく――」
ここで博士のシワが深くなり、厳しい一面をチラリと覗かせた。
「ふむ……お前さん方、子どもに舐められまいと居丈高になりすぎではなかろか? ま、最近の子なんてモンスターやろし、とんでもないこともしでかす。けど、頭ごなしに押さえつけるのもどうかの」
「……」
「そもそもお前さんら、威張り散らすために教師になったのか? え? 子どもはバカかも知れんが、教師を鋭く見抜くぞ。そんな不遜を晒してみい、子どもは反発するだけで、どんな言葉だって届かん。もし恐怖や権威で言うことを聞かせて、それを“指導力”と勘違いするなら、今すぐ辞めろ」
教師らは全員渋い顔で、目を逸らしていた。まるで叱られた子どものように。俺らには知る由もないが、超ベテラン教師の言葉1つ1つに、経験と人徳が反映されていた。ホーキンス博士という人物を知る教師たちは、それを重く受け止めていた。
「お言葉は大変心に沁み入りました。ですが生徒指導部の――」
「ワシも生徒指導部ぞ? お前さん忘れとるかも知れんが」
「うっ……」
ここでホーキンス博士は俺らの方を向いてウィンクをした。
「分掌部会には一度も出たことないがの。この2人には、ワシからちゃ〜んと言っておく。だから老人の面子を立ててくれい。この通りじゃ」
ここまで言われると、もはや主事たちは白旗を上げざる得なかった。箱と俺と氏を置いてスゴスゴと去っていく他、選択肢はなかった。
「………………わかりました。では先生から、ご指導よろしくお願いします」
「ほれ。ちっとは落ち着くんだぞ?」
「あ、ありがとうございます……」
「うむ」
箱を渡した後、博士はヒョコヒョコと去っていった。
呆気にとられた。どう足掻いてもダメだと諦めた時に、ヒーローの如く現れて、主事らを蹴散らして去っていく老先生。
「一体何者なんだ……?」
「あら、先生を知らない?」
「知るも何も、今まで関わりなかったから」
「ウチの最古参OB、バークレー大学、化学大学院首席卒業でシニアフェロー、ウルフェンスタイン化学賞を筆頭に幾つかを受賞、米国の原子力政策にも参画した人」
「は⁉︎ そんなすげー人なの? なんでこんな所に?」
「自宅の庭に、好奇心でミニ原子炉作って、FBIに逮捕された。強制送還」
世の中って広いんだな。桜カレンより危ない人がいたなんてよ……。
「そらヒラ教師はペコペコするわ。同じ学問を教えるとて、次元が違う」
「けど先生は、威張りくさったり、知識ひけらかさない。身なりはなんとかして欲しいけど……」
確かに。あの“実験失敗ヘアスタイル”は寝癖だろうが、毎日形が異なって凄まじい。しかも、さっきも白衣のボタンを掛け違えていた。
「お、小早川クン」
向こうで小さくなった天才がふと向いた。
「一昨日のあの問題は、微小時間Δtをよく考えてみい。交流が50Hzの東日本は1/25sじゃが、西日本は60Hzの1/30sぞ?」
「はい」
俺には訳の分からぬことだったが、氏は敬愛の眼差しで見返していた。
「やよ、あれなん宮どのに羿どのにござーい!」
「シン! サミー!」
「おー生きてんじゃん」
ここで、悪党3ヒロインが俺らの所に駆けつけた。
「アンタ何やらかしたん? 急にアラーム鳴ってビビったんだけど」
「実はな、云々というわけだ」
メグと小早川氏との間には、また微妙な空気が醸し出された。普通だったら、メグはパートナーに一目散に駆けつけるからな。お互い目線を合わせて、ぎこちない顔をする。きっとあの喧嘩以来、何も言葉を交わしていない。
手持ちぶさの小早川氏は、箱をインタラクトした。
「高速サイラトロン、緑柱石ベリル、純ウラニウム金属、トチリウム発光キーホルダー、方ソーダ石、アクアマリン結晶、RTG放射性同位体熱電発電装置の部品……ほか多数。ヘアクリップとイアリングも回収」
“お住いの地域では現在ご利用いただけません”的アイテムあるじゃん。もう公安が没収しろ。小早川氏は1つ1つ物品を確かめていく。すると――
「「あ……っ」」
メグと氏は同時に声を出した。
通販で買ったような安っぽく派手な指輪だった。ただ2つある。氏は無言で、メグに1つ渡す。
「……」
お互い恥じらって、無言だった。なんなんだ?
「BFF or DIE」
メグが刻印さられた文字を読む。
「ビーフ?」
「ちゃう。“Best Firend Forever”ん略。“ズッ友か死か”て意味ね。あんね、こんリング、サミーとお揃いば買うたと。いつやった? 入学した時やなか?」
「そう。2人揃って付けていたけど、すぐに没収された」
「ウチはくさ、車弄るけんせんでもよかし、サミーは他にもたくさん持っとるけんね。2人して叱られた後、“あげんかつなくてもズッ友やろ”て笑っとったね」
「存在自体、忘れてた」
「ウチも」
2人はお互い意識する事なく、そのリングを指にはめた。別にレアアイテムじゃないから、魔力が上がったりはしなさそう。ここで辻さんが雪解けの機運を逃さず、2人に聴き納れよと催促する。
「これ、そもじら。今や友垣の輪も着装した故、諍いは畢りにて、手打ちぞありなむ。宮どののとびらひかえりみけるぞ?」
「うん。ミーガン。あれから貴女の気持ちをよく考えてた。自分、レポートの成果ばかり考えて、周りが見えてなかった。大宮の切り捨て、もし自分されたら、やっぱ悲しい」
「ウチもごめん。あんたん好きな化学ば邪魔して、子どもやった」
「自分は友だち少ないから、あれから誰とも話してない。1人は慣れてる、けどミーガンがいたからこそ。ミーガンもいなくなったら、寂びしかった。ミーガンが言うこと、自分よく考えなきゃって」
訥々ながらも自分の胸の内をさらけ出す。それでもメグは気にしなかった。そして精一杯のハグをかました。
「そげん言ってくれて、ウチ嬉しか」
「大宮もありがとう。ミーガンと、傷口が浅い内に修復してくれて。自分強がってた」
「俺は何もやってねーよ。礼なら博士と先輩にしとけ」
友情の輪というかなり御都合主義的アイテムで、荒っぽい畳み方になっちまったが、まあ大団円と言うことで不問にしてくれ。俺、というか小早川氏も、箱にそんなアイテムがあるとは考えてもいなかった。
「ほ。“悲しみ尽きて楽しみ来る”とはこれぞ。いや倒かの?」
!実績解除!ノーベル友情賞
:解除条件:小早川ささみの問題を解決した。
小早川氏はコホンと咳払いすると、みんなを見る。
「じゃみんな、大宮の前に並んで」
「あ、せやね」
「ほ、これはしたり。失念しておった」
「うっし!」
よくわからずにいると、ヒロイン4人は俺の目前で横一列に並んだ。
「なにミッションリザルト画面っぽいことを? もしかして遠征のを今更やんの?」
「これ決めんと終わった気にならんやろ?」
「ハイチーズ!」(ビクトリームーブ)
=====Misson Status=====
COMPLETED!
小早川ささみ(スナイパー):Lv.12
XP:+164(Level up!)Frag:51 Revive:4 Down:2
報酬:各種没収品
桜カレン(アサルト):Lv.14
XP:+221 Kill:388 Revive:1 Down:2
報酬:スチールギフト500円券
ミーガンRメイヤー(エンジニア):Lv.12
XP:+127 Kill:209 Revive:0 Down:1
報酬:エナジードリンク
辻 のぞみ(コバートオプス):Lv.10
XP:+111(Level up!) Kill:189 Revive:0 Down:3
報酬:イカスミソース
「イカスミwwwwww」
「辻、希望ギフトの回答なかった。だから自分で選んだ」
「……有り難きこと。妾は今、わ御前との友情を身に染みておりまする」
この上ない呆れ顔で、皮肉たっぷりに詰った。
「なん? イカスミ美味かやん? なんがいかんと?」
メグにはわからないようだったが、カレンは爆笑していた。
「自分の報酬、ハバディウムだったら最高だった」
「それはしょーがねーだろ? ま、大学に行ったらまた採掘しに行け」
「その時は許可を取ってな?」
通りすがりの校長が、悪戯っぽい表情で口を挟んできた。
俺と小早川氏は、顔を見合わせて驚いたが、すぐに笑顔があふれ出た。
初めて見る微笑だった。
ここまで読んでくれてありがとうございました。ちょっと取材をしてできるだけその資料を生かそうとしたので、イベント部分がはるかに多くなりました。後悔はしてませんが、後半が駆け足で無理やり畳む結果に。次のエピソードは構成だけ考えてます。とりあえずこの注を仕上げるまで待ってください。