【e4m14】CO
一応今回のイベント部分はほぼ書き終わりましたが、まだ加筆修正したい部分があるので、できた部分から投稿していきます。
「……うぅ」
真っ暗な中、流水音だけが聞こえていた。ぼんやり意識を取り戻すと、散水管が破裂、土石流になっている。電気機関車は横倒しになって、火を吹いていた。
金縛りにあったような心地だ。足腰に力が入らない。それに息苦しい。
「あいつらは……?」
まあ言うまでもない。一帯大爆発で、敵味方全てインスタントフラグだった。よく見ると、全員に赤ゲージが表示されて、それが徐々に減っている。
「やべぇ、これパーマデスなるんじゃね……?」
ガクつく足を支えながら、無理に立ち上がった。酷く頭がぐらつき、酔った心もとない足取りで、小早川氏の元に至る。彼女のリバイブサイダーを取って、野暮ったいヘルメットを外すと、これまた綺麗な寝花顔が露わになった。うっすら紅を塗った色口が、蠱惑なまでに惹きつける。ゲージが減っているにも関わらず、ついうっとり眺めてしまった。
「いかんいかん」
邪念が過ったのを許してほしい。震える手で蓋を回し、彼女の顔にじゃぶじゃぶサイダーをぶっかける。
「……うん」
これまたまろい声だ。こんな才気溢れて色薫る女子って、そうそういねーよな……。
「おい」
「ヘルメット」
「あ?」
「はやく」
うっすら瞳を開けて訴える。震える手を挙げると、干渉式ガス検定器を握っていて、炭酸ガスの指針が振り切れていた。
「炭酸ガス……CO……一酸化炭素⁉︎」
事の重大さを今理解し、すぐにヘルメットで密閉した。プシューとハズマットアーマーから酸素が供給される。俺は今NPC扱いなので、そのような環境ハザードは影響しないが、
「どうりで息苦しいはずだ……」
「みんな危ない。中毒になる」
彼女は瀕死ながら立ち上がる。これ残存酸素ゲージだったか。顔を露出してるメグと辻さんの減りが特にはやい。といってもどこに酸素が?
ほうほうの態でメグに寄り、リバイブサイダーを顔にぶっかけてやる。
「ARRRRH! Need AIR……!」
酸欠に苦しむメグ。けど、俺にはどうしようもない。COが充満する中、人工呼吸なんて意味あるのか? インベントリーを見ても役に立つのは――
「あっ! ガスマスク持ってたわ!」
なんという僥倖! 俺の実験レポートで、塩おむすびを作った時の物だった。すぐにメグに被せる。“一酸化炭素対応濾過器付”と書いてあったので問題ない。小早川氏も、同じく実験で使ったマスクを辻さんに装着させていた。さてカレンだが……。
「うおおおお……! 息できねぇ……! 酸素くれぇ! 死ぬぅ!!!!」
と絶え絶えに絶叫、貴重な酸素をかき集めて浪費しとるわ。こんな間際でもバカを忘れず、もはや感心するね。
「これを」
小早川氏が差し出したのは、救護用圧縮酸素式呼吸器(川崎9型)……だった。
「圧縮酸素肺力循環式(温度低下注意)。使用は、静止3〜6時間・作業1〜2時間、酸素量110ℓ、充填圧力200kg/㎠……マニュアルないから、使い方わからん。どうするんだ?」
「インタラクトキー長押し」
「なるほどw」
ぐったりしながらも、冗談飛ばすのな。
コンバットアーマーの背中に、酸素ボンベだけを差し込む。たちまち、カレンの顔が和らいでいった。
「めっちゃ痛ぇ……」
全員蘇生したものの、残存ヘルスはごくわずかで、危機的状況には変わりなかった。ここで敵が襲ってきたら完全におしまいだ。
ふと物音がしたのでそちらを見ると、1匹のシャコがよろめいて、そのまま絶命した。なるほど、奴らも酸欠か。敵にはそんな制限はない仕様かと思ったぞ。
「大宮」
「あん?」
「現在地、スキャナーで見て」
「俺が見てもわかんねーんだが」
「自分しんどい」
そうか。カレンを蘇生させのに全力を使って、糸の切れた人形のようにぐったりしている。彼女からスキャナーをルートして、マップを開く。
「……バグってね? 現在地がマップ端から途切れてら」
「ありえない。それは最終版」
「けど確かに切れてる」
「なら計算して」
「できませんwwww」
ハァ、とヘルメット越しに嘆息つく。バイザーの下にはジト目なんだろうな。
「あの電車、発車後30秒かけて、最高速度30㎞/h、つまり約秒速8.3m/sになった。加速度30sの8.3m/s−0m/s、0.27666667で、約0.28m/s2。発車時刻から30秒までの変位x=初速0+、2分の1*0.28*30の2乗で、126m。その後、粉塵爆破まで秒速約8.3m/sの等速度運動を5分11秒続けた。8.3m/s*311s=2,581.3m。126m+2,581.3m=2,707.3m」
「それをそらでできるのがすごい」
「深度ログ、ほとんど変化なし。駅番号ロー7番から、半径2,707.3mの円を書き込む」
彼女の言うまま、慣れない手つきで操作し、図形を入れ込んだ。
「出発方向を0°とし、分岐3回あった。1回目49秒後に32°、2分22秒に355°、4分きっかりに2°」
「えっと、126mに8.3m/s*19sで155.7mを足して283.7mの時点で32°にベクトルを変えて、同じく1,055.6mと1,869mでまた355と2に変更……大体この辺りか?」
「ピン刺しして。駅番号ニー3番まで」
「直線で2,005mだな。けど、それ以上歩くはず」
「つか、ピンクの通信が切れてね?」
カレンと辻さんもいつの間にか立ち上がっていた。多分ヘルスが20程度まで自動回復したのだろう。
「信号が弱い」
メグは、倒れたローダーをインタラクトして、直立させていた。便利な機能だよな。あそこに“偶然”チェーンブロックがあるから、そっちでやった方がリアリティあるぞ?
「とりあえず進む。もう引き返せない」
小早川氏もゆっくり立ち上がった。電気機関車は、俺らの後方に倒れているからな。
「はぁ。段差降りと障害物は、典型的な“元来た道を引き変えさせない”手段だな」
「違う違う。鉱山じゃ、上から岩が落ちてくるやつっしょ?」
カレンと“あるある”ネタを出し合っていると、爆破の余波で、天盤から盛んに岩の塊がバラバラと落ちてきて、あっという間に後ろを塞いでしまった。
「なああん。グリッチで登れるやろか思っとったつに……いらんこつ言うけん」
引き返して予定ルートを辿る道は途絶え、前に進むしかなくなった。
次も近日に投稿できますので、よろしくお願いします。