【e4m11】掘進
とりあえず、前回ここまで書く予定だった分です。
(鹿島のモノマネ)前回までのあらすじ。我らが主人公の大m――
「そのウザいものまね止めっ! ほら始まったぞっ! なんとかしろっ!」
「…………すまん、何も浮かばんかったわ」
「ぶぅあっかじゃないのアンタ!!!」
「さては、闕怠にこそござんなれ」
雄鶏が耳元で鳴き散らかす方がマシレベルの声に対し、辻さんはいと冷やき笑を湛えて、俺を嘲った。
なんだかな、いつものコメディ調になりそうな流れで、危機的状況を忘れつつあるが、シャコの大群はもうギリギリまで寄せていた。ヒロインらの武運は、息絶え絶えに消え失せようとしていた。
「もーよか! シンに華ばと思っとったばってん……ウチやる!」
ローダーを岩壁に向けたメグは、ドリルを起動した! あの耳障りな高音が、一帯を響もし、数多の鋼鉄刃付きドラムが回転する。
「Watch n’ learn!」
切削部をブチ当てると、岩盤が削ぎ落ち砂塵が噴出する。
一体どこへ……あっ! 掘進先が、ピン刺しの保安監督室だった。なるほど、直通孔を穿つのか!
「COVER ME, LADS!」
トンネルから援護求めるメグ。辻さん、カレン、小早川氏と次々に入っていく。
「燃料足りんのアンタ⁉︎」
「知らんっ!」
どんどん上方に掘り進めるメグは、自棄っぱちに答える。つまり、目的地までにドリルが止まれば、この連絡坑はそのまま墓穴というわけだ。速度優先でラフに突き進むため、地形が荒く、かさばるアーマーの登坂には、しんどそうだ。
「通れねーよココ!」
「半命の屈み撥ねよ!」
「Watch your back!」
「やよ、此れ限りぞ」
当然、俺らが自作トンネルに逃げれば、シャコは追ってくる。辻さんが神経なんとかグレネードを、入り口に向かって転ばせた。鞠のように落ちていき、電磁波を放って破裂。敵は思うように動けず、大渋滞が発生。これで少しは時間を稼げるはず。
ローダーのドリルは赤熱し、粉塵と蒸気が噴出していた。けど流石メグだ。オーバーヒートさせるヘマなんかしない。
電磁フィールドが消えた。ズリズリと入ってくるシャコ。これは……仮にメグが十分な燃料を持っていたとしても、間に合わないんじゃね?
「インカミーン! ちくしょう、アタシが――え?」
体を張ってローダーを守ろうとしたカレンを制したのは、小早川氏だった。
「自分に任せて」
「つってもアンタ……」
「いいから」
そう言われると、カレンはメグと辻さんの後についた。
気色悪いな。トンネルの至る所で虫の甲殻がひしめき合って、潮が満ちるように押し昇ってくる。小早川氏も“キモい”と思っているのか? それとも“学術的に興味深い”だろうか? いずれにせよ、整った顔はバイザーの下に秘めていた。
いよいよ接敵する間合い、じっと眺めていた彼女は、しゃがみ、左腕をライトニングボルターの台座として据えた。
スコープとアーマーのコンピュータは連動しているのだろう。といっても、この狭隘なトンネルに数多蠢く大群だ。寝ぼけながら撃ったって、外すことはない。
青白い閃光が駆け抜け、落雷の破裂音が1発! 不快な臭いが充満する。一直線にシャコが焼け焦げ、バチバチ放電していた。それだけではない、天井や壁の奴らも感電して、ボロボロと甲殻が崩れ落ちている。
「“ハバディウムに通電すると、その基本的な構造配列が変わり、正電荷を持ったイオンを結合したり、切り離したりする”」
小早川氏は、遠征計画書の一節を暗唱した。なるほど、ハバディウムを含有すると“仮定する”シャコに電気伝導すると、壊死するのか……。もっと知性に欠ける誰かさん風に言うと――
「電気弱点なん⁉︎」
そういうことだ。
「うっしゃ! 死体が残ってれば、後ろは邪魔され――っておい! すぐ消えんの⁉︎ トンネルがら空きじゃん! アタシは“死体すく消えろ”派だけど、今は残ってくれー!!!」
俺の中の読者さん、コイツの言っている意味わかるかね……? 昔物理演算が流行り出した頃は、敵の死体にも接触判定があって、通行の邪魔だったんだ。カレンの描写通り、すぐにスッキリ綺麗になったトンネルの入り口から、すぐにシャコのおかわりがやって来た!
「ねぇミーガン、貴女の掘った土はどこに消えた? リアルなら展開した土に、自分ら埋もれてる」
「どうでもいいだろそんなんwww」
しょーもないことをのたまいながら、彼女はゆっくりトリガーを引いた。命中率を上げる射撃法が、身に染みてやんの。某FPSで“トゥルートリガーシステム”として初採用していたが、ラノベでは、こいつなんじゃね?
「はぇ〜メッチャつえーじゃんソレ……」
カレンが羨ましそうな目つきで、ボルターと死屍累々を交互に眺める。
「連射系より単発系がダメージ高いのは常識だろ? ましてボルトアクションライフルだ。1発の威力が最高の調整がされているはず」
「中性子照射MOD、買って良かった」
「第3波、襲来ぞっ!」
「撃ちまくれっ!」
小早川氏は、手慣れた手つきでボルトを開ける。中から薬莢じゃなく、切れたヒューズが飛び出してきた。
「弾があまりない」
「はいぃい⁉︎」
「自分のギアロードキャパは、調査機器を優先。だから、携帯弾薬が犠牲になってる」
頓狂な声を上げるカレンに、淡々と応える氏。なるほどね。だから今の今までライトニングボルターを温存していたのか。けど、そういうのはミッション開始時に伝えておこうぜ?
「あとどんくらい?」
パァンと雷鳴1発後に……。
「終了」
「いいぃい⁉︎」
なんてこったい、てことは……全員すっからかんかよ!
「メグ⁉︎」
「わかっとーけん、黙っとって! OH XXXX! なんか熱ん篭ると早かち思ったら、クーラントん漏れとーやん! あ、今ん言葉は編集しといて♪」
“カラフル”な言葉を、うっかり出したメグ。目標距離は、あと15mを切っている。ゴリゴリと音を立て、岩石を撒き散らしながら切り崩していく。
「クッソ、また来やがった!」
「無限湧きじゃんコレェ!」
そうだろう。至る所を這いながら、トンネルを登ってくるシャコの群。氏と交代で、カレンが後方に打って出た。もちろん弾1発もないので、殴って防ぐのだ。
「櫻どのっ!」
辻さんがヨキ(斧)を投げ渡した。FPSネタ的にはチェーンソーだろうが、贅沢言ってられない。
先頭のシャコが接敵。カレンから仕掛けた。シャコは攻撃する際、先端の刃を目標に据えるため、尾を逆立て、わずかに停止する習性がある。彼女は、そこへ縦一文字に食い込ませた。すかさず頭部をストンプし、その後胴を蹴って蹴り落とす。
壁に張り付いていたのは、背中に突き刺し、そのまま別の奴に振りかぶって、ぶん投げる。
「IT’s DONE, PEOPLE!」
「開きたり、開きたりぃ!」
両名が保安監督室に這い上がり、辻さんが俺に手を伸ばす。それにインタラクトして、彼女の手を固く握った。小早川氏も。
「でさ……穴開けたのはいいんだけど、どうやって塞ぐん?」
「あ……」
ヒロインらは顔を見合わせた。なるほど、そこまで考えてなかったわけね。とりあえず、バレルや木箱を穴に投げ込むが、ただ落ちていくだけで当然埋まりはしない。メグがローダーから飛び降りた。
「ウェルダーとか落ちとらんやろか?」
「そは、扉能くとも穴能わずよ」
「棚を倒して、塞ぐ?」
「逃走型ホラーじゃないからダメだな……」
穴の向こうでは、必死でカレンが斧を振り回している。頭を掻きながら、途方にくれる。“ゲームで困ったらどうする? 答えは、周囲をよく観察する”だ。そうすると、ダイナマイトのマークが描かれた箱が目に入った……。
「あ、なんつー御都合主義」
まるでデューティーコールで、敵戦車が出現後、偶然RPGが転がっているシーンだ。すぐに駆け寄って、蓋を開けると、発破が残っていた。俺はその1つを取り出して、メグにパス。彼女は小早川氏にパス。氏は穴付近にいた辻さんにバケツリレー。
「あいや、手に負えぬ愚か者であったが、今生の別れとなれば、涙も垂れますな……」
「いやいや違うからなwww」
辻さんがマイトを火をつけ、穴下に放下する間、俺は残り全部を抱えてそっちに向かった。
「ブンダバー! ダイナマイトあんの⁉︎ じゃんじゃん投げて!」
「バカヤロー! 化石になりてーのか! さっさと上がってこい!」
手元の敵を薙ぎ払いながら、カレンは必死で登ってくる。1発目のダイナマイトが轟然一発、鼓膜を破るほどの爆音とともに天盤が落石する!
「ヤベェ。思ったより爆破力あるぞ……って、をいっ!」
辻さんがかなりの数の導火線に火をつけていた。
「お前、カレンを埋めるつもりかっ!」
「げに」
「消せwww」
「一度なりとも焔付き物、いかでか消えん。(流し目で)櫻どのー、いと危のうございまするー(棒)」
スパムのように次々とマイトを投げて、カレンを急き立てる。
「ウッハ! チビッ!」
スタミナをゼィゼィと切らし、這い上がってくるカレン。4人がかりでようやく保安監督室に抱え上げた瞬間――
一気にダイナマイトは破裂、トンネルは一瞬で崩れ去った。中にいたシャコは、岩をかぶってしまった。遠い将来石油になるだろう。
「た、助かった……」
俺は、ペタンと床に座った。
今回も読んでくれてありがとうございます。