【e1m9】キャプチャーザフラッグがやりたいけど
カレンが大宮を腕っ節で痛めつけるシーンがありますが、その描写をどの程度にすればいいのか悩ましいです。あまり詳しく書き連ねると、コミカルっぽさが無くなって、カレンが単に酷い奴になってしまう。逆にあっさりにするとイマイチ物足りない。パンツァーファウストや銃火器でいっきにフラグする分にはそう感じないのですが。
「遅いっ!」
掃除区域である体育館に入った俺は、残響を伴った一喝を食らった。また嫌な予感がする……。よく見ると、A組も混ざって談笑していた。連中の担当って武道館じゃなかったか? どうしてこんな所に……?
「早く来て!」
カレンが追い打ちをかけた。つか、その態度マジで止めてくれないかな。公衆の面前で叱られる子どもみたいに目立ってしょうがない。
「へいへい参りましたよ。なんでございましょー?」
「今からCTFやるからっ!」
「……はぁああ⁉︎」
「CTFというのは、キャプチャー・ザ・フラッグの略で、マップ中央に置かれた旗を自軍の陣――」
親切にも鹿島が補足説明を挟んだが、それを遮る。
「いや知ってる。お前さ、今何の時間か知ってんの?」
「アンタの目は節穴なの? 十分綺麗じゃん!」
床を見ろと言わんばかりに片手を広げた。最近業者のメンテがあったので、鏡面反射するほど美しい。キラキラとサウンドエフェクトが聞こえてきそうだ。俺はわざと深くため息をついた。
「だからと言って、掃除をしない理由にはならんだろ?」
「なるっ!」
「カレェン。これだけ綺麗だと、少し手を抜こうかとは思う。けど、どうやったらキャプチャー・ザ・フラッグをやろうという発想が出てくるかね?」
「カーッ! どーしてアンタは『CTFやろうよ!』『お、そうだな。やろう!』ってストレートにいかないの⁉︎ 理屈なんかいーから、もっとノッてきなさいよ! 楽しければそれでオッケーっしょ?」
「いやです」
Shinichi was neutralized by Karen’s head-butt.
「残念、カレンちゃんやりすぎだって」
「蘇生! プリィィィズ!」
鹿島の蘇生用注射で即座に息を吹き返したが、いまだに頭に星が舞っていて、立ち上がることすらできねぇ。
「シンイチ、アタシどーしてもCTFがプレーしたいの。ご協力お願いできませんかねぇ?」
カレンはしゃがみこんで、俺の顔に異様なほど近づく。
「それとも131種類のスキルショットの方がいい?」
「ちょ……CTFでもTDMでも何でもやるから、それだけは勘弁してくれ!」
こいつ本気だぞ! 物理演算ゲームの人形みたいにメチャクチャにされるのは、絶対に嫌だ。もうね、ヘタレだろうが何だろうが自分の主張を引っ込めざる得ない。意志のない奴と批判されそうだが、先生から指導を食らったほうがマシである。
「ハッ、最初からうなずいてりゃ、痛い目あわずに済んだのにぃ」
「ねぇカレンちゃん……」
鹿島が申し訳なさそうに切り出した。
「体を動かしたい気持ちはわかるけど……唐揚げパン大作戦で目立ってるから、おとなしくしておいたほうがいいんじゃない?」
「そーだぞ。お前は今先生の警戒レベルを上げているのを自覚しろ。しょっぴかれる前に転校するレベルだぞ。あーまじでイテェ……」
「あー大丈夫大丈夫ぅ」
当の本人は、余計なお世話と言わんばかりに大げさに手を振った。
「いつもだったら即指導だけど、今日はまだ何も起こってないから大丈夫で〜す」
「ずいぶん単純な脳みそして―― い゙だい゙あはぁん!」
「えーマイティカレンキックがめり込んで、大宮くんのたうちまわっております……」
丁寧に解説しつつ、鹿島がヘルスパックを渡してくれた。
「イテテ……おい。詳細は?」
「ハァ?」
「だぁかぁらぁ、CTFやるんだろ? マップ、参加人数、得点上限、制限時間、ミューテイターを教えろって言ってんの!」
「……今から考える」
あ き れ た……これだけ長々とやりとりして、何も考えていなかったのかよ。
「キャレン、それに旗はどげんすっと? 持ってこんといかんやろ?」
“かたる”気満々のメグが問いかけた。先ほどの唐揚げパンウォーフェアで、BMPに乗っていたエンジニアだ。
「それなっ! アタシも今思った」
これなんだよな。段取りとか準備とか何も考えずに行動を起こするんだよ、このバカは。
「だったらマジでやめようぜ……」
「ヤダ!」
「じゃどーすんだよ?」
「アンタ取ってきて!」
「ハァ〜⁉︎」
「いい? 校旗は校長机の隣にあるから、速やかに入手すること。ステルスでもラウドでも構わない」
俺の視野に、ミッション目標とそのマーカーポイントが設定された。
「いやいやいや、キャンセルだ、キャンセル! んな馬鹿げたことやってられるか!」
「シン! C2とTNTとどっちがよか?」
「いらん! その物騒なものをしまってくれ!」
屈託のない笑顔で爆破物を差し出すメグを抑え、俺はカレンに申し立てた。
「企画したテメーが取ってこい!」
「アタシ、ステルス無理!」
そうでした。こいつにステルスプレーを期待するほど愚かなものはない。例えるなら……すまん、それに相当する例えが見つからん。こいつが某潜入ゲームをプレーすると、開始15秒以内でデューティーコールズと化すからな。敵を全滅させるまで銃声と警報が鳴り止まない。そんなラフプレーを、今の状況下、しかも校長に対して行ったら?
「……」
「あーはいはい、そう言うならわっかりましたぁ! ステルスの“神”と呼ばれたアタシが、華麗に取ってこりゃいーんでしょ? ラクショーよラクショー!」
開き直った態度で、俺を小馬鹿にする。そしてパンツァーファウストを取り出した。
「大宮くん……」
「知るか!」
「1分で戻る! みんなウォーミングアップしてて!」
発射筒を握りしめ、ドシドシと出入り口の方に歩いていくカレンを、みんなは固唾を飲んで見守っていた。
「ねぇ……」
鹿島は俺の学ランを引っ張った。こいつのいわんとすることはわかる。カレンの奴本気で校長室に突入するぞ。俺を試してやろうとか、そんな回りくどいことをするタマじゃねーからな。どうする……どうする? 彼女が体育館の入り口に差し掛かり、角を曲がろうとした。
「おいっ!」
ここばかりは譲らねぇと思ったんだけど、なぜかこうなっちゃうんだよなぁ……。
今回も読んでくれてありがとうございます。